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Y’s Letter Vol.4.No.26 Published online:2022.02.22
はじめに
2021年11月26日、WHOは新型コロナウイルスの変異株B.1.1.529系統を懸念される変異株に指定し、オミクロンと命名しました。オミクロン株は、スパイクタンパク質に26~32箇所の変異を含む多数の変異を有していることから高い免疫回避能力を持ち、強い感染性を有していると考えられています1)。
日本国内においてはデルタ株を主因とする新型コロナウイルス感染の第5波が収束し、しばらく感染者数が少ない状態が続いていましたが、デルタ株からオミクロン株へと置き換えが進むにつれて再び感染が拡大しています。諸外国でも多くの国でオミクロン株による感染者数の急激な増加が見られていますが、一方で日本よりも早い時期に流行した国や地域においては次第に終息傾向を示しています。
南アフリカや英国、米国では早期に感染の流行が認められ、これらの国の疫学調査等によりオミクロン株の特徴が判明しつつあります。今回はこれらのデータに加え、現在までに判明している日本国内の知見も交え、オミクロン株の特徴などについて紹介します。
オミクロン株による感染の重症度
オミクロン株が世界で初めて確認された南アフリカでは、これまでに新型コロナウイルスによる4回の感染流行が見られ、第4波がオミクロン株による感染流行とされています。南アフリカでの疫学的調査にてオミクロン株の重症度などの特徴が報告されています2)。COVID-19が陽性で救急受診し、入院に至った患者の割合は第1〜3波で68〜69%であったのに対し、第4波では41.3%でした。第4波では合併症を有する患者が有意に少なく、急性呼吸器症状を呈する患者の割合は第4波で31.6%、第3波では最大91.2%でした(p<0.001)。酸素療法を必要とする患者の割合は第3波で74%、第4波で17.6%であり有意に減少し(p<0.001)、人工呼吸管理を受けている患者の割合も同様に第4波では低下傾向を示しました。集中治療室への入院は第3波で29.9%、第4波で18.5%でした(p<0.001)。入院期間の中央値は第1~3波で7~8日でしたが、第4波では3日に減少し、死亡率は第1波19.7%、第3波29.1%でしたが、第4波では2.7%に減少していました。このように南アフリカにおけるCOVID-19で入院した患者の特徴と転帰は第1~3波と比較して、感染者のほとんどがオミクロン株であった第4波では異なる特徴が観察され、若い患者は合併症が少なく、入院と呼吸器症状が少なく、重症度と死亡率も低下していました2)。しかし、南アフリカでは人口の60~70%が過去に新型コロナウイルスに感染しており、ある程度の免疫があったことが要因でこのような傾向になったと推察されています3)。また他の報告として、米国CDCより3つのサーベイランスシステムから2020年12月1日~2021年2月28日(2020~21冬期)、2021年7月15日~10月31日(デルタ株優勢期)、2021年12月19日~2022年1月15日(オミクロン株優勢期)における疫学的分析を行った結果が報告されています4)。各期の7日間移動平均推移ピーク時点におけるCOVID-19患者数、救急部門受診患者数、入院者数、死亡者数が調査され、その数値からCOVID-19患者における救急部門受診率、入院率、死亡率を算出したところ、オミクロン株優勢期ではそれぞれ6.0%、2.7%、0.23%、デルタ株優勢期では15.8%、7.5%、1.2%、2020~2021年冬期では8.1%、6.6%、1.4%でした(表1)。オミクロン株では他の流行期と比べて感染者数は多いですが、救急部門受診、入院、死亡の割合が低いことが示されています。
2020-21冬期 | デルタ株優勢期 | オミクロン株優勢期 | |
---|---|---|---|
COVID-19患者 | 250,335 | 164,249 | 798,976 |
救急部門受診患者 | 20,372(8.1%) | 25,873(15.8%) | 48,238(6.0%) |
入院 | 16,497(6.6%) | 12,285(7.5%) | 21,586(2.7%) |
死亡 | 3,422(1.4%) | 1,924(1.2%) | 1,854(0.23%) |
2020-21冬期 | デルタ株優勢期 | オミクロン株優勢期 | |
---|---|---|---|
全入院患者 | |||
合計 0-17歳 18-50歳 >50歳 |
108,360 11,504 31,070 65,786 |
110,950 13,946 34,537 62,467 |
98,920 11,517 28,040 59,363 |
COVID-19入院患者 | |||
合計 0-17歳 18-50歳 >50歳 |
12,963(12.0%) 147 (1.3%) 2,474 (8.0%) 10,342(15.7%) |
10,440 (9.4%) 272 (2.0%) 3,304 (9.6%) 6,864(11.0%) |
12,800(12.9%) 405 (3.5%) 3,988(14.2%) 8,407(14.2%) |
ICUに入院したCOVID-19患者 | |||
合計 0-17歳 18-50歳 >50歳 |
2,359(18.2%) 25(17.0%) 346(14.0%) 1,988(19.2%) |
1,824(17.5%) 50(18.4%) 438(13.3%) 1,336(19.5% |
1,658(13.0%) 42(10.4%) 377 (9.5%) 1,239(14.7%) |
IMVを実施したCOVID-19入院患者 | |||
合計 0-17歳 18-50歳 >50歳 |
764(7.5%) 1(0.8%) 122(6.2%) 641(8.0%) |
503(6.6%) 1(0.4%) 118(4.9%) 384(7.7%) |
358(3.5%) 0 (-) 73(2.3%) 285(4.3%) |
入院中に死亡したCOVID-19患者 | |||
