感染対策情報レター

ヒトパルボウイルスB19感染症(伝染性紅斑)について

はじめに

2018年5月頃よりヒトパルボウイルスB19(human parvovirus B19:以下PVB19)による代表的な感染症である伝染性紅斑の患者報告数が増加しています。東京都内等いくつかの自治体において2018年11月の患者報告数が警報発令基準を超えるなど流行拡大がみられており、感染拡大防止のための注意が必要です。
今回、伝染性紅斑の特徴や、伝染性紅斑を含むPVB19感染症の臨床症状、病院感染対策について述べます。

伝染性紅斑とは

伝染性紅斑は頬に出現する蝶翼状の紅斑を特徴とし、小児を中心にしてみられる一般に予後良好な流行性の発疹性疾患です1)。両頬にリンゴのように赤い発疹があらわれることから、俗に「リンゴ病」とも呼ばれます。また、麻疹(第一病)などに続くFifth Disease(第五病)や、Slapped-cheek disease(頬の平手打ち様紅斑)と呼ばれる場合もあります。
伝染性紅斑は感染症法に基づく分類において第5類感染症に該当し、全国約3,000ヵ所の小児科定点医療機関から報告されます。疫学上の特徴として、4~5年周期で流行がみられ、春から初夏にかけて流行するものの、近年においては流行パターンに季節性がみられない場合があります1)
伝染性紅斑の原因ウイルスであるPVB19は、名称がparvus(ラテン語で「小さい」を意味する)に由来するように、最も小さいウイルスの一つであり、直径約25nmの正20面体カプシド構造を形成する一本鎖DNAウイルスです2)
PVB19の潜伏期は4~21日1)3)で、小児に好発し、感染者のうち不顕性感染は小児で約30%、成人で約60%とされ4)、成人の多くは抗体を保有しています5)。PVB19は一度感染すると終生免疫が得られ、再感染はないとされるものの、免疫不全者において持続感染を生じる場合があります。

PVB19感染症の臨床症状

小児における特徴的な臨床症状としては両頬の境界鮮明な蝶形紅斑が挙げられます。さらに、体や四肢に網目状の発疹が広がりますが、通常1週間程度で消失します。
頬に発疹が出現する7~10日前に、微熱や感冒様症状がみられ、この時期にウイルスの排出が最も多くなります。発疹が現れる時期にはウイルスの排出量は低下しているため、感染力はほぼ消失しています。
成人の場合、典型的な蝶形紅斑は少なく、二峰性の病歴を呈します。感染初期はインフルエンザ様の発熱、悪寒、頭痛などの症状があらわれ、症状が軽快した後に、関節症、浮腫、皮疹など多彩な症状がみられます。特に成人における関節痛・関節炎の頻度は約60%と高率であり、女性は男性の2倍程度とされます6)
PVB19に感染した場合、重篤な合併症を生じる者として、基礎疾患に溶血性貧血をもつ患者、免疫不全・免疫抑制状態の患者や、妊婦等の易感染者が挙げられます。溶血性貧血を基礎疾患に持つ患者では無形成発作(造血障害発作)が生じること、また免疫不全者において慢性赤芽球癆等が発生することが知られています。妊婦に関しては、妊娠初期などの感染による胎児の異常(胎児水腫)および流産が問題となります。妊婦がPVB19に感染すると約20%に継胎盤感染が起こり、そのうち約20%が胎児の貧血や胎児水腫を起こすとされます1)

病院感染対策

PVB19は鼻汁中や咽頭に存在し、飛沫または接触により伝播すると考えられています。PVB19に感染した場合、感染初期に感冒様症状を呈すること、また伝染性紅斑のような発疹のある段階においてはウイルス排出が終了しているため、標準予防策のみの施行で問題ないとされることから7)、PVB19に対する感染対策としては、標準予防策を徹底し、感染症例には飛沫予防策を追加します。
病棟におけるPVB19感染症発生時の対策としては、感染判明者の速やかな隔離(伝染性紅斑をすでに発症している患者に対しては標準予防策の施行)、発症者に関わる病棟スタッフの抗体測定、免疫抑制状態の患者への免疫グロブリン投与、妊婦や妊娠を考えている病棟スタッフを発症患者の担当から除外、手指衛生やマスク着用の徹底による早期対応が報告されています3)7)

消毒薬感受性

PVB19はエンベロープを有しないウイルスの中でも特に消毒薬抵抗性が強いウイルスです。現在PVB19のin vitroでの培養増殖法は確立されていないため、消毒薬の評価試験に用いる代替ウイルスとしては、イヌ、ネコ、またはブタパルボウイルスが用いられます。現在までの報告として、消毒が必要な場合には2%グルタラール、0.2%過酢酸、0.2%(2,000ppm)以上の高濃度の次亜塩素酸ナトリウムの選択が必要で、アルコール、ポビドンヨードでは効果が不十分と考えられています8)9)。したがって、PVB19を対象とした手指衛生を行う際には、ウイルスを物理的に除去する石けんと流水による手洗いを基本として、速乾性手指消毒薬を補完的に使用することが望ましいと考えられます。

まとめ

伝染性紅斑をはじめとしたPVB19感染症にはワクチンがなく、また感染後に発疹が出現した時点では既にウイルス排泄のピークが過ぎてしまっているため、感染予防が困難な感染症ですが、流行の見られる地域においては、感染対策、特に易感染者への対策が重要です。普段より手洗いや咳エチケットを行い、感染判明者に対しては飛沫予防策も行うなど、基本に忠実に感染対策を実行していくことが肝要です。


<参考文献>

1.国立感染症研究所: 伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19感染症). IASR 2016;37(1):1-16. https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-vol37/6285-iasr-431.html

2.Young NS and Brown KE: Parvovirus. New Eng J Med.2004;350(6):586-97. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14762186

3.寺田喜平, 平田早苗, 石松昌己ら: パルボウイルスB19感染症に対する院内感染対策. 環境感染誌.2017;32(2):89-93. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsei/32/2/32_89/_pdf/-char/ja

4.パルボウイルスについて. 卸薬業.1997;21(5):48-50.

5.松永泰子,武田直和,山崎修道ら: 組換え(VP1+VP2)粒子抗原を用いたヒトパルボウイルスB19の血清疫学. 感染症誌.1995;69:1371?75. hhttp://journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/69/1371-1375.pdf

6.Servey JT, Reamy BV, Hodge J: Clinical Presentations of Parvovirus B19 Infection. Am Fam Physician.2007;75(3):373-6.
https://www.aafp.org/afp/2007/0201/p373.html

7.大石智洋: 病棟におけるパルボウイルスB19感染症発生時の対応. 小児科.2018;59(9):1309-14.

8.Prince HN and Prince DL: Principles of viral control and transmission. In:Block SS,ed. Disinfection, sterilization and preservation.5th ed. Philadelphia:Lippin-cott Williams & Wilkins, 2001; 543-571.

9.Eterpi M, McDonnell G, Thomas V: Disinfection efficacy against parvoviruses compared with reference viruses. J Hosp Infect.2009;73(1):64-70. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19646784


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