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Y’s Letter Vol.4.No.20 Published online:2020.04.21
はじめに
2019年末に中国湖北省武漢市で報告された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)は瞬く間に世界中へと広がり、日本国内でも猛威を振るっています。本感染症の対策の1つとして標準予防策の徹底が重要であり、その一環として手指衛生や環境消毒が実 施されます。有効な消毒薬として次亜塩素酸ナトリウムおよび70%アルコールの使用が推奨されています1)2)。
一方、新型コロナウイルスに対する消毒薬感受性を試験した報告は現在(2020年4月1日現在)のところありません。しかしながら類縁ウイルスを用いて消毒薬感受性を試験したいくつかの報告があります。今回は国内で使用されている消毒薬に関して、コロナウイルス(他のコロナウイルス科に属するウイルスを含む)に対する感受性について述べます。
コロナウイルスの消毒薬感受性
コロナウイルスはエンベロープを有するウイルスであり、消毒薬に対する抵抗性はあまり高くないと考えられます。コロナウイルスの消毒薬感受性についてはヒトコロナウイルス(Human corona virus:HCoV)、イヌコロナウイルス(Canine corona virus:CCV)、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)、およびMERSコロナウイルス(MERS-CoV)に対して検討した報告があります。またコロナウイルス科に属するマウス肝炎ウイルス(Mouse hepatitis virus:MHV)および豚伝染性胃腸炎ウイルス(Transmissible gastroenteritis virus:TGEV)について消毒薬感受性を検討した報告もあります。
浮遊試験による各種消毒薬のコロナウイルスに対する効果3)
浮遊試験(試験管内でウイルスと消毒薬を作用させる方法)による各種消毒薬のコロナウイルスに対する効果を表1に示します。グルタラールはSARSコロナウイルスに対して2.5%、5分間および0.5%、2分間のどちらの条件においても対数減少値(LRV)で>4.0の効果を示したと報告されています4)5)。次亜塩素酸ナトリウムは0.21%、30秒間の作用でMHVに対してLRV≧4.0、0.01%、10分間の作用でMHVに対してLRV2.3~2.8、CCVに対してLRV1.1の効果を示しました6)7)。一方、0.001%の低濃度ではMHVおよびCCVに対して10分間の作用でもLRV1未満の効果しか認められませんでした7)。ポビドンヨードは0.23~7.5%でMERS-CoVまたはSARS-CoVに対して15秒間あるいは1分間の作用でLRV3.8~>5.0の効果がありました4)8)9)。エタノールは78~95%、30秒間の作用でLRV>4.0の効果がありました5)10)11)。また70%、10分間の作用ではMHVに対してLRV>3.9、CCVに対してLRV>3.3の効果がありました7)。イソプロパノールについては70~100%、30秒間の作用でMERS-CoVまたはSARSCoVに対してLRV≧3.3の効果が得られています5)11)。また50%、10分間の作用ではMHV>およびCCV共にLRV>3.7の効果を示しました7)。クロルヘキシジングルコン酸塩は0.02%、10分間の作用でMHVに対してLRV0.7~0.8、CCVに対してLRV0.3の効果でした7)。ベンザルコニウム塩化物は0.2%、10分間の作用でもHCoVに対してLRV0.0とほとんど効果を示さなかった報告がある一方で、0.05%、10分間の作用でMHVおよびCCVに対してLRV>3.7の効果を示した報告もあります7)12)。
表1.浮遊試験による各種消毒薬のコロナウイルスに対する効果(文献3の一部改変)
消毒薬 | 濃度※ | ウイルス | ウイルス株 | 接触時間 | ウイルス不活性化 効果(LRV) |
参考文献 |
---|---|---|---|---|---|---|
グルタラール | 2.5% 0.5% |
SARS-CoV SARS-CoV |
Hanoi FFM-1 |
5分 2分 |
>4.0 >4.0 |
4) 5) |
次亜塩素酸ナトリウム | 0.21% 0.01% 0.01% 0.001% 0.001% |
MHV MHV CCV MHV CCV |
MHV-1 MHV-2, MHV-N I-71 MHV-2, MHV-N I-71 |
30秒 10分 10分 10分 10分 |
≧4.0 2.3-2.8 1.1 0.3-0.6 0.9 |
6) 7) 7) 7) 7) |
ポビドンヨード | 7.5w/v% 4w/v% 1% 1w/v% 0.47% 0.25% 0.23% 0.23% 0.23% |
MERS-CoV MERS-CoV SARS-CoV MERS-CoV SARS-CoV SARS-CoV SARS-CoV SARS-CoV MERS-CoV |
HCoV-EMC/2012 HCoV-EMC/2012 Hanoi HCoV-EMC/2012 Hanoi Hanoi Hanoi FFM-1 HCoV-EMC/2012 |
