感染対策情報レター

Candida aurisについて

はじめに

現在、医療施設等においてMRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)、MDRP(multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa)等の多剤耐性の一般細菌による感染症が問題となっていますが、近年注目すべき情報として、2016年6月にCDCは抗真菌薬に多剤耐性の酵母Candida aurisC.auris)による侵襲性感染について注意喚起をおこなっています1)。今回のレターではC.aurisおよびその感染対策等について述べます。
※侵襲性感染:口、のど、膣部の感染とは違い、血液、心臓、脳などに影響を及ぼす重篤な感染症2)3)

Candida aurisとは

真菌は真性菌糸を形成しない酵母と真性菌糸を形成する糸状菌に大きく分けられます。酵母のなかで医療関連感染として特に問題となるのはカンジダであり、その中で最も分離頻度が高いのはCandida albicansです4)5)。カンジダの中でもCDCがC.aurisによる感染症を懸念している理由として、[1]これまで臨床上で他のカンジダにおいてはみられなかった複数の抗真菌薬に対する耐性が認められたこと(分離株の約半数が2系統以上の抗真菌薬に対して耐性であると報告されています)、[2]標準的な検査方法ではC.aurisを同定することは困難であり、特別な技術がないと他のカンジダとして誤って同定を行ってしまう可能性があること、[3]C.aurisは医療施設においてアウトブレイクの原因となる可能性があることが挙げられています1)2)6)7)
C.aurisは、日本において患者の外耳道より分離された2009年の報告が第一報とされています。現在、C.aurisは日本、韓国、インド、パキスタン、南アフリカ共和国、ケニア、クウェート、イスラエル、ベネズエラ、コロンビア、イギリス、アメリカ合衆国、カナダを含む複数の国で報告されていますが、検出には特別な検査方法が必要なため、報告されていない他の国においても感染が起きている可能性があります1)2)6)

Candida aurisによる感染

これまでのところC.aurisは、血流感染、創傷感染、耳感染の原因となったことが報告されています。また、肺や膀胱において感染を引き起こすかは不明ですが、呼吸器および尿検体より分離されたとの報告もあります。C.aurisによる感染のリスク要因についてはさらなる研究が必要とされていますが、他のカンジダ感染症と同様、手術後、糖尿病、広域スペクトルの抗菌薬や抗真菌薬の使用、中心静脈カテーテルの使用が挙げられています1)2)
アメリカ合衆国においてC.aurisがはじめて分離された7症例についての報告があります(表)6)

表 アメリカ合衆国においてCandida aurisがはじめて分離された7症例の特徴(2013年5月~2016年8月)
患者 分離年月 分離された部位 基礎疾患 転帰※
1 2013年5月 ニューヨーク州 血液 高用量の副腎皮質ステロイドを必要とする呼吸器不全 死亡
2 2015年7月 ニュージャージー州 血液 脳腫瘍と絨毛腺腫切除後 死亡
3 2016年4月 メリーランド州 血液 悪性血液疾患と骨髄移植 死亡
4 2016年4月 ニューヨーク州 血液 悪性血液疾患 死亡
5 2016年5月 イリノイ州 血液 完全静脈栄養および高用量の副腎皮質ステロイドを必要とする短腸症候群 生存
6 2016年7月 イリノイ州 尿 長期間の尿道カテーテルの留置をともなった対まひ 生存
7 2016年8月 ニューヨーク州 重度の末梢血管障害、頭蓋底骨髄炎 生存

