感染対策情報レター

医療従事者における手指汚染のリスク因子について

はじめに

病原微生物が医療従事者の手指を介し、易感染患者へ伝播し感染症を発症した場合、重篤な状態に陥るおそれがあります1)。したがって、医療従事者の手指がいつ、どのように汚染されるかそのリスク因子を把握し、適切なタイミングで手指衛生を実施することは肝要です1)
医療従事者の手指が微生物汚染される要因として主に、環境表面、医療従事者自身、患者由来の3つがあると考えられます1-4)
以下、医療従事者の手指汚染のリスク因子について述べます。

環境表面からの手指汚染

MRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus;メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile;以下、ディフィシル菌)、ノロウイルス(Norovirus)等によるアウトブレイクにおいては、環境を介した手指の微生物汚染により交差感染が起きたことが原因であると示唆されています4-7)。したがって、環境からの手指汚染はアウトブレイクを招く重要な因子になり得るため、その汚染リスクを把握することは重要であると思われます1)
手指が環境表面からどの程度微生物汚染されるか、またそのリスクについては、主に環境表面の微生物汚染率(%)及び汚染度(微生物数/cm2)、環境表面における微生物生存期間、手指が環境に触れる頻度が関連していると考えられます1,2,8-10)

1.環境表面の微生物汚染率及び汚染度

接触予防策が必要とされる入院患者の周辺環境においては、患者が罹患している微生物による汚染が認められています11)。その微生物汚染率及び汚染度については患者が罹患している微生物の種類・保持部位により異なることが示唆されています6,11-14)。なかでも、多剤耐性アシネトバクター・バウマニについては、患者周辺環境からの検出率がMRSA、VRE(vancomycin-resistant Enterococci;バンコマイシン耐性腸球菌)や多剤耐性緑膿菌(multi-drug resistant Pseudomonas aeruginosa)と比べ高かったことが示されています11,12)。また、保持部位については、創傷部位または尿検体に、MRSA陽性であった患者の周辺環境においては、他の部位に陽性であった場合と比較して、MRSA検出率が高かったと報告されています14)
なお、MRSA、アシネトバクター・バウマニ等の微生物汚染が認められた箇所については、ベッドリネン、ベッドサイドレ-ル、ベッドサイドテーブル、カート、ベンチレーター、コールボタン、血圧計のカフ、輸液ポンプ、モニター画面、カーテン、ドアハンドル、携帯電話、パソコンのキーボード等であったことが報告されています3,8-12,14-20)。特に、ベッドリネン、ベッドサイドレール、ベッドサイドテーブルは微生物による汚染率および汚染度が高いことが示されているため3,11,15,18)、手指が汚染されるリスクがより高いことを認識する必要があります8,9)。また、携帯電話・パソコンのキーボードについても日常的に頻用され、常に手指が微生物に汚染されるリスクを伴っていることを注意すべきであると考えられます。

2.環境表面における微生物生存期間

環境中に付着した微生物の生存期間は微生物種により異なり、乾燥した環境表面において、MRSAは7日~7ヵ月間、VREは5日~4ヵ月間、緑膿菌は6時間~16ヵ月間、ディフィシル菌は5ヵ月間、アシネトバクター属は3日~5ヵ月間、ノロウイルスは8時間~7日間生存することが報告されています21)。これより、微生物が環境表面に付着した場合、条件によっては環境表面に比較的長期間生存が可能であると思われます。

3.手指が環境に触れる頻度

汚染された環境に手指が頻繁に触れれば、手指の汚染度が高まると考えられます2)。看護師の勤務中における患者、環境への接触頻度の内訳は9.3%がケアなどによる患者への接触であり、90.7%が環境、医療機器等の患者周辺環境への接触であったと報告がされていることからも22)、医療従事者の手指は患者への接触よりも環境への接触頻度の方が多く、環境から汚染されるリスクが高いことが推測されます。
さらに、本研究では、看護師が患者に接触する頻度を1とした場合、接触頻度の相対比はベッドサイドレールが1.490、ベッドサイドテーブルが1.427、患者のカルテが1.324、リネンが0.534、カーテンが0.451、ベッドフレームが0.411であったと報告されています22)。この結果から、ベッドサイドレール、ベッドサイドテーブルは接触頻度が高いため手指への汚染リスクが比較的高い箇所であることが考えられます。

医療従事者自身による手指汚染

医療従事者も、手指が自身の身体、特に顔に無意識に触れる可能性があるため、微生物汚染のリスク因子として挙げられます2,4)

