感染対策情報レター

血液培養汚染防止のための臨床実践ガイドライン[ENA(米国救急看護学会)]

はじめに1)2)

菌血症は入院患者における重篤・死亡例の主な原因の一つとされ、正確かつタイムリーな原因菌の同定が求められます。
血液培養は菌血症の診断および治療のゴールドスタンダードと考えられていますが、汚染が生じた場合には、原因菌を予測できるというその価値が薄れてしまうため、汚染防止は非常に重要と考えられています。
本ガイドライン1)2)は、2018年にENA※1が公開した血液培養汚染防止のための臨床実践ガイドラインであり、二つのタイミング(採血前、採血時およびそれ以降)に分け勧告を行っています。
具体的には採血前の推奨事項として、医療従事者への教育、検体の採取部位、培養ボトル上面(刺入部)の清浄化などについて、また採血時およびそれ以降の推奨事項として、採血時の皮膚消毒やその他手技などについて述べています。また本勧告の水準は、Level A(高い)、Level B(中程度)、Level C(低い)、Not recommended(勧告されない)の4段階に分けられています。
今回のレターでは、Level AおよびLevel Bの勧告文の内容を中心に、本ガイドラインを紹介します。
※1 ENA (Emergency Nurses Association):米国救急看護学会3)

採血前の推奨事項

はじめに採血前の推奨事項として、検体を採取する医療従事者に対して教育やトレーニングを実施することを推奨しています(Level B)。
医療従事者に対し適切な手技に関するトレーニングを実施することで、血液培養汚染率低下につながることが知られており、例えばRothらは4)、教育的介入によって、汚染率が2.59%から2.23%に低下したことを報告しています(オッズ比0.86、95%信頼区間:0.76-0.98)。
また、専任の医療従事者が検体の採取を行った場合には、汚染率はより低下することが報告されているため5)、本勧告では専任の医療従事者が検体を採取するよう推奨しています(Level B)。
検体の採取部位に関しては、静脈内カテーテルからの採取によって、血液培養汚染率が高くなることが知られています。
Snyderらのシステマティックレビュー5)においては、カテーテルからの採取時と血管穿刺による採取時の血液培養汚染率を比較したところ、オッズ比は2.69(95%信頼区間:2.03-3.57)であったことが報告されています。
このような報告から本勧告では、検体は静脈内カテーテルからではなく、末梢静脈穿刺によって採取するよう推奨しています(Level B)。
また消毒薬を用いた血液培養ボトル上面(刺入部)の清浄化の効果については、一致した見解が得られていない状況です。
Schifmanら6)は消毒薬を用いて清浄化した群の方が、血液培養汚染率が低かったことを報告していますが(2.3% vs 3.4%、p=0.018)、対照的に相関性はみられなかったとする報告7)も存在します。
また参考としてCLSI※2では培養ボトル上面は70%イソプロパノールを用いて清浄化し、自然乾燥させるよう推奨しています8)
このようにエビデンスは不十分な状態ではありますが、本勧告では血液培養ボトルへの接種前には消毒薬を用いてボトル上面を清浄化するよう推奨しています(Level B)。
※2 CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute):米国臨床検査標準委員会

採血時およびそれ以降の推奨事項

採血部位が適切に清浄化されていない場合には、皮膚上の細菌が検体を汚染する可能性があります。
そのため皮膚消毒が不十分であることは、血液培養汚染の一般的な原因の一つとして挙げられています。
採血時における皮膚消毒薬については、Maiwaldらのメタアナリシス9)で、アルコール含有製剤はアルコール非含有製剤より優れていることが示されています(表)。
また皮膚消毒薬に関する比較研究の多くは、クロルヘキシジンとアルコールの組み合わせを評価していますが、Maiwaldら9)はアルコール単独でも効果的であるかもしれないことを示唆しています。
一方でFDA※3では、クロルヘキシジンの早産児や生後2ヵ月未満の小児への使用によって、過度な皮膚刺激や化学熱傷を引き起こす可能性があることを注意喚起しています。
このような状況から本勧告では、皮膚を清浄化するためにアルコール含有製剤あるいはクロルヘキシジンアルコールを用いるよう推奨していますが、クロルヘキシジンアルコールについては生後2ヵ月を超える患者に使用することとしています(Level A)。
なお、採血前には皮膚消毒薬を自然乾燥させることも併せて推奨しています(Level A)。
※3 FDA(Food and Drug Administration):米国食品医薬品局

