感染対策情報レター

重症熱性血小板減少症候群(SFTS):広がる分布とマダニ以外の感染経路

はじめに

重症熱性血小板減少症候群(SFTS:Severe fever with thrombocytopenia syndrome)はSFTSウイルスによって引き起こされる新興のウイルス感染症で、クリミア・コンゴ出血熱に性質が類似するため、ウイルス性出血熱に分類されるべきものとされています1)。日本ではSFTSは西日本に多い感染症とされてきましたが、その分布は広がりつつあり、あらたな感染経路も報告されるようになりました。
今回はSFTSやSFTSウイルスの分布状況、ウイルスを媒介するマダニ及びマダニ以外の感染経路などについて概説します。

SFTSとは

SFTSは2011年に中国の研究者らによって初めて報告され2)、日本においても2013年に最初の患者が山口県で報告されています3)。日本では例年4月頃から患者が増えはじめ5~6月頃をピークに10月頃まで患者発生数が多い状況が続く傾向がみられます(図1)。発症者の男女比はほぼ1:1で、発症年齢の中央値は74歳で主に60歳以降の患者が多いですが、20代や30代での発症例もあり4)、致死率は5~40%と高い感染症です1)。SFTSは感染症法では四類感染症に指定されており、全数把握の対象疾患です。そのため、SFTSと診断した場合は最寄りの保健所に直ちに届出を行う必要があります。診断に必要な検査としては血液や咽頭拭い液等のPCR検査、血清のELISA法等によるウイルス抗体検査があります。

図1 SFTSの月別平均患者数
(国立感染症研究所のデータ4)を基に作成)

SFTSウイルスとは

構造的にはエンベロープを有するRNAウイルスで直径は80~100nmとされています2)。これまでブニヤウイルス科フレボウイルス属とされてきましたが、国際ウイルス分類委員会による2020年の分類更新でブニヤウイルス目フェニュイウイルス科バンダウイルス属ダビエバンダウイルスに再分類されています5)。ただ、現在でも広くSFTSウイルスと呼ばれておりますので、本稿でもSFTSウイルスとしています。

SFTS症例の届出地域(図2)

SFTSを発症した患者はこれまで主に九州・四国・中国・近畿地方で報告されてきましたが、近年では北陸地方4)、2021年には初めて静岡県でも患者の発生が報告されています6)。なお、2019年に東京都でも1症例届出がされていますが、推定感染地域は長崎県といわれています7)

図2 SFTS症例の届出地域(~2021年)
オレンジ:患者届出地域

SFTSウイルスの分布地域(図3)

SFTSウイルスの遺伝子を保有するマダニは北海道から九州まで広く分布しており、調査が行われた2014年当時、患者が報告されていなかった地域からも検出されています8) 。この調査では、調査数が少なく判断ができなかった3自治体を除き、調査したすべての自治体からSFTSウイルス遺伝子を保有するマダニが確認されたことから、調査を実施していない自治体も含め、SFTSウイルス遺伝子を保有するマダニは全国に広く分布している可能性が指摘されています。2021年に静岡県でSFTS患者が発生していますが、SFTSウイルス自体は2014年には静岡県で検出されていたことから6)、今後もすでにSFTSウイルス遺伝子が検出された地域では患者が発生する可能性が高いと考えられます。

図3 マダニからSFTSウイルス遺伝子が検出された地域(2014年)
黄色:SFTSウイルス遺伝子検出地域(国立感染症研究所のデータ8)を基に作成)

SFTSの臨床症状

SFTSの感染から発症までの潜伏期間は7~14日で平均9日とされています1,9)。主な症状は、発熱、体の痛み、食欲不振、疲労感、吐き気、嘔吐などがみられます10)。臨床検査値の異常としては、血小板減少、白血球減少、AST上昇、ALT上昇、LDH上昇、カルシウム低下、タンパク尿などとされています10)
また、SFTS患者における主要な病態生理的特徴の一つにサイトカインストームがあり、これに関連した血球貪食症候群などにより致死率が高まる原因となっていることが示唆されています9,11)。致命的な症例ではIL-1β、IL-8、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)-1α、MIP-1βが上昇する一方で、非致命的な症例では上昇がみられないという独特のパターンを示したとされています11)

SFTSウイルスの感染経路

ダニ媒介感染症と言われるように、主にSFTSウイルスを保有したマダニ(フタトゲチマダニ、タカサゴキララマダニ等)に皮膚を刺咬されることでヒトへ感染するといわれています1)

