感染対策情報レター

黄熱について

はじめに

黄熱(Yellow Fever)は感染症法の第四類感染症に指定されている蚊媒介感染症で、主にアフリカと中南米の熱帯または亜熱帯地域で流行が報告されています1~4)。近年ではアフリカのアンゴラやナイジェリア、南米ではボリビアやブラジル等において黄熱の流行が報告されており2)3)、現在の国際的な交通網の発展や訪日外国人の増加により、海外で感染した人が日本国内で黄熱を発症する可能性もあります。黄熱は多くの患者において重症化しないとされますが、重症化すると比較的死亡率が高く注意が必要です2)5)。そのため類似症状患者の受診時対応策について、知識整理等の準備をしておくことが重要と思われます。一般的な黄熱の感染対策は、感染する危険のある国に渡航する旅行者へのワクチン接種やベクター(媒介生物)となる蚊対策として肌の露出を控えたり、忌避剤を使用することなどが中心となりますが、以下、医療従事者が黄熱患者に対峙する際の観点から、黄熱の特徴や患者対処法、医療施設内を中心とした感染対策について述べます。

黄熱の流行状況

2015年12月よりアンゴラで黄熱が流行し、2015年12月5日から2016 年10月20日の間に、アンゴラ国内において4,347 例の疑い例のうち、377例が死亡(致死率:8.7%)したと報告されました。なお、同期間において黄熱と確定診断された884例では121例が死亡(致死率:13.7%)しています6)
 一方、南米では2016年1月から2018年3月13日までの間に、7つの国と地域(ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、グアナ、ペルー、スリナム)で黄熱が確認されており、このうちブラジルでは、2017年7月1日から2018年3月13日の間に黄熱確定例920例中300人の死亡(致死率:32.6%)が報告されています6)7)。このように黄熱は、比較的高い致死率が報告されており、患者の早期診断・治療が重要ですが、現在までに日本では輸入感染も含めて感染の報告例がありません4)

黄熱の特徴と患者対処方法

黄熱は通常、その病原体である黄熱ウイルスを保有する蚊に刺されることによってのみ、ヒトに伝播・感染する蚊媒介感染症の一種です2)4)8)。黄熱ウイルスは、フラビウイルス科フラビウイルス属に属するエンベロープウイルスで、蚊の一種であるネッタイシマカを介してヒトに伝播します2)4)。ネッタイシマカは日本に常在しないと推測されており、さらに日本の広範囲に常在するヒトスジシマカは黄熱ウイルスを媒介してヒトに感染させる能力がネッタイシマカよりも低いとされているため、国内で蚊に刺されることによる感染の可能性は低いと考えられています4)6)。黄熱の潜伏期間は3~6日間、感染した多くの患者で不顕性または予後良好の一過性症状を呈するとされ、主な発症時の症状は突然の発熱、激しい頭痛、背部痛、筋肉痛、悪心・嘔吐などが挙げられています。しかし、前述の初期症状が寛解してから数時間~1日経過後に、15%程度の患者で高熱の再燃や黄疸、出血、ショック症状、多臓器不全などの重症症状を発症する場合があり、重症化した患者の20~60%程度、最大80%が7〜10日以内に死亡する可能性があるとされます2)~ 6)8)。入院による早期の良質なケアは生存率を向上させるとされており、重症者は入院させて安静にし、水分補給します2)3)5)。黄熱に有効な特異的抗ウイルス剤などの特別な治療方法はないため、対症療法として解熱・鎮痛剤が使用されますが、アスピリンやイブプロフェンなどのNSAIDsや抗凝固剤は出血リスクを高める可能性があるため使用は厳に控えます2)3)5)8)