※死亡は必ずしもCandida auris感染によるものではありません。

死亡症例数は7症例中4例と多く含まれていますが、これら患者は重篤な基礎疾患を有しており、死亡原因は必ずしもC.auris感染によるものではないとされています。本報告のC.auris保菌期間については、評価された3症例(患者5,6,7)において、初期検出後1-3ヶ月間、少なくとも体の一部位(鼠径部、腋窩、鼻孔、直腸)から分離されたと報告されています。環境汚染については、イリノイ州の血流感染を起こした患者(患者5)の病室で調査されたマットレス、ベッドサイドのテーブル、ベッド柵、いす、窓枠のすべてからC.aurisが検出されたと報告されています。またイリノイ州の同一病院の2症例(患者5,6)において、C.aurisの全ゲノム配列の解析がおこなわれましたが、2症例の株はほぼ同―であり、さらに環境から得られた株にもほとんど違いは見られなかったとされています。今のところ、C.aurisの感染経路は明確になっていませんが、前述よりC.aurisは患者の長期間の保菌と環境汚染の可能性などが考えられることから、医療環境を介した伝播を起こすことが示唆されています1)2)6)。実際、最近の報告では、ロンドンの296床の病院において2015年4月から16ヶ月間におよぶ継続的な50症例のアウトブレイクが報告されています8)

Candida aurisの感染対策について

CDCではC.aurisの伝播リスクを低減させるため、保菌患者および感染患者については、標準予防策と接触予防策を適用し、個室で管理すべきとしています。また、環境汚染も想定されることから、患者の病室については有効な消毒薬の使用も含め、日常的清掃およびターミナルクリーニングの徹底が求められています9)。現在のところC.aurisに対する消毒薬感受性を試験した報告はありませんが、一般的に酵母は消毒薬感受性が高く、一般細菌とほぼ同様の感受性を示すと言われています。次亜塩素酸ナトリウム、アルコール、ベンザルコニウム塩化物等の消毒薬が有効とされており10)11)12)、環境表面にはそれらの使用が考慮されます。なお、酵母の消毒薬に対する感受性についてはY’s Letter No.32 「酵母と糸状菌」もご覧下さい。

まとめ

C.aurisは抗真菌薬に対し多剤耐性である場合が多く、感染した場合には治療が困難になることが想定されるため、その伝播予防策は重要となります。C.aurisに対する感染対策については標準予防策と接触予防策が基本となります。またC.aurisは患者周辺の環境中の様々な場所から検出されたとの報告があるため、環境衛生の徹底も求められます。さらにC.aurisには、特別な検出技術が必要であり、現状の全ての症例を把握しきれていないことが推測されるため、今後の情報を注視していく必要があると思われます。


<参考文献>

1.CDC:
Clinical Alert to U.S. Healthcare
https://www.cdc.gov/fungal/diseases/candidiasis/candida-auris-alert.html

2.CDC:
Candida auris Questions and Answers
https://www.cdc.gov/fungal/diseases/candidiasis/candida-auris-qanda.html

3.CDC:
Invasive Candidiasis
https://www.cdc.gov/fungal/diseases/candidiasis/invasive/index.html

4.CDC:
Candidiasis
https://www.cdc.gov/fungal/diseases/candidiasis/index.html

5.植田貴史、竹末芳生:
侵襲性カンジダ症の疫学と病態.
日本医事新報 2016;4825:28-34

6.CDC:
MMWR:Investigation of the First Seven Reported Cases of Candida auris, a Globally Emerging Invasive, Multidrug-Resistant Fungus – United States, May 2013-August 2016
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/65/wr/mm6544e1.htm?s_cid=mm6544e1_w

7.Clancy CJ, Nguyen MH:
Emergence of Candida auris: An International Call to Arms.
Clin Infect Dis 2017;64:141-143.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27989986

8.Schelenz S, Hagen F, Rhodes JL, et al.:
First hospital outbreak of the globally emerging Candida auris in a European hospital.
Antimicrob Resist Infect Control 2016;5:35.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5069812/

9.CDC:
Candida auris Interim Recommendations for Healthcare Facilities and Laboratories
https://www.cdc.gov/fungal/diseases/candidiasis/recommendations.html

10.小林寬伊編集:
新版増補版 消毒と滅菌のガイドライン.
へるす出版,東京,2015.

11.尾家重治:
シチュエーションに応じた消毒薬の選び方・使い方.
じほう,東京,2014.

12.大久保憲:
真菌による院内感染.
内科1992;70:625-631.


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