マダニによる刺咬について

・マダニに咬まれる場所
マダニ類の刺咬症に関する調査において、マダニに刺咬された状況としては山菜取り、キャンプや登山、山林での仕事中に刺咬された可能性が高いとされています12)。そのため、屋外で活動した場合は、帰宅後の入浴時等にダニの付着が無いか皮膚の柔らかいところ(膝裏等)を重点的に確認する事が望ましいといえます。

・マダニに咬まれた場合の症状
受診時の症状は、長径5cm以下の紅斑が最も多く、次いで、硬結、痂皮の付着などで、症状の無いものもみられます。刺咬部位としては頸部、腹部、背部、下肢に多いとされ、特殊な例では耳介、眼瞼、陰股部に生じた例も報告されています。露出部だけではなく被覆部にも生じることがあるため注意が必要です。なお、指摘されるまではダニであることに気づかず「いぼ・こぶ」ができたと訴える人も見受けられます。自覚症状としては疼痛、掻痒が多かったとされています12)。なお、マダニは宿主に長期間吸血するため、咬着時に唾液腺から抗ヒスタミン物質等を放出することで肥満細胞由来の炎症の発生を阻害します13)。そのため、マダニが咬着していてもそれほどひどい自覚症状がないのも特徴とされ、そのことが約2週間にわたる長期の咬着を気づかずにいることになるとされます12)

・マダニに咬まれた場合の対応
マダニに咬まれた場合、飽血すれば自然に脱落するので、放置するという考え方もありますが、マダニが病原体を保有する場合は時間とともに感染症を媒介するリスクが高くなる可能性があることから、早期に除去する方が無難とされています14)
マダニ類の刺咬部位は長期間の吸血に耐えられるよう強固な咬着性を持つようになりますが、刺咬後1日以内では、咬着の機構が未完成なため、ピンセットでつまみ抜去することができます。一方で、咬着後2日以上経過したマダニを力ずくで抜去しようとすると、多くの場合、顎体部が根元からちぎれる等、口器の一部が残存することが多いとされます。その場合、口器が残存した周囲に硬結が生じることになります15)
なお、マダニを抜去しようとして強くつまむことでマダニの吐出液を皮内に押し込み、マダニが保有するウイルスや細菌の感染を助長する可能性も示唆されています15)。マダニが媒介する感染症にはSFTS以外にも日本紅斑熱、ライム病などが知られています16)。そのため、マダニに刺咬されたことが分かった場合は無理に除去せず速やかに医療機関を受診することが望まれます。

マダニ以外の感染経路

2014年の中国の報告では、SFTS患者の治療にあたったICUの医師、ICU顧問医師、患者家族ら計5名のクラスターが発生しています。このケースでは、すべての2次感染者が患者の血液が皮膚または粘膜と接触した可能性があったとされています。例えば、ICUの医師は挿管時に一般的な手術用の防護具を着用していましたが、フェイスシールドやゴーグルが未着用だったとされています。また、ICUの顧問医師はICU看護師との処置時にグローブ未装着の状態で患者血液が手に付着したとされています17)
また、ヒトからの感染だけでなくネコやイヌからの感染も報告されています。この調査によると、一部のSFTS発症者では発症の2週間以内に伴侶動物(ペット)との密接な接触があったとされています。病気のペットの体液との直接接触、病気の野良猫の唾液と直接接触していたことも確認されています。これらの患者はマダニに咬まれたことは無いとされており、病気のペットがSFTSウイルスの感染源となっている可能性が示唆されています。そのため、病気のペットの体液との直接接触は避けるべきとされています18)

感染防止対策

SFTSウイルスに対する消毒薬の有効性を検討した報告はありませんが、ウイルス学的な分類から酸や熱に弱く、一般的な消毒薬(消毒用アルコールなど)や台所用洗剤、紫外線照射等で感染性がなくなるとされています19)。SFTSウイルスのヒトからヒトへの感染は、感染した血液、血の混じった呼吸器分泌物、遺体の血液およびエアロゾルとの接触によって起こるとされています20)。そのため、患者等と接する際には、接触および飛沫予防策の実施、心肺蘇生術などのエアロゾル発生を伴う処置を実施する場合には、空気予防策の実施も望ましいとされます21)。なお、SFTSの感染対策については国立国際医療研究センター国際感染症センターから「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 改訂新版 2019」が公開されており、感染対策の一例が紹介されています。