1.医療従事者自身への手指の接触について

指が顔に接触する頻度については、医学生26名を対象とした4時間の行動観察において、一人平均1時間あたり23回手が顔に触れていたことが報告されています23)。全接触回数2,346のうち、44%は手が粘膜と接触しており、その内訳は、36%は口、31%は鼻、27%は眼、6%は口・鼻・眼への複数箇所へ接触していました23)。特に鼻腔内にはMRSA、アシネトバクター・バウマニが付着していることがあり24,25)、医療従事者におけるMRSAの鼻腔内保菌は4.1%であると報告されています25)。このMRSAの鼻腔内保菌率は高くはないものの、鼻腔内にMRSAを保菌している者の手指がその鼻に触れることは手指汚染のリスクが高まります。
手術室の医療従事者の鼻腔内保菌のMRSAと手指および携帯電話から検出されたMRSAの遺伝子型が一致していたことから、鼻腔内保菌のMRSAが手指、携帯電話へ伝播したことが示唆されています26)
以上より、手指が自身の体へ無意識に接触することがあり、特に鼻へ接触することは手指汚染のリスクになり得るため、接触しないよう意識する必要があると考えられます。

患者由来の手指汚染

患者には病原微生物が付着している可能性があるため、患者のケアは手指汚染のリスク因子となります1,2)。また、患者のケアにより汚染されたPPE(Personal Protective Equipment:個人防護具)を脱ぐ際も手指汚染のリスク因子となり得ることに注意が必要です1)。従って、患者における微生物保持状況を理解することは重要であると考えられます。

1.患者における微生物保持状況について

患者によっては、皮膚から、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、クレブシエラ属(Klebsiella spp.)、アシネトバクター属(Acinetobacter spp.)等の細菌が102~106CFU/cm2検出されたことが報告され、感染部位からだけではなく正常な皮膚からも検出が認められています1)。MRSAを鼻腔内に保持している患者においては、鼻腔から100%、手指から90%、会陰部から60%、咽頭から25~50%、前腕及び胸部から各45%、腹部から40%の割合でMRSAが検出されたという報告もあります3)
また、入院後における患者の手指汚染状況を調査した文献によると、入院後48時間においては、患者の39%がMRSA、VRE、ディフィシル菌、グラム陰性菌の少なくとも1種に手指が汚染されており、8%の患者においては2種以上の微生物に手指が汚染されていたことが示されています27)
このように、患者には病原微生物が付着している可能性があり、手袋を着用せずに直接患者の体に触れた場合に手指が汚染されるだけでなく28)、手袋やガウン等のPPEを着用して患者のケアを行った場合においてもPPEが汚染されるおそれがあります11,28-30)

2.PPE脱衣時の汚染

医療従事者の手指は、手袋・ガウン等のPPEを脱いでいる最中に汚染される可能性があります。
蛍光塗料を用い手袋・ガウンを脱いだ時に、汚染を受けやすい箇所を調査した報告があります31)。この報告では手袋とガウンを脱いだ際の汚染シミュレーションを行っていますが、435件中、200件(46.0%)において皮膚や衣類に蛍光塗料が付着しており、手袋を脱いだ場合の方がガウンを脱いだ場合よりも頻繁に汚染が発生していたことが示されています(52.9%対37.8%、p=0.02)。また、手袋を脱いだ234件における汚染率は、手指の汚染が最も多く、特に掌では40~50%で汚染が発生していました31)。本研究においては、手袋・ガウンの脱衣テクニックについて介入を行っており、手指及び衣類への汚染率は減少しています31)。したがって、汚染されやすい箇所を認識し、適切な脱衣テクニックを習得することにより、手指の汚染リスクが減少すると考えられます。
なお、ケアごとによるPPEの汚染については、患者への直接接触(特に頭と首への接触)、呼吸器ケア、創傷部位のケアを行った後においてMRSA、VRE、多剤耐性アシネトバクター、多剤耐性緑膿菌の検出率が高く認められた報告があるため11,28-30)、これらのケアを行った場合には手袋・ガウンなどのPPEが汚染されている可能性があることに留意します。

おわりに

医療従事者の手指の汚染は主に環境表面、医療従事者自身、患者の3つの要因が関与していると考えられます。環境表面からの手指汚染は環境表面の汚染率・汚染度、微生物の生存期間、医療従事者の接触頻度が関連していると推測されます。また、医療従事者自身においては、医療従事者自身の身体へ手が接触しないように認識する必要があります。患者由来においては、患者のケア及び汚染されたPPEの脱衣がリスク因子として考えられます。
これらの手指の汚染リスク因子を把握し、適切なタイミングで十分に手指衛生を実施することが医療関連感染を予防することに繋がります。


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