感染対策情報レター

ウエストナイルウイルスについて

1999年8月にニューヨークにて西半球では初めてウエストナイルウイルス (WNV) による脳炎の患者が発見され1)、8月から9月にかけて59名の入院患者が発生し、そのうち7名が死亡しました2)。1999~2001年に全米で報告された患者数は計149名程度でしたが、2002年には現在までに3,389名を超える患者と201名を超える死亡が報告され、急速に流行が拡大しました3)。アフリカを中心に東半球でのみ見られたWNVが大陸をまたいで米国東海岸に出現し、米国内各地で流行を始めたことは注目すべきであり、日本にもWNVが上陸する可能性について注意が必要です。このような背景から2002年11月1日より、ウエストナイル熱(ウエストナイル脳炎を含む)が感染症予防法の4類感染症(全数把握対象)に追加されています4)

注:(2005年5月14日付記)
2003年以降も米国において流行が継続しています。詳細はCDCまたは国立感染症研究所感染症情報センターの関連サイトを参照ください。
CDC関連サイト
国立感染症研究所感染症情報センター関連サイト

WNVとは

WNVはフラビウイルス科フラビウイルス属に分類されるウエストナイル熱およびウエストナイル脳炎の病因ウイルスです。感染しうる宿主にはヒト、ウマ、トリが知られています。WNVは1937年に北ウガンダの西ナイル地方で初めに発見され、アフリカ、中近東、西アジア、ヨーロッパ、オーストラリアに広がり、最近ではルーマニアやロシア、イスラエルで大流行が起きています。国内での感染症例の報告はまだありません。自然界において、WNVは蚊-トリ-蚊の伝播経路によって維持されており、ヒトへの主な感染経路はウイルスを保有している蚊に刺されることによります5)。なお、同じく蚊を媒介動物(ベクター)とするフラビウイルスである日本脳炎ウイルスは、ワクチン接種の普及した日本ではほとんど流行が見られなくなりましたが、東アジアから南アジアにかけては今も大規模な流行が続いています。

ウエストナイル熱と脳炎

WNVに感染しても約80%は不顕性感染であり症状を発しないで自然治癒しますが、約20%は2~14日(通常は2~6日)の潜伏期間を経てウエストナイル熱の症状を呈します。臨床症状は非特異的な風邪様症状であり、主に突然の発熱 (39℃以上)、頭痛、筋肉痛、時に消化器症状や湿疹も現れます。これらの症状は通常1週間以内で治癒しますが、その後倦怠感が残ることもあります。感染者の1%未満が重篤な症状を呈するウエストナイル脳炎になり、この脳炎は特に高齢者で多く見られます。致死率は脳炎症例で4~14%との報告があります。脳炎の症状は主に精神状態の変化、嘔吐、昏睡、呼吸不全などであり、ギラン・バレ症候群による急性弛緩性麻痺を生じた症例もあります。治療は特別な方法がなく、現在は対症療法のみとのことです5)6)

WNVの感染経路

WNVはもっぱら蚊によって媒介され、通常、ヒトからヒトへの2次感染は発生しませんが、輸血による伝播7)、子宮内母子感染8)、感染動物解剖中の穿刺事故感染9)が報告されており、また臓器移植10)、母乳11)による伝播の疑いも報告されています。2002年8月28日~10月26日の間、CDCは輸血が関係してWNVに感染した可能性のある47人の患者の報告を受けました。そのうちの14人について感染伝播は否定されましたが、残りの33人は感染伝播の疑いがあり、そのうち、同じドナーから得られた血液製剤を輸血した複数の患者においてウエストナイル髄膜脳炎が発生したことやドナーの血液からWNVに特異的な抗体が検出されたことにより、少なくとも6人の患者が輸血によって感染したことが判明しています。これに基づきFDAはWNVの血液を介した感染伝播リスクを最小限にするために、献血事業者向けのガイダンスを公表しました。このガイダンスはWNVに感染している、または感染の疑いがあるドナーにおける献血の延期(治癒から14日間以上、かつ発症から28日間以上)や献血後2週間以内にドナーが発熱を伴う風邪様症状を発症した場合の措置などが記載されています12)

市井におけるWNVの感染予防

米国においては、特にWNVの流行地域において、蚊に刺される可能性のあるときに長袖・長ズボンを着用すること、衣類や露出した皮膚には虫除けを使用することなどが推奨されています。ワクチンはまだ無く、現在開発中とのことです5)

ウエストナイル熱、ウエストナイル脳炎の診断・治療や一般向けの情報については、厚生労働省の
「ウエストナイル熱の診断・治療ガイドライン」
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/10/tp1023-1a.html
「ウエストナイル熱・脳炎Q&Aについて」
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/10/tp1023-1b.html
をご覧下さい。

病院におけるWNVの伝播予防策

WNVは血液を媒介として伝播する可能性がありますが、日常的に標準予防策が実施されている場合には、感染症例を受け入れる場合であっても特別な措置や消毒を追加する必要は無いと思われます。接触・飛沫・空気感染は報告されていません。これまでに報告されている穿刺による伝播は感染動物の脳の剖検中のことであり、病棟での針刺し事故による伝播はまだ報告されていません。
WNVはエンベロープを有するウイルスであり、消毒薬に対してあまり強い抵抗性を示すとは推測されません。しかし、具体的な知見が存在するわけではなく、消毒が必要な場合には念のためB型肝炎ウイルスなどの血中ウイルスと同等の消毒法を適用することが適切と思われます。


<参考>

1.CDC: Outbreak of West Nile-Like Viral Encephalitis – New York, 1999. MMWR 1999;48:845-859.
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm4838.pdf

2.Nash D, Mostashari F, Fine A, et al: The outbreak of West Nile virus infection in the New York City area in 1999. N Engl J Med 2001;344:1802-1814.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=11407341&dopt=Abstract

3.CDC : Provisional Surveillance Summary of the West Nile Virus Epidemic – United States, January-November 2002. MMWR 2002;51:1129-1133.
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm5150.pdf

4.厚生労働省健康局長 : 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部改正について 健発第1029005号 2002年10月29日. 2002.
http://www.tokyo-eiken.go.jp/IDSC/westnile/wn-p.pdf

5.Campbell GL, Marfin AA, Lanciotti RS, et al: West Nile virus. Lancet Infect Dis 2002;2:519-529.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12206968&dopt=Abstract

6.CDC: Acute Flaccid Paralysis Syndrome Associated with West Nile Virus Infection – Mississippi and Louisiana, July-August 2002. MMWR 2002;51:825-828.
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm5137.pdf

7.CDC: Investigations of West Nile Virus Infections in Recipients of Blood Transfusions. MMWR 2002;51:973-974.
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm5143.pdf

8.CDC: Intrauterine West Nile Virus Infection – New York, 2002. MMWR 2002;51:1135-1136.
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm5150.pdf

9.CDC: Laboratory-Acquired West Nile Virus Infections – United States, 2002. MMWR 2002;51: 1133-1135.
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm5150.pdf

10.CDC: Update: Investigations of West Nile Virus Infections in Recipients of Organ Transplantation and Blood Transfusion – Michigan, 2002. MMWR 2002;51:879.
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm5139.pdf

11.CDC: Possible West Nile Virus Transmission to an Infant Through Breast-Feeding – Michigan, 2002. MMWR 2002;51:877-878.
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm5139.pdf

12.FDA: Guidance for industry – Recommendations for the assessment of donor suitability and blood product safety in cases of known or suspected West Nile virus infection, October 2002.
http://www.fda.gov/cber/gdlns/wnvguid.pdf


2002.12.24 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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Y's Letter