医療施設における感染予防策

黄熱ウイルスの感染は、通常、ウイルスを保有する蚊に刺されることによってのみ伝播するとされているため、黄熱患者に対する医療施設内の感染対策は標準予防策を適用します。黄熱ウイルスは基本的にヒトの体液等に直接接触しても、ヒトからヒトへの二次感染は発生しないとされていますが6)、血液や体液は全て感染性があるものとして他の患者と同様に厳重に扱う必要があります。
黄熱ウイルスの消毒薬感受性については詳細な報告がなされておりませんが、エンベロープウイルスであることから消毒薬感受性は高いと推測されます10)。血液や体液で汚染されたノンクリティカル表面などは血中ウイルスの不活性化効果が期待できる熱水の適用を検討するほか、1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液(血液自体の消毒は5,000~10,000ppm)またはアルコール製剤を用います11)

まとめ

黄熱ウイルスを伝播するネッタイシマカは、現状において日本国内に常在していないと推測されており、現時点での国内における黄熱の流行の可能性は低いと思われます。しかし、日本政府によるインバウンド政策等により訪日外国人が益々増加するなか、日本国内において黄熱を発症した患者が医療機関を受診する可能性もあると推測されます。黄熱の診断は難しく、他の蚊媒介感染症であるデング熱やチクングニア熱等のほか、肝障害や黄疸が生じるレプトスピラ症やA型、E型肝炎などとの鑑別を要するとされているため2)4)、黄熱の発生状況等の情報を収集し、黄熱類似症状のある患者の問診においては黄熱に感染する危険のある国への渡航歴等の聴取が重要と思われます7)。黄熱に有効な抗ウイルス剤はなく、特異的な治療方法は未だ確立されていないため対症療法となりますが、解熱・鎮痛剤にイブプロフェンやアスピリン等のNSAIDsや抗凝固剤の使用は控えることを念頭においておく必要があると思われます。

編集指導者コメント

オリンピックを控え、その他ジカ熱(性感染あり)等も含み、海外からの訪問者による持込みを考慮して、十分注意する必要が有ります。


<参考文献>

1.厚生労働省:
感染症法に基づく医師の届け出のお願い.(最終アクセス日:2018年6月19日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kekkaku-kansenshou11/01.html

2.WHO:
Yellow Fever Fact Sheets.(最終アクセス日:2018年6月19日) 
http://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/yellow-fever

3.CDC:
Yellow Fever. Frequently Asked Questions About Yellow Fever. (最終アクセス日:2018年6月19日)
https://www.cdc.gov/yellowfever/qa/index.html

4.厚生労働省:
黄熱に関するQ&Aについて.2016年5月20日作成. (最終アクセス日:2018年6月19日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124615.html

5.CDC:
Yellow Fever. Symptoms, Diagnosis & Treatment. (最終アクセス日:2018年6月19日)
https://www.cdc.gov/yellowfever/symptoms/index.html

6.厚生労働省健康局結核感染症課:
黄熱に関するリスクアセスメントについて.
事務連絡.平成29年5月1日. (最終アクセス日:2018年6月19日)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000164061.pdf

7.Pan American Health Organization / World Health Organization.
Epidemiological Update: Yellow Fever. 20 March 2018. (最終アクセス日:2018年6月19日)
https://www.paho.org/hq/index.php?option=com_topics&view=readall&cid=2194&Itemid=40784&lang=en

8.ECDC:
Yellow Fever. Facts about yellow fever. (最終アクセス日:2018年6月19日)
https://ecdc.europa.eu/en/yellow-fever/facts

9.FORTH:
黄熱について. (最終アクセス日:2018年6月19日)
http://www.forth.go.jp/useful/yellowfever.html

10.厚生労働省健康局結核感染症課長:
感染症法に基づく消毒・滅菌の手引きについて.
健感発第0130001号.平成16年1月30日. (最終アクセス日:2018年6月19日)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000164701.pdf

11.吉田製薬文献調査チーム執筆,大久保憲監修,小林寬伊指導:
消毒薬テキスト第5版
協和企画,東京,2016.
http://www.yoshida-pharm.com/category/countermeasure/texts/


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