感染対策情報レター

消化器内視鏡再生処理に関する世界消化器内視鏡学会の基本方針

はじめに

世界消化器内視鏡学会(World Endoscopy Organization;WEO)は2016年11月28日、主にアジア及び中東の内視鏡室を対象とした消化器内視鏡の再生処理に関する基本方針(Position Statement)をオンライン公開しました。文化的・経済的事由を背景に、これら国々の内視鏡室の多くで内視鏡の標準的再生処理手法が西洋諸国と比べ遅れている現状を鑑み、消化器内視鏡の質的保証の観点から再生処理において特に重要なポイントを列挙しています。今回、当該Position Statementで挙げられている消化器内視鏡の衛生的再生プロセスについて概説します。

内視鏡の必要最低限の再生処理基準

自施設における使用後の内視鏡再生処理方法が用手か自動洗浄機によるかに関わらず、内視鏡の再生処理において全ての内視鏡室が遵守すべき必要最低限の基準として10項目が挙げられています。以下、その概略を示します。

○前洗浄
前洗浄は内視鏡チャネルや外表面に生体物質が固着しないようにするために重要であり、使用後は内視鏡を電源から外す前にその場ですぐに前洗浄するべきとしています。適切な洗浄液を用いた内視鏡チャネルのフラッシュおよび外表面の拭き取りをキーポイントとして挙げています。

○リークテスト
内視鏡に穴や裂け目がないことを確認することが目的であり、内視鏡内への液体滲入による故障予防および微生物と消毒薬との接触が妨げられる箇所がないか確認することが重要です。

○ブラッシング洗浄と水洗
内視鏡チャネルや外表面に付着した生体物質を取り除くためには適切なブラシや洗浄器具を使用して洗浄することが必要であり、洗浄する内視鏡ごとに新しいブラシの使用を推奨していますが、再利用する場合には内視鏡と同様の処理をすべきとしています。内視鏡洗浄に使用する洗剤は低発泡性のものを選択し、使用濃度、接触時間、使用温度、すすぎ要件を遵守します。

○消毒
高水準消毒薬を適用し、製造業者の添付文書に従い、濃度、接触時間、使用温度、すすぎ要件を遵守します。

○乾燥
内視鏡内の微生物増殖を防止するための乾燥は重要な工程であり、内視鏡外表面は清潔なリントフリー布(糸くず・けば立ちの極めて少ない布)で軽くたたいて乾燥させ、チャネル内は圧縮空気を通気させます。

○保管
微生物の増殖を防止し、交差汚染のリスクを減少させるため、内視鏡は管理された環境に保管します。垂直(吊るす)法または水平(棚に置く)法がありますが、水平保管の場合には、チャネル内に清浄空気を連続通気させる手段を有するキャビネットを使用すべきとしています。

○運搬
使用後の汚れた内視鏡から取扱者を守るため、また、清潔な内視鏡が作業者や環境から汚染されることを防止するために、常に密封されたケース等で運搬すべきとしています。

○水質
内視鏡の再生処理に水質は重要な役割を果たしており、少なくとも飲料水の基準を満たしていることを確認することが重要です。

○微生物サンプリング
水の微生物検査は、供給源、使用場所および内視鏡自動洗浄機内部を対象として定期的に実施します。また内視鏡自身の微生物検査は一定期間でランダムにテストすべきとしています。

○トレーニングと監督
スタッフのトレーニングとその監督も衛生状態を確保するための最低要件として本項目に挙げられています。

内視鏡の前洗浄と消毒の注意点

内視鏡の前洗浄は、器具表面に組織片や汚れが固着するのを避けるために検査終了後その場ですぐに実施することが求められており、検査終了後から前洗浄までの時間間隔を目安として30分とし、この時間を越えないように勧告しています。また内視鏡の再生処理に使用する理想的な消毒薬の性質は、広範囲の微生物に有効、内視鏡や内視鏡の付属品および内視鏡再生処理装置で使用可能(過酢酸、フタラール、グルタラール)、使用者に対して非刺激性で安全、廃棄に関して環境に優しいことを挙げています。消毒薬は適正な温度と添付文書および現行の勧告に従って使用し、消毒薬に適切な活性があることを確認するために、製造業者提供の濃度試験紙などを用いて、定期的に濃度確認の試験を実施します。

スタッフの防護とトレーニング

内視鏡再生処理に関与するスタッフの感染や化学物質などからの防護を確実にする必要があり、そのためにもスタッフトレーニングが必要とされます。スタッフ防護に関する重要なポイントとして、内視鏡検査中における感染性物質からの防護と、使用後の再生処理中における汚染器具や化学物質との直接接触を防止することを挙げています。またスタッフが着用すべき適切な個人防護具の種類は、耐薬品性の単回使用手袋、保護メガネおよびフェイスマスクやフェイスシールド、呼吸器感作する化学物質がこぼれた場合に使用する呼吸器防護具、長袖で防湿性である特別な防護コートとしています。
職業性疾患として生じる筋・腱・骨格・神経等の健康問題である筋骨格系障害(musculoskeletal disorders;MSDs)等の発生予防のために、内視鏡室は人間工学を考慮したデザインにすべきとしていますが、構造的な問題であることから早急な対応が難しい点であることも推測されます。潜在的な感作性またはアレルギー誘発性の化学物質を扱う全てのスタッフに対して、定期的健康調査の実施が推奨されており、調査項目にはMSDsなども対象にすべきとしています。また感染対策の観点からは、適切なワクチン接種の提供が推奨されており、すでに特定の疾患キャリアであることが分かっているスタッフは患者への伝播の可能性がある業務を避けます。MRSA (methicillin-resistant Staphylococcus aureus)のキャリアなど除菌可能であれば実施します。

まとめ

内視鏡の必要最低限の再生処理基準については、日本国内の医療レベルを考慮すると特別難しい対応はあまりないと思われますが、前洗浄は自動洗浄機・用手洗浄に関わらず、必須であることに注意が必要です。前洗浄は生体物質等の汚れが内視鏡に固着するのを予防するために、検査終了から30分以内の実施を推奨しています。
内視鏡の再生処理室は生体物質で汚染された内視鏡を扱い、また高水準消毒薬を使用する環境であることから、潜在的な感染リスクおよび化学物質による健康障害リスクもあります。これらのリスクからの防護のために適切なトレーニングの実施とともに環境デザインやワクチン接種の提供を含めた総合的なスタッフ防護環境の構築が求められます。
国内の内視鏡再生処置に関する勧告の詳細についてはY’s Letter Vol.3 No.29「消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド 改訂版」をご参照ください。


<参考文献>

1.Murdani A, Kumar A, Chiu HM, et al.:
WEO position statement on hygiene in digestive endoscopy : Focus on endoscopy units in Asia and the Middle East.
Dig Endosc 2017;29:3-15.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/den.12745/epdf


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