感染対策情報レター

感染症予防法の一部改正について

(2018.11.26追記)
*ご注意ください:本内容は最新の感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の情報ではありません。届出等に関する情報は 厚生労働省のホームページを参照ください。

はじめに

2014年9月9日に感染症予防法の一部改正が公布され、9月19日より施行されました 1)。以下、改正の内容および追加された感染症の概要を中心に述べます。

改正内容の要点

・「播種性クリプトコックス症」を5類感染症(全数把握)に追加した。
・「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症」を5類感染症(全数把握)に追加した。
・「水痘(患者が入院を要すると認められるものに限る。)」を5類感染症(全数把握)に追加した
・「薬剤耐性アシネトバクター感染症」を定点把握から全数把握へ変更した。
*水痘についてはこれまで5類感染症の小児定点把握でしたが、小児定点把握をそのまま残し、新たに入院が必要な症例を全数把握に指定した。

追加された感染症の概要

(1)播種性クリプトコックス症

クリプトコックス症は真菌であるCryptococcus neoformansおよびCryptococcus gattiiによって引き起こされる感染症であり、感染病巣としては肺、中枢神経系、皮膚などが挙げられ、髄膜炎を合併する場合もあります。播種性クリプトコックス症はCryptococcus属真菌による感染症のうち、本菌が髄液、血液などの無菌的臨床検体から検出された感染症または脳脊髄液のクリプトコックス莢膜抗原が陽性となった感染症と定義されています 2)

C. neoformansはハトの糞や土壌などから検出され世界中に分布しており、HIV感染患者など主に免疫不全患者において感染の起因菌となり得ます。一方、C. gattiiはユーカリの木など様々な木から検出され、免疫状態が正常な患者においても感染の起因菌となります。C. gattiiによる感染症の流行はこれまで熱帯、亜熱帯地域において局地的に流行していましたが近年、熱帯、亜熱帯以外の地域にて流行が確認されています。

カナダのブリティッシュコロンビアで1999~2007年、また米国の北西部の太平洋沿岸地域では2004~2010年に致死率が高い新しいタイプのC. gattiiによる感染症が多発しました。カナダの事例では218例の感染者のうち19名(8.7%)が死亡しており 3)、米国の事例では60例の感染者のうち転帰が確認された45例中9名(20%)が死亡し、死亡した9名中2名は易感染状態ではなかったと報告されています 4)
日本国内においてもクリプトコックス症は従来から発生しており、播種をきたした例も報告されています5) 6) 7) 8) 9)。これまで国内においてはC. neoformansが主な原因菌とされてきましたが、カナダのブリティッシュコロンビアや米国の北西部太平洋沿岸地域で流行した菌株の一部と同じ遺伝子型のC. gattiiによる感染が2007年に国内で初めて確認されました10)。日本国内においても病原性が高いC. gattiiによる播種性クリプトコックス症の拡大が懸念されています。

C. neoformansは主にハトの糞が乾燥して空気中に浮遊したものを吸引することでヒトに伝播すると言われています11)。一方、C. gattiiは木の表面、土壌、水、空気などの環境中から分離されますが、主なリバーザーは土壌であるとされ、浮遊した菌を吸引することでヒトに伝播すると考えられています 10) 12)。組織や角膜移植によりまれに感染する以外はヒトからヒトへの伝播はみられないとされているため、感染症例には標準予防策を遵守します 13)。また、クリプトコックス症の発生は病院周辺のハトなどの鳥類と関連した報告が多いことから、免疫不全患者の病室における空調対策のほか、病院周辺のハトの糞を減少させることが課題となる場合も考えられます 11)14)15)16)

C. neoformansおよびC. gattiiは酵母様真菌であり、消毒薬感受性が高いと考えられます。C. neoformansについての消毒薬感受性を検討した報告 17)18)19)によると、クロルヘキシジン、ベンザルコニウム、両性界面活性剤、ポビドンヨード、ヨードチンキ、クレゾール石ケン、70%エタノール、次亜塩素酸ナトリウムなど多くの消毒薬が有効とされています。しかしながら過酸化水素や低濃度(0.05%)のクロルヘキシジンが無効であった報告 17)やクロルヘキシジン、ベンザルコニウム、両性界面活性剤について確実な消毒効果を得るためには長時間の接触が必要であったとの報告 20)など、報告によって消毒薬の感受性に相違が見られています。