合計 0-17歳 18-50歳 >50歳 |
976(12.9%) 1 (1.1%) 57 (4.0%) 918(15.2%) |
803(12.3%) 0 (-) 110 (5.4%) 693(16.0%) |
533 (7.1%) 0 (-) 38 (1.7%) 495(10.0%) |
・「COVID-19入院患者」の( )内は「全入院患者」に対する割合。
・「ICUに入院したCOVID-19患者」、 「IMVを実施したCOVID-19入院患者」および「入院中に死亡したCOVID-19患者」の( )内は 「COVID-19入院患者」に対する割合。ただし、「IMVを実施したCOVID-19入院患者」および「入院中に死亡したCOVID-19患者」はそれぞれ135病院、148病院のサブセット解析のデータから算出。
オミクロン株の感染力
オミクロン株はデルタ株と比較して2〜3倍の感染力を持っているとされています。英国における研究によると、オミクロン株に感染した18,682人のうち、家庭内接触にて2次感染が生じたのは2,539人(13.6%)であったのに対して、デルタ株では403,162人中40,644人(10.1%)でした(調整オッズ比:2.63(95%信頼区間(CI):2.43‐2.84), p<0.001)5)。また家庭外接触によって2次感染が生じたのは14,606人中1,109人(7.6%)であったのに対し、デルタ株では102,997人中2,922人(2.8%)でした(調整オッズ比:1.42(95%CI:1.36‐1.49), p<0.001)5)。
オミクロン株はデルタ株よりも速く、かつ効率的に細胞内で増殖することが分かっており、ヒト鼻腔由来の細胞を用いた実験では増殖速度がデルタ株よりも早い結果を示しています6)7)。一方で肺由来の細胞を用いた実験では、オミクロン株の増殖速度はデルタ株を上回らないとの結果となっており、6)7)ハムスターを用いた動物実験でも同様の結果が得られています8)。このことは、上気道でのウイルス複製が優勢であるために高い感染性を示している可能性があることを示唆しています1)。
オミクロン株の潜伏期間・ウイルス排出期間
国立感染症研究所にて、実地疫学調査および新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS) のデータを用いて、オミクロン株の潜伏期間の推定を行い、その暫定結果について報告されています9)。実地疫学調査データを用いたオミクロン株症例の潜伏期間の中央値は2.9日(95%CI:2.6‐3.2)であり、曝露から6.7日以内に99%の症例が発症していました(図1, A)。またHER-SYSのデータを用いた解析では、潜伏期間は2.9日(95%CI:2.5‐3.2)で実地疫学調査と同程度であり、感染曝露から95%および99%の症例で発症するまでの日数はそれぞれ7.1日、9.7日と報告されています(図1, B)。

図1. オミクロン株による曝露-発症間隔の分布
出典:「SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)の潜伏期間の推定:暫定報告」(国立感染症研究所)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10903-b11529-period.html)を加工して作成。
また国内の積極的疫学調査により、オミクロン株感染症例の呼吸器検体中のウイルスRNA量の推移と感染性ウイルスの検出期間を検討した報告があります10)。21症例83検体を調査した結果、ウイルスRNA量は診断日または発症日から3~6日で最も高くなり、その後日数が経過するにつれて、低下傾向を示しました。診断または発症10日以降でもRNAが検出される検体は認められていますが、ウイルス分離可能な検体は認められていません。なお、検討した21症例中19例はワクチンを2回以上接種しており、未接種者は2例でいずれも未成年でした。また症状は無症状が4例、軽症が17例であり、重症患者はいませんでした。これらの検討では第2報および第3報が公表され、それぞれワクチン未接種者、無症状者におけるウイルス排出期間について検討されています。ワクチン未接種者のウイルス排出期間についてはワクチン接種者と比べて長期化する可能性を示唆するデータは得られなかったと結論付けています11)。また無症状者においては呼吸器検体中のウイルスRNA量は診断後経時的に減少傾向であり、診断8日目以降もRNAは持続的に検出されていましたが、ウイルス分離可能な症例は診断6日目以降に減少し、診断8日目以降にウイルス分離可能な症例は認めなかったと報告されています12)。これらの知見から、軽症者においては発症または診断10日目以降、無症状者においては8日目以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆されました。
ワクチンの有効性
ワクチンの有効性についてはいくつかの報告がありますが、米国CDCが10州を対象とし2021年8月26日~2022年1月5日までの大規模な調査にてデルタ株およびオミクロン株優勢期におけるワクチンの有効性についての研究結果を公開しています13)。2回接種14~179日後、2回接種180日以上経過後、3回接種14日以上経過後の医療機関への救急部門受診予防効果は、オミクロン株がそれぞれ52%、38%、82%であり3回接種することで高い有効性を示しました。また入院予防に対してはそれぞれ81%、57%、90%の有効性を示しました。一方でデルタ株での救急部門受診予防効果はそれぞれ86%、76%、94%であり、入院予防効果はそれぞれ90%、81%、94%でした。
このように2回目のワクチン接種から180日以上経過することでワクチンの有効性が低下しますが、3回目の追加接種をすることによってデルタ株およびオミクロン株に対してより高い効果が期待できることが示されています。
おわりに
