感染対策情報レター

透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン (四訂版)

はじめに

2015年5月、「透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン(四訂版)」が公開されました。これは「透析医療における標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル(三訂版)」の改訂版で、各記述のエビデンスの強さと推奨の程度を明確にすることにより、各施設の実態に合わせた感染対策マニュアルの作成に使用されることを目的として「マニュアル」から「ガイドライン」へ変更になりました。

エビデンスレベル評価とガイドライン推奨度

原則として日本透析医学会の「エビデンスレベル評価とガイドライン推奨度」に則り、エビデンスレベルについては「E:法律等により規定」が追加されています。 推奨度 1.強い(推奨する)、2.弱い(望ましい)、3.グレードなし(妥当である)※ ※エビデンスは乏しいが、expert opinionとして採用したもの エビデンスレベル A:高い、B:中等度、C:低い、D:最も低い、E:法律等により規定 推奨度とエビデンスレベルは、各ステートメントに対し、1 A、2 C等の組み合わせで示されます。推奨度は必ずしもエビデンスレベルと機械的に連動しておらず、臨床的な重要度も考慮して決定されています。 ガイドラインは第1章から第6章で構成されており、以下、消毒に関する事項が示された第3章について述べます。

第3章 標準的洗浄・消毒・滅菌

透析室では血液による汚染が頻繁に発生することから、標準予防策に加え、B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)などの血液媒介病原体に対するより厳密な伝播予防策が重要となります。汚染された機器や環境表面、医療従事者の手指などによる直接的、間接的な伝播を防ぐため、適切な洗浄・消毒・滅菌が必要です。この章では透析時の皮膚消毒や器具類、環境への対応についての推奨事項が示されています。

Ⅰ.バスキュラーアクセスの消毒

透析開始時、シャント・グラフトの穿刺前の皮膚消毒には、0.5%を超える濃度のクロルヘキシジングルコン酸塩を含有するアルコール、10%ポビドンヨード、消毒用エタノール、70%イソプロパノールのいずれかを用いる(Level 1 A)とされています。 透析用カテーテル挿入時の皮膚消毒及び挿入後の皮膚出口部消毒にも、同様に0.5%を超える濃度のクロルヘキシジングルコン酸塩を含有するアルコール、10%ポビドンヨード、消毒用エタノール、70%イソプロパノールのいずれかを用いるとされていますが、挿入中のカテーテルの皮膚出口部消毒は、皮膚だけでなくカテーテルにも消毒薬が使用されるため、カテーテルの材質に適合しない消毒薬は使用してはならない(Level 1A)としています。 使用する消毒薬は、アルコール過敏の患者や皮膚が荒れやすい患者の場合などは患者の皮膚の状態を考慮し、推奨される消毒薬の中から最適のものを選択します。また、消毒効果を高めるため、消毒前に皮膚を洗浄し、消毒後は皮膚との接触時間を十分に保つようにします。 透析用カテーテルを回路に接続する際に使用する消毒薬については、器材の使用説明書を熟読し、材質に適合した消毒薬を用いること(Level 1E)とされています。また、ポビドンヨードは生体に用いる消毒薬であり、カテーテルを含めた器材に用いることは適用外であることに留意する必要があるとしています。

Ⅱ.器具・器材の洗浄・消毒

今回の改訂より、器具、器材の洗浄・消毒・滅菌の適応は、Spauldingの分類に応じて適切に処理することが明記されました。 クリティカル器具は滅菌(Level 1 A)、セミクリティカル器具は高水準消毒(一部中水準消毒でも可)(Level 1 B)とし、ノンクリティカル器具については患者間で共有する場合には使用毎に血液媒介ウイルス(特にHBV)に有効な洗浄・消毒を行う(Level 1 B)ことが推奨されています。 また、消毒・滅菌の前処理として必ず洗浄を行う(Level 1 A)ことも明記されました。洗浄作業時にはディスポ―ザブル手袋及び適切な防護具を着用することとしています。

Ⅲ.患者療養環境の清掃・消毒

透析室では血液によるベッド周辺への汚染が頻繁に発生するため、透析ベッドの柵やオーバーテーブル等の環境表面や透析装置外装は、透析終了ごとに洗浄(清拭)し、適切な消毒薬を用いて消毒する(Level 1 A)とされています。 透析室での環境表面に用いる消毒薬は、HBVやHCVに有効であることが必要であることから、中水準消毒薬を使用すべきであると考えられ、中水準消毒薬のうち、最も適しているのは次亜塩素酸ナトリウムや、その他の塩素系化合物とされています。 透析終了後、ベッド周辺の環境表面を洗浄剤などで拭いて有機物や汚れを除去したあと、500~1,000ppm(0.05~0.1%)次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒し、消毒後は水拭きを行います。目に見える血液の付着時は、ペーパータオル等で物理的除去を行ったあとに、同濃度の次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒します。 透析装置外装についても、環境表面と同様に500~1,000ppm(0.05~0.1%)次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒を行います。金属部分については、次亜塩素酸ナトリウム使用後に速やかにふき取るか、またはアルコール製剤を使用(その場合は十分な接触時間を確保)します。 環境へ使用する製品として、近年、米国環境保護局(EPA)や米国労働安全衛生局(OSHA)に登録された、HBVに対する有効性表示のある環境用消毒薬配合洗浄剤(第四級アンモニウム塩化合物・塩素系含有製品)や、次亜塩素酸を活性本体としながら金属腐食が少なく、塩素臭もないペルオキソ一硫酸水素カリウムを主成分とした製品も利用可能になってきている旨が記されています。 リネン類の管理については、患者ごとの交換が望ましい(Level 2 B)とされ、リネンが汚染されることが予想される場合にはディスポシーツなどでのシーツの保護を行い、明らかに汚染がある場合は交換すること(Level 1 B)としています。 透析ベッド等から離れた場所についても、患者や医療従事者の手指が高頻度に接触する場所については、頻回の清拭・消毒が推奨されており(Level 1 A)、目安は1日1回以上としています。洗剤を用いた湿式清拭を基本とし、想定される汚染リスクや程度に応じて消毒薬を適宜用いて行います。床や壁などについては、日常的な消毒は必要なく、通常の清掃が推奨されています(Level 2 C)。いずれにおいても、血液汚染を認めた場合は、透析室での対応と同様の処置(血液の物理的除去、次亜塩素酸ナトリウムでの消毒)を行います。

まとめ

透析室では血液による汚染を念頭に感染対策を行う必要があり、標準予防策に加え、より厳密な伝播予防策を行うことが求められます。今回示した第3章以外の章においても、透析時の各操作や透析設備、環境について、さらに感染症患者に対する感染予防などについてもそれぞれ推奨事項が示されています。改訂されたガイドラインを基に各医療機関の実態に合ったマニュアルを作成し、それを遵守することが肝要です。


<参考文献>

1.透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン(四訂版)
http://www.touseki-ikai.or.jp/htm/07_manual/doc/20150512_infection_guideline_ver4.pdf

2.透析医療における標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル(三訂版)
http://www.touseki-ikai.or.jp/htm/07_manual/doc/20080627_kansen.pdf


2015.09.01 Yoshida Pharmaceutical Co Ltd:

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