医療関連感染情報の季刊誌 Vol.24 No.3 (2020)

多剤耐性アシネトバクター(MDRA)の検出とその後の対応

川村 英樹(鹿児島大学病院 感染制御部)

MDRA の概要

 アシネトバクターは土壌や河川水などの自然環境中に生息する環境菌であり、この菌による感染症の流行は集中治療室の患者やその他の重症患者で起こる。多剤耐性アシネトバクター(multi-drug resistant Acinetobacter;MDRA)は、通常のアシネトバクター感染症の治療に使用する抗菌薬がほとんど耐性となっている株をさし、感染症法における薬剤耐性アシネトバクターは、カルバペネム系、アミノグリコシド系、フルオロキノロン系の抗菌薬全てに耐性を示す株と定義されている。当初は欧米で MDRA が問題となり、近年は中国や韓国、東南アジア諸国でも流行が報告されている。 
 日本での検出状況は、厚生労働省の院内感染対策サーベイランス(Japan Nosocomial Infections Surveillance;JANIS)によると、2018 年に報告されたアシネトバクター分離患者数は 30,903 人、そのうち MDRA 分離患者数は 99 人(0.32%)であり、我が国での検出頻度は少ない。しかし、これまでも集中治療室・救命救急センターを中心に MDRA のアウトブレイクが報告され、その多くは海外で治療歴のある患者を初発例としたものである。

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