感染対策情報レター

SHEA/IDSA/APICの実践勧告 急性期ケア病院における中心静脈ライン関連血流感染予防のための戦略: 2022年改訂版

はじめに

米国医療疫学学会(Society for Healthcare Epidemiology of America:SHEA)は米国感染症学会(Infectious Diseases Society of America:IDSA)、米国感染管理疫学専門家協会(Association for Professionals in Infection Control and Epidemiology:APIC)などの関連学会と連携し、2008年に公開され2014年に改訂された「急性期ケア病院における中心静脈ライン関連血流感染予防のための戦略」について最近の知見を踏まえて更に改訂し、2022年4月に公表しました1)
これまでに発表されているガイドラインでは、感染予防のための包括的な推奨事項が示されていますが、本勧告では、急性期ケア病院が中心静脈ライン関連血流感染(Central Line-associated Bloodstream Infections:CLABSI)予防の取り組みの実施と優先順位をつける際に役立つように設計された簡潔な形式で、実践的な推奨事項を強調しています。
今回は主な改訂点、CLABSI対策のための勧告および消毒薬に関する勧告の詳細について述べます。

主な改訂点1)

2014年版の勧告部分において、全ての急性期病院が採用すべき事項は「基本実施事項(Basic Practices)」となっていましたが、今回の改訂版では医療関連感染予防プログラムの基礎としての重要性を強調するために「必須実施事項(Essential Practices)」へ名称が変更となりました。また「必須実施事項」を行ってもCLABSIが制御できない場合に適用を検討できる対策については、2014年では「特別な取り組み(Special Approaches)」とされていましたが、改訂版では「追加の取り組み(Additional Approaches)」へ変更になりました。
「必須実施事項」、「追加の取り組み」および「その他の変更点」は以下の通りです。

必須実施事項における変更点
ICUでの中心静脈カテーテル(CVC)の挿入部位について2014年版では大腿静脈を避ける事との勧告となっていたが、今回の改訂版では鎖骨下に留置することへ変更された。
カテーテル挿入に超音波ガイドを使用する推奨は2014年版よりもエビデンスの質が高くなった。一方で、この手技自体が無菌操作の破綻につながる可能性があることについて追記された。
クロルヘキシジン(CHG)含有ドレッシングの使用について、2014年版では「特別な取り組み」に挙げられていたが、今回の改訂版では「必須実施事項」へ変更された。
血液、血液製剤、または脂肪製剤を使用しない輸液セットの定期的な交換について、2014年版では4日以内であったが、改訂版では最大7日間と変更された。
追加の取り組みおよびその他の変更点等
血液透析患者のカテーテル挿入部位への抗菌薬軟膏の使用は改訂前では「基本実施事項」となっていたが、特定の集団に焦点を当てた対策であるため、「追加の取り組み」へ変更した。
消毒薬含有キャップは現在の知見で高レベルのエビデンスに裏付けられているにもかかわらず、必須実施事項であるアクセス前の用手による消毒より優れているとは考えられないため、「追加の取り組み」のまま変更なしとなった。
輸液チームの重要性について、改訂前では未解決問題とされていたが、改訂版では「追加の取り組み」となり、強調された。
カテーテルの無縫合固定については、改訂前では取り上げられていなかったが、改訂版では未解決問題に記載された。

勧告の内容

勧告は「必須実施事項」と「追加の取り組み」に分かれており、それ以外に「日常的に実施すべきでないと考えられる事項」および「未解決問題」についても取り上げています。「必須実施事項」には、CLABSIのリスクに影響を与える可能性が対策を行うことで生じる弊害の可能性を明らかに上回る推奨事項が含まれています。また「追加の取り組み」には、介入によってCLABSIリスクが低下する可能性は高いが、対策を講じることによる弊害のリスクが懸念される勧告、エビデンスの質が低い勧告、費用対効果が低い勧告、特定の環境(例:アウトブレイク時)または特定の患者集団に対する介入の影響を裏付けるエビデンスが存在する勧告が含まれています。
各医療機関では、「必須実施事項」としてリストアップされた予防戦略の実施に関して、最初に重点を置くことで取り組みに優先順位をつけることができます。CLABSIサーベイランスまたは他のリスク評価によって継続的に改善の必要性を示唆している場合、各医療機関は「追加の取り組み」として挙げられた対策の一部または全ての採用を検討するべきであることが示されています。これらは特定の場所または患者集団で実施することができ、また転帰に関するデータ、リスク評価、および/または部署の要求に応じて病院全体でも実施することができます。
各勧告およびエビデンスの質については表1をご参照下さい。

