感染対策情報レター

米国の新しい手指衛生ガイドライン

2002年10月25日、米国CDCの医療感染管理実務諮問委員会(HICPAC)と関連学会は「医療機関における手指衛生のためのガイドライン」を公表しました1)。このガイドラインは1985年CDCの「手洗いと病院環境管理ガイドライン」の手洗いに関する部分と1996年APICの「手洗いと手指消毒ガイドライン」に替わる最新のガイドラインです。効果的で、手荒れの問題が少なく、医療従事者による手指消毒のコンプライアンス(遵守状況)を高めやすい手洗い法として、アルコールを基剤とする速乾性手指消毒薬を高く評価し、それを医療機関における手指衛生の基本として明示したことが特に注目されます。以下、その勧告の要点を簡単に紹介します。

1. 手洗いおよび手指消毒

1) 手指が目に見えて汚れている場合、血液、体液などで汚染されている場合には、非抗菌性石けん(普通の固形石けんなど)または抗菌性石けん(消毒薬配合スクラブ)と流水で手を洗う。炭疽菌が疑われる場合にも同様に手を洗う。

2) 手指が目に見えて汚れていない場合、以下(1)~(8)の場面において、速乾性手指消毒薬を日常的に用い手指消毒する。代わりに抗菌性石けんと流水で手を洗っても良い。

(1)患者に直接接触する前
(2)中心静脈カテーテル挿入時に滅菌手袋を着用する前
(3)導尿カテーテル、末梢静脈カテーテルなど手術的手技を要しない侵襲的器具を挿入する前
(4)患者の健常皮膚に接触した後
(5)体液、排泄物、粘膜、非健常皮膚、創傷被覆に触れた後で目に見える汚染の無い場合
(6)同一患者の汚染部位から清潔部位に移る場合
(7)患者の直接周辺に接触した後
(8)手袋をはずした後

2. 手術時手指消毒

1.指輪、時計、腕輪などをはずし、流水と爪クリーナーで爪の下の汚れをとる。
2.滅菌手袋を着用する前に、持続効果のある抗菌性石けんまたは速乾性手指消毒薬で手指消毒を行う。
3.抗菌性石けんを用いる場合には、通常2~6分間、手と前腕をスクラブする。長時間スクラブする必要は無い
4.速乾性手指消毒薬を用いる場合には、事前に非抗菌性石けんにより手と前腕を洗い完全に乾燥させる。

3. その他

以上の他、手洗い・手指消毒方法の詳細、手指消毒薬の選択、スキンケア、医療従事者の教育と推進策などについて勧告が述べられています。

おわりに

米国では長年流水と石けんによる手洗いが感染対策の基本とされていました。その経緯から考えるとこの新しいガイドラインの制定は米国における大きな転換点を示すものであると思われます。日本においては長年流水設備の不足が問題となっており、以前は問題の多いベースン法による手洗いが普及していましたが、1996年に診療報酬上の施策により速乾性手指消毒薬の配置が一挙に普及しました

今回紹介したガイドラインでも強調されているように、速乾性手指消毒薬を配置すること自体が感染対策なのではなく、配置された消毒薬を用いて手指消毒の必要な場合に消毒を励行すること、つまりコンプライアンスを向上することが最も重要な課題であると思われます。速乾性手指消毒薬は、その殺菌作用の強さのみではなく、手荒れを誘発する頻度や使用のしやすさなどにも重点を置いて総合的に選択することが望ましいと思われます。また速乾性手指消毒薬は、一部のウイルスや真菌などを不活性化・殺滅するのに長時間の接触時間を要し、芽胞に対しては効果が期待できません。また手が有機物で汚染されている場合には効果が減弱します。したがってこれらの微生物を対象とする場合や手指が目に見えて汚れている場合には流水と石けんで十分に手洗いを行うことが必要です2)


<参考>

1.Boyce JM, Pittet D, et al: Guideline for Hand Hygiene in Health-Care Settings. MMWR 2002;51(RR-16):1-45.
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5116.pdf

2.大久保憲監修.消毒薬テキスト.吉田製薬株式会社.
III-1-2)-(1) 手洗い概説
III-1-2)-(2) 衛生的手洗い
III-1-2)-(3) 手術時手洗い


2002.10.28 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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