15秒 15秒 1分 15秒 1分 1分 1分 15秒 15秒 |
4.6 5.0 >4.0 4.3 3.8 >4.0 >4.0 ≧4.4 ≧4.4 |
8) 8) 4) 8) 4) 4) 4) 9) 9) |
エタノール | 95% 85% 80% 80% 78% 70% 70% |
SARS-CoV SARS-CoV SARS-CoV MERS-CoV SARS-CoV MHV CCV |
FFM-1 FFM-1 FFM-1 EMC FFM-1 MHV-2, MHV-N I-71 |
30秒 30秒 30秒 30秒 30秒 10分 10分 |
≧5.5 ≧5.5 ≧4.3 >4.0 ≧5.0 >3.9 >3.3 |
10) 10) 10) 11) 5) 7) 7) |
イソプロパノール | 100% 75% 75% 70% 50% 50% |
SARS-CoV SARS-CoV MERS-CoV SARS-CoV MHV CCV |
FFM-1 FFM-1 EMC FFM-1 MHV-2, MHV-N I-71 |
30秒 30秒 30秒 30秒 10分 10分 |
≧3.3 ≧4.0 ≧4.0 ≧3.3 >3.7 >3.7 |
5) 11) 11) 5) 7) 7) |
クロルヘキシジングルコン酸塩 | 0.02% 0.02% |
MHV CCV |
MHV-2, MHV-N I-71 |
10分 10分 |
0.7-0.8 0.3 |
7) 7) |
ベンザルコニウム塩化物 | 0.2w/v% 0.05% 0.05% |
HCoV MHV CCV |
ATCC VR-759 (strain OC43) MHV-2, MHV-N I-71 |
10分 10分 10分 |
0.0 >3.7 >3.7 |
12) 7) 7) |
※濃度表記については参考文献に準じて記載しています。重量体積%(w/v%)または体積%(vol%, v/v%)などの表記がある場合のみ上記の表に示しています。
キャリア試験による各種消毒薬のコロナウイルスに対する効果3)
キャリア試験(ステンレス鋼などのキャリアにウイルス液を滴下し、乾燥させた後に消毒薬を作用させる方法*)による各種消毒薬のコロナウイルスに対する効果を表2に示します。グルタラールは2%、1分間の作用でHCoVに対してLRV>3.0の効果を示しています13)。フタラールは0.55%、1分間の作用でTGEVに対してLRV2.3、MHVに対してLRV1.7の効果を示しています14)**。
表2.キャリア試験による各種消毒薬のコロナウイルスに対する効果(文献3の一部改変)
消毒薬 | 濃度※ | ウイルス | ウイルス株 | 有機物 | 接触時間 | ウイルス不活性化 効果(LRV) |
参考文献 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
グルタラール | 2% | HCoV | 229E | 5%血清 | 1分 | >3.0 | 13) |
フタラール | 0.55% 0.55% |
TGEV MHV |
不明 不明 |
無 無 |
1分 1分 |
2.3 1.7 |
14) 14) |
次亜塩素酸ナトリウム | 0.5% 0.5% 0.1% 0.06w/v% 0.06w/v% 0.01% |
HCoV HCoV HCoV TGEV MHV HCoV |
229E 229E 229E 不明 不明 229E |
5%血清 5%有機土壌 5%血清 無 無 5%血清 |
1分 10分 1分 1分 1分 1分 |
>3.0 3.00-≧3.25 >3.0 0.4 0.6 <3.0 |
13) 15) 13) 14) 14) 13) |
エタノール | 71% 71% 70% 70% 70% 62% 62% |
TGEV MHV TGEV MHV HCoV TGEV MHV |
不明 不明 不明 不明 229E 不明 不明 |
無 無 無 無 5%血清 無 無 |
1分 1分 1分 1分 1分 1分 1分 |
3.5 2.0 3.2 3.9 >3.0 4.0 2.7 |
14) 14) 14) 14) 13) 14) 14) |
ベンザルコニウム塩化物 | 0.04% | HCoV | 229E | 5%血清 | 1分 | <3.0 | 13) |
※濃度表記については参考文献に準じて記載しています。重量体積%(w/v%)または体積%(vol%、v/v%)などの表記がある場合のみ上記の表に示しています。
次亜塩素酸ナトリウムはHCoVに対して0.5%および0.1%、1分間の作用でLRV>3.0の効果を示し、また別の報告では0.5%、10分間の作用でLRV3.00~≧3.25の効果を示しています13)15)。0.06%、1分間の作用ではTGEVおよびMHVに対してそれぞれLRV0.4および 0.6の効果でした14)。0.01%、1分間ではHCoVに対してLRV<3.0の効果であったと評価されています13)***。エタノールは62~71%、1分間の作用でHCoV、TGEVまたはMHVに対して2.0~>4.0の効果を示しています13)14)。ベンザルコニウム塩化物は0.04%、1分間の作用でHCoVに対してLRV<3.0と評価されています13)***。