オミクロン株感染者の症状は軽症であることが多いですが、一定の割合で、特に年齢が高くなるに従って重症化する可能性が高いことが分かっています。高い感染力を有しているため、感染者数が増加するにつれて重症者の数も増加することが懸念されます。したがって、これまでの基本的な感染対策を励行することは極めて重要となり、さらにワクチンの3回目接種によるブースター効果も重症化予防効果が期待できるため有効な対策であると考えられます。
また現在流行しているオミクロン株は主にBA.1に分類されていますが、新たな亜種としてBA.2の流行が懸念されています。この亜種はステルスオミクロン株と言われ、BA.1よりも更に感染力が強い可能性があると指摘されています。このように新たな変異株の出現にも警戒し、備える必要があります。
<参考文献>
1.WHO:Enhancing response to Omicron SARS-CoV-2 variant. 21 January 2022.[Full Text]
2.Maslo C, Friedland R, Toubkin M, et al:Characteristics and Outcomes of Hospitalized Patients in South Africa During the COVID-19 Omicron Wave Compared With Previous Waves. JAMA 2021:e2124868. [Full Text]
3.Christie B:Covid-19: Early studies give hope omicron is milder than other variants. BMJ 2021 375:n3144.[Full Text]
4.CDC:Trends in Disease Severity and Health Care Utilization During the Early Omicron Variant Period Compared with Previous SARS-CoV-2 High Transmission Periods - United States, December 2020-January 2022. MMWR January 25, 2022.[Full Text]
5.UK Health Security Agency:SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: technical briefing 33. Published December 23, 2021. [Full Text]
6.Chan MCW, Hui KP, Ho J, et al:SARS-CoV-2 Omicron variant replication in human respiratory tract ex vivo. Research Square, 2021. [Full Text]
7.Brown J, Zhou J, Peacock T, et al:The SARS-CoV-2 variant, Omicron, shows enhanced replication in human primary nasal epithelial cells.
GOV. UK, Coronavirus(COVID-19) Latest updates and guidance 2021. [Full Text]
8.Abdelnabi R, Foo CS, Zhang X, et al:The omicron (B.1.1.529) SARS-CoV-2 variant of concern does not readily infect Syrian hamsters. Antiviral Res 2022:198.[Full Text]
9.国立感染症研究所:SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)の潜伏期間の推定:暫定報告. 2022年1月13日.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10903-b11529-period.html
10.国立感染症研究所、国立国際医療研究センター 国際感染症センター:SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第1報):感染性持続期間の検討. 令和4年1月5日.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10880-covid19-66.html
11.国立感染症研究所、国立国際医療研究センター 国際感染症センター:SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査:新型コロナワクチン未接種者におけるウイルス排出期間(第2報). 令和4年1月13日.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10899-covid19-67.html
12.国立感染症研究所、国立国際医療研究センター 国際感染症センター:SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第3報):新型コロナウイルス無症状病原体保有者におけるウイルス排出期間. 令和4年1月27日.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10942-covid19-70.html
13.CDC:Effectiveness of a Third Dose of mRNA Vaccines Against COVID-19-Associated Emergency Department and Urgent Care Encounters and Hospitalizations Among Adults During Periods of Delta and Omicron Variant Predominance - VISION Network, 10 States, August 2021-January 2022. MMWR January 21, 2022.[Full Text]