多剤耐性で、しかもバンコマイシン耐性enterococci(VRE)の検出頻度が増加し、重大な院内感染病原菌となっている。1991年2月~1992年7月にVREが検出された53人の患者(A群)の76検体中、E.faeciumが63検体、E.faeciumは13検体であった。28人は集中治療室入院時に検出された。35人はVRE検出時または検出前14日以内に下痢を経験し、このうち15人はClostridium difficile toxin(CDT)陽性便であった。9人のVRE菌血症患者はVRE検出6週間以内に全員死亡した。また、1992年8月~10月に41人の患者(B群)でCDT検査が行われ、そのときの便289検体中53検体(18.3%)にVREが検出された。
一方、抗生物質などに起因しない15人の下痢患者の腸病原菌を同定した便と、患者と接触のない25人の職員の便からは、VREは検出されなかった。A、B両群のVRE検出前に使用された主な抗生物質は、セファロスポリン類62人、バンコマイシン54人であった。抗生物質感受性試験ではE.faeciumの方がE.faecalisのそれに比し、より耐性であり、バンコマイシンのMICsは両菌ともに32~256μg/ml以上であった。また、E.faeciumの感受性はクロラムフェニコール96.2%、ドキシサイクリン91.6%であり、E.faecalisはドキシサイクリン94.4%であった。これらはアミノグリコシド類に高度耐性であり、β-ラクタマーゼ産生はみられなかった。DNA profileでは、E.faeciumで15の異なったクローンが、E.faecalisで3つが検出された。また、1992年7月にVRE検出数が増加したため、1992年8月、C.difficileによる下痢の第一選択薬にメトロニダゾールを使用することとし、経口バンコマイシンはメトロニダゾールに耐えられない患者や、治療に失敗した患者にのみ使用し、感染症専門医の許可を必要とした。5ヶ月後、VRE検出数は21件/月から平均12件/月に減少した。バンコマイシンやその他の広域スペクトラム抗生物質の容易な使用への警鐘と、これら耐性病原菌による院内感染を防ぐために、厳密な感染予防法の確立を訴えたい。(訳:豊田禎子)
Carlisle Vol.1 No.1 p8-10 January 1996
医療関連感染対策 情報季刊誌
バンコマイシン耐性enterococciへの挑戦:臨床、疫学的研究
Lam,S.,Singer,C.,Tucci,V.etal. The challenge of vancomycinresistant enterrococci:A clinical and epidemiologic study. Am.J.infect.Control,23:170-180,1995

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