おわりに

SFTSは致死率の高い感染症で、一部の抗ウイルス薬に有効性が示唆されているものの22)、現時点では対症療法が主体となります19)。SFTSを引き起こすSFTSウイルスの感染を防ぐためには、日常においてはマダニによる刺咬予防の対策や、病気のペット等の体液への直接接触を避けることが大切です。また、医療機関においては、SFTS症例からの感染伝播予防に徹する必要があります。
SFTSをはじめ新興・再興感染症に罹患した患者はいつ訪れてもおかしくないため、普段から標準予防策を徹底し、必要に応じて接触・飛沫・空気予防策の追加対応を行えるよう体制を整えておくことが望ましいといえます。


<参考文献>

1.Saijo M:Pathophysiology of severe fever with thrombocytopenia syndrome and development of specific antiviral therapy. J Infect Chemother 2018;24:773-781.[Full Text]

2.Yu XJ, Liang MF, Zhang SY, et al.:Fever with thrombocytopenia associated with a novel bunyavirus in China. N Engl J Med  2011;364:1523-1532.[Full Text]

3.Takahashi T, Maeda K, Suzuki T, et al.:The first identification and retrospective study of Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome in Japan. J Infect Dis 2014;209:816-827.[Full Text]

4. 国立感染症研究所:重症熱性血小板減少症候群(2021年4月30日閲覧)[Full Text]

5.Li A, Liu L, Wu W et al.: Molecular evolution and genetic diversity analysis of SFTS virus based on next-generation sequencing. Biosaf Health 2021;3:105-115[Full Text]

6.静岡県 健康福祉部医療局疾病対策課: 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者の発生について(2021年4月30日閲覧)[Full Text]

7.東京都 福祉保健局:報道発表資料 2019年5月15日 重症熱性血小板減少症候群(2021年4月30日閲覧)[Full Text]

8.国立感染症研究所:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの国内分布調査結果(第二報) IASR 2014;35:75-76.[Full Text]

9.Liu Q, He B, Huang S.Y, et al.:Severe fever with thrombocytopenia syndrome, an emerging tick-borne zoonosis. Lancet Infect Dis 2014;14:763-772.[PubMed]

10.Zhang J, Yan X, Li Y, et al.:Reactive plasmacytosis mimicking multiple myeloma associated with SFTS virus infection:a report of two cases and literature review. BMC Infect Dis 2018;18:528.[Full Text]

11.Sun Y, Jin C, Faxian Zhan, Xianjun Wang, et al.:Host cytokine storm is associated with disease severity of severe fever with thrombocytopenia syndrome. J Infect Dis 2012;206:1085-1094.[Full Text]

12.堀内信之, 西垣良夫, 塩飽邦憲 他:病原媒介性マダニ類の刺咬症とその感染症の臨床疫学的調査研究・第1報 日農医誌 2004;53:23-37.[Full Text]

13.田仲哲也:マダニの吸血生理と抗マダニワクチン 衛生動物 2020;71:57-64.[Full Text]

14.夏秋優:皮膚科医のための臨床トピックス ワセリンを用いたマダニの除去法. 臨床皮膚科 2014;68:149-152.

15.堀内信之:長野県佐久地方におけるマダニ刺咬症とライム病の臨床疫学的研究 日農医誌 2001;50:85-95.[Full Text]

16.Yamaji K, Aonuma H, Kanuka H:Distribution of tick-borne diseases in Japan:Past patterns and implications for the future. J Infect Chemother 2018;24:499-504.[Full Text]

17.Gai ZT, Zhang Y, Liang MF, et al.:Clinical progress and risk factors for death in severe fever with thrombocytopenia syndrome patients. J Infect Dis 2012;206:1095-1102.[Full Text]

18.Kobayashi Y, Kato H, Yamagishi T, et al.:Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome, Japan, 2013-2017. Emerg Infect Dis 2020;26:692-699.[Full Text]

19.厚生労働省:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A[Full Text]

20.Wang F, Wu Y, Jiao J, et al.:Risk Factors and Clinical Characteristics of Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome. Int J Gen Med 2020;13:1661-1667.[Full Text]

21.国立国際医療研究センター国際感染症センター:「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 改訂新版 2019」[Full Text]

22.Suemori K, Saijo M, Yamanaka A, et al.:A multicenter non-randomized, uncontrolled single arm trial for evaluation of the efficacy and the safety of the treatment with favipiravir for patients with severe fever with thrombocytopenia syndrome. PLoS Negl Trop Dis 2021;15:e0009103.[Full Text]


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