表 クロルヘキシジンアルコールとその他消毒薬との血液培養汚染率の比較1)2)

比較製剤 相対リスク
[95%信頼区間]
CHG-AL ポビドンヨード水溶液 0.45[0.32-0.63]
CHG-AL イソプロパノール+ヨードチンキ 1.17[0.75-1.82]*
CHG-AL イソプロパノール+ポビドンヨード 1.61[0.98-2.64]*
CHG-AL:クロルヘキシジンアルコール *:有意差なし
 

微生物を含む微細な皮膚断片は、採血中に針を通って検体に混入してしまう可能性があり、血液培養汚染につながることも考えられます。
Pattonら10)は、採血時の最初の1-2mLを検体に含めないことで、血液培養汚染率が2.8%から1.4%(p=0.005)に低下したことを報告しています。
エビデンスは限られていますが、本勧告では上記報告を引用し、末梢静脈穿刺により採血する場合には、最初の血液1-2mLは検体に含めないよう推奨しています(Level B)。
また採血した針の交換について、Spitalnicら11)は採血した針とは別の針を用いて血液培養ボトルに検体を接種させた場合の血液培養汚染率は2%であり、針の交換をしなかった場合の3.7%より低かったことを報告しています。
反対にBekerisら7)は針の交換の有無によって、血液培養汚染率に差は見られなかったとしています。
このようにコンセンサスは得られていない状況ではありますが、汚染防止の観点から本勧告では採血に使用した針とは別の針を用いて血液培養ボトルに検体を接種するよう推奨しています(Level B)。
しかしながら本勧告では同時に注意書きとして、血液曝露のリスクがあるため針の交換作業は推奨されないことを記載し、針の交換作業については慎重な立場をとっています。

まとめ

血液培養の汚染が生じた場合、検査としての価値が薄れてしまうとともに、患者に対する不必要な抗菌薬投与や追加検査などによって、余分なコストが生じてしまう可能性があります。
また診断の遅れによる入院期間の延長などにより、患者にも負担をかけてしまうことからも、血液培養汚染の防止は非常に重要と考えらます。
本ガイドラインは、血液培養汚染防止のための実践的かつエビデンスに基づいたガイドラインであるため、汚染防止対策を実施する上で、参考になると思われます。


<参考文献>

1.Emergency Nurses Association:Clinical Practice Guideline:Prevention of Blood Culture Contamination.
https://www.ena.org/practice-resources/resource-library/clinical-practice-guidelines/-in-category/categories/ena/resources/practice-resources/clinical-practice-guideline/blood-cultures

2.Clinical Practice Guideline:Prevention of Blood Culture Contamination. J Emerg Nurs 2018;44:285.e1-285.e24.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29784085

3.Emergency Nurses Association:About ENA
https://www.ena.org/about

4.Roth A, Wiklund AE, Pålsson AS, et al:Reducing blood culture contamination by a simple informational intervention. J Clin Microbiol 2010;48:4552-4558.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3008442/

5.Snyder SR, Favoretto AM, Baetz RA, et al:Effectiveness of practices to reduce blood culture contamination: a Laboratory Medicine Best Practices systematic review and meta-analysis. Clin Biochem 2012;45:999-1011.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4518453/

6.Schifman RB, Strand CL, Meier FA, et al:Blood culture contamination: a College of American Pathologists Q-Probes study involving 640 institutions and 497134 specimens from adult patients. Arch Pathol Lab Med 1998;122:216-221.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9823858/

7.Bekeris LG, Tworek JA, Walsh MK, et al:Trends in blood culture contamination: a College of American Pathologists Q-Tracks study of 356 institutions. Arch Pathol Lab Med 2005;129:1222-1225.
https://www.archivesofpathology.org/doi/full/10.1043/1543-2165%282005%29129%5B1222%3ATIBCCA%5D2.0.CO%3B2/

8.CLSI:Principles and Procedures for Blood Cultures; Approved Guideline. 2007

9.Maiwald M, Chan ES:The forgotten role of alcohol: a systematic review and meta-analysis of the clinical efficacy and perceived role of chlorhexidine in skin antisepsis. PLoS One 2012;7:e44277.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3434203//

10.Patton RG, Schmitt T:Innovation for reducing blood culture contamination: initial specimen diversion technique. J Clin Microbiol 2010;48:4501-4503.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3008433//

11.Spitalnic SJ, Woolard RH, Mermel LA:The significance of changing needles when inoculating blood cultures: a meta-analysis. Clin Infect Dis 1995;21:1103-1106.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8589128/


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