(2)カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症

カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症はメロペネムなどカルバペネム系薬剤及び広域β-ラクタム剤に対して耐性を示す腸内細菌科細菌による感染症と定義されています 2)。 腸内細菌科細菌は現在、約70種類以上の属に分類されていますが、CREとして報告される菌種としてはKlebsiella pneumoniaeが最も多く、次いでE. coliとされており、2006年1月~2007年10月の米国でのサーベイランスによると、ディバイス関連感染の症例で分離されたK. pneumoniaeのうちカルバペネム耐性の割合は最大で10.8%、E. coliでは4.0%と報告されています 21)

CREは1996年に米国で初めて検出されて以来、多くの州へ広がり、現在ではほぼ全ての州で検出されています。米国の急性期ケア病院における2012年上半期のサーベイランスデータでは3918施設中181施設(4.6%)でCREが感染起因菌となった中心ライン関連血流感染またはカテーテル関連尿路感染が発生したと報告されています22)。またKlebsiella属、大腸菌、Enterobacter属におけるCREの割合は、2001年では1.2%であったのに対して2011年には4.2%となっており、Klebsiella属に限定すると2001年は1.6%であったのに対して2011年には10.4%と増加しています 22)。このようなCREの急速な広がりに加えて、CREによるカテーテル関連血流感染を生じた場合の致死率の高さ(50%以上)から、CDCではCREを”悪夢の細菌”と呼び2013年3月5日にCRE拡大防止のための注意喚起について発表しました 23)

CREは米国以外にもイスラエル、ギリシア、イタリア、ポーランド、コロンビア、アルゼンチン、ブラジル、中国、インド、トルコなど様々な国で検出されており、現在では世界中に広がっています。一方、日本国内においては海外からの持ち込みによって検出された例が散発的に報告されていますが、現時点では欧米などで見られるような深刻な問題とはなっていません。厚生労働省の院内感染対策サーベイランス 検査部門2013 年のデータでは、E. coliのイミペネムまたはメロペネム耐性の割合がそれぞれ0.1%、0.2%であり、K. pneumoniaeについてはそれぞれ0.1%と 0.3%と報告されています 24)

CREによる感染の臨床症状はカルバペネム感受性の腸内細菌科細菌による感染と同一ですが、CRE感染による致死率はカルバペネム感受性腸内細菌科細菌による感染と比較して3~6倍高いとの報告があり 25)、致死率は40~50%とされています 26)。この高い致死率の理由として、CREによって感染が生じた場合、有効な抗菌薬が限られているため適切な治療ができなかったことや治療が遅れたことが示唆されています 25)

CREの感染経路は主に接触感染であり、感染対策は標準予防策と接触予防策を遵守することになりますが、CDCではCRE制御のためのガイダンス26)に施設レベルで実施すべき主な予防策について以下の8つの項目を挙げています。

1. 手指衛生
2. 接触予防策
3. 医療従事者の教育
4. カテーテルなど医療器具の使用制限
5. 患者およびスタッフのコホーティング
6. 研究機関への通知
7. 抗菌薬の適正使用
8. CREスクリーニング

このガイダンスではこれらの主要な予防策をすべての急性期ケア施設および長期ケア施設で実行すべきであることが述べられています。

CREの消毒薬感受性について検討された報告はありませんが、カルバペネム感受性の腸内細菌科細菌と消毒薬感受性は変わらないと考えられます。腸内細菌科細菌の消毒薬感受性についてはY’s Letter No.36 ヒトに常在する腸内細菌科細菌をご参照下さい。

まとめ

これまで主に地域にて限定的に流行していた新しいタイプのC. gattiiや世界中で広がりをみせているCREによる感染症の流行が日本国内でも懸念されています。現在のところ、国内への病原体の持ち込み症例を中心とした限定的な感染例に留まっていますが、今後の流行の可能性に備え、日常的に情報収集を行い、各医療施設において感染対策の体制を整えておくことが肝要と思われます。


<参考文献>

1.厚生労働省令第103号.平成26年9月9日

2.厚生労働省健康局結核感染症課長:
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12 条第1項及び第14 条第2項に基づく届出の基準等について(一部改正).
健感発0909第2号.平成26年9月9日.
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/pdf/0912-1.pdf

3.Galanis E, Macdougall L, Kidd S, et al:
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4.CDC:
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http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5928a1.htm

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6.Takeshita A, Nakazawa H, Akiyama H, et al:
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Intern Med 1992;31:1401-1405.
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7.Kawamura M, Miyazaki S, Mashiko S, et al:
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14.Swinne D, Kayembe K, Niyimi M:
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18.小池早苗,小泉美智子,宮脇真弓,他:
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19.永井隆雄:常用消毒剤の殺菌効果について.
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20.太田伸,長井克浩,金田浩,他:
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http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/nyas.12537/pdf

26.CDC:
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http://www.cdc.gov/hai/pdfs/cre/cre-guidance-508.pdf


2014.11.05 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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