*キャリア試験ではキャリアにウイルス液を滴下し乾燥後に消毒薬を作用させており、過酷な条件下で消毒薬の効果を判定するために、浮遊試験よりも消毒効果が低くなる傾向があります。
**フタラールの消毒効果について、0.55%1分間の条件ではTGEVに対してLRV2.3、MHVに対してLRV1.7と高い効果を認めませんでしたが、キャリア試験である事および本製剤の使用方法は器具を5分以上浸漬させる方法である事を考慮する必要があります。
***この論文では効果判定としてLRV3を超えるか否かで判定しているため、詳細なウイルス不活性化効果に関するデータの記載がありません。
おわりに
現時点(2020年4月1日現在)で新型コロナウイルスに対して消毒薬感受性を検討した報告はありませんが、コロナウイルスはエンベロープを有するウイルスであり、消毒薬抵抗性は高くないと推察できます。コロナウイルス科の類縁ウイルスも含めたコロナウイルスの消毒薬感受性から推察すると高水準消毒薬(グルタラール、フタラール)および中水準消毒薬(次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、エタノール、イソプロパノール)は有効であると考えられます。一方で低水準消毒薬(クロルヘキシジングルコン酸塩、ベンザルコニウム塩化物)については十分な効果が得られない可能性があります。
本データは新型コロナウイルスではなく類縁ウイルスに対する消毒薬感受性を評価したものですが、消毒薬を選択する際の参考になると考えられます。
<参考文献>
1.国立感染症研究所:新型コロナウイルス感染症に対する感染管理 改訂2020 年3月19日
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5.Rabenau HF, Cinatl J, Morgenstern B, et al: Stability and inactivation of SARS coronavirus. Med Microbiol Immunol 2005; 194: 1-6.
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9.Eggers M, Koburger-Janssen T, Eickmann M, et al: In Vitro Bactericidal and Virucidal Efficacy of Povi done-Iodine Gargle/Mouthwash Against Respiratory and Oral Tract Pathogens. Infect Dis Ther 2018; 7: 249-259.
10.Rabenau HF, Kampf G, Cinatl J, et al: Efficacy of various disinfectants against SARS coronavirus. J Hosp Infect 2005; 61: 107-111.
11.Siddharta A, Pfaender S, Vielle NJ, et al: Virucidal Activity of World Health Organization-Recommended Formulations Against Enveloped Viruses, Including Zika, Ebola, and Emerging Coronaviruses. J Infect Dis 2017; 215: 902-906.
12.Wood A, Payne D: The action of three antiseptics/ disinfectants against enveloped and non-enveloped viruses. J Hosp Infect 1998; 38: 283-295.
13.Sattar SA, Springthorpe VS, Karim Y, et al: Chemical disinfection of non-porous inanimate surfaces experimentally contaminated with four human pathogenic viruses. Epidemiol Infect 1989; 102: 493-505.
14.Hulkower RL, Casanova LM, Rutala WA, et al: Inactivation of surrogate coronaviruses on hard surfaces by health care germicides. Am J Infect Control 2011; 39: 401-407.
15.Tyan K, Kang J, Jin K, et al: Evaluation of the antimicrobial efficacy and skin safety of a novel color additive in combination with chlorine disinfectants. Am J Infect Control 2018; 46: 1254-1261.