表1. CLABSI対策のための勧告
必須実施事項
【カテーテル挿入前】
1. 不必要なCVCの留置を最小限にするため、エビデンスに基づくCVC使用の適応リストを容易に入手できるようにする(エビデンスの質:低)
2. CVCの挿入、ケア、維持に携わる医療従事者にCLABSI予防に関する教育および能力評価を義務付ける(エビデンスの質:中)
3. 生後2ヶ月を超えるICUの患者を毎日クロルヘキシジン製剤で入浴させる(エビデンスの質:高)
【カテーテル挿入時】
1. ICUおよびICU以外の施設はCVC挿入時に感染防止対策の遵守を確認するためのチェックリストなどのプロセスを導入すべきである(エビデンスの質:中)
2. カテーテル挿入または操作の前に手指衛生を実施する(エビデンスの質:中)
3. ICUでカテーテルを留置する場合、感染性合併症を減らすために鎖骨下に留置することが望ましい(エビデンスの質:高)
4. 全ての必要物品が含まれているカテーテルカートまたはキットを使用する(エビデンスの質:中)
5. カテーテル挿入には超音波ガイドを使用する(エビデンスの質:高)
6. CVC挿入時にはマキシマムバリアプリコーションを実施する(エビデンスの質:中)
7. 皮膚消毒にはクロルヘキシジンアルコールを使用する(エビデンスの質:高)
【カテーテル挿入後】
1.  ICUでの適切な看護師対患者比率を確保し、フロートナースの使用を制限する(エビデンスの質:高)
2. 生後2ヶ月を超えるCVC挿入患者にはクロルヘキシジン含有ドレッシングを使用する(エビデンスの質:高)
3. 成人および小児の非トンネル型CVCでは少なくとも7日ごと、またはドレッシングの汚れ、緩み、湿りが認められた場合には直ちに透明ドレッシングを交換し、クロルヘキシジン含有製剤で挿入部位を消毒する。ガーゼドレッシングは2日ごとに、またはドレッシングの汚れ、緩み、湿りが認められた場合は早めに交換する(エビデンスの質:中)
4. カテーテルへアクセスする前に、カテーテルハブ、ニードルレスコネクター、および注入ポートを消毒する(エビデンスの質:中)
5. 必要のないカテーテルは抜去する(エビデンスの質:中)
6. 血液、血液製剤、または脂肪製剤を使用しない輸液セットの定期的な交換は最大7日間の間隔とすることができる(エビデンスの質:高)
7. ICUおよびICU以外でCLABSIのサーベイランスを実施する(エビデンスの質:高)
追加の取り組み
1. 消毒薬または抗菌薬含浸のCVCを使用する(エビデンスの質:成人—高、小児—中)
2. 長期CVCを留置する場合には抗菌薬ロック療法を用いる(エビデンスの質:高)
3. CVCによる血液透析を受けている患者には、血液透析後に(カテーテルロックとして)遺伝子組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rt-PA)を週1回使用する(エビデンスの質:高)
4. CLABSI発生率低減のために、輸液またはバスキュラーアクセスチームを活用する(エビデンスの質:低)
5. 血液透析カテーテル挿入部位に抗菌薬軟膏を使用する(エビデンスの質:高)
6. コネクターのカバーには消毒薬含有ハブ/コネクターキャップ/ポートプロテクターを使用する(エビデンスの質:中)
日常的に実施すべきでないと考えられる事項
1. 短期間またはトンネル型カテーテルの挿入時、またはカテーテル留置中は抗菌薬の予防投与を行わない(エビデンスの質:高)
2. CVCまたは動脈カテーテルをルーチンに交換しない(エビデンスの質:高)
未解決問題
1. リスク、ベネフィット、および適正使用に関する教育の評価を受ける前のCLABSI対策としてのニードルレスコネクターのルーチン使用
2. 他の種類のカテーテル(末梢動脈または静脈カテーテルなど)のサーベイランス
3. 標準的な非抗菌性透明ドレッシングとCLABSIリスク
4. クロルヘキシジン製剤の使用がクロルヘキシジンに対する細菌耐性へ与える影響
5. 無縫合によるカテーテル固定法
6. 早産児に対する銀ゼオライト含浸臍帯カテーテルの影響(小児への使用が認められている国の場合)
7. 消毒薬含有キャップの使用時に、カテーテルへのアクセス前にカテーテルハブ、ニードルレスコネクター、注入口の機械的消毒の必要性
*フロートナース:特定の病棟または病院に属さず、他病棟または他病院へ応援業務を行う看護師。

消毒薬に関連した勧告

カテーテル挿入前のCHG浴について

ICUにおける毎日のCHG浴がCLABSI等の発生率に与える影響を検討した研究において、本勧告で引用している殆どの研究でCLABSIや菌血症が減少しています2)-6)。これらの結果を基にカテーテル挿入前から生後2ヶ月を超えるICUの患者を毎日CHG製剤で入浴させることが「必須実施事項」として推奨されています(エビデンスの質:高)。また、長期急性期ケア病院における検討においても毎日のCHG浴がCVC関連血流感染を低減した報告があり、予防策として考慮される可能性について言及しています7)
一方で、ICU以外の患者におけるCHG浴の役割については、ある研究でCHG浴によるデバイス関連菌血症の有意な減少が認められたが、MRSA患者ではムピロシンによる除菌も受けていたことから、CHG浴のみの効果について結論を導き出すことは困難であるとされています8)。また他のいくつかの研究でも有効性に関する報告がありますが、成人と小児を対象にした研究では一貫した結果が得られていません9)10)。これらの事からICU以外の患者におけるCHG浴の役割は依然として不明であり、リスク・ベネフィットを考慮して慎重に検討する必要があります。
また、生後2ヶ月未満の乳児に対するCHG浴のルーチン使用の安全性と有効性についても明らかにされていません11)。CHGによる生命を脅かす皮膚損傷は、新生児や超早産児で報告されていますが、それらは一般的に生後7日未満の出生体重1,000g未満の乳児で起こっており、年長乳児ではまれであると考えられています12)-14)
CHGを広範囲に使用することにより、CHG感受性の低下が懸念されますが、臨床的意義については明らかにされていません15)

カテーテル挿入時の皮膚消毒について

カテーテル挿入時の皮膚消毒にはCHGアルコールを使用する事が高いエビデンスの質として推奨され16)-22)、CHG濃度については少なくとも2%を使用するとされています。また、皮膚に穿刺を行う前に消毒薬を乾燥させる必要があること、NICU患者に対するCHGアルコールの適用については、利益が潜在的リスクを上回ると判断される場合のみに使用するとされています。
*日本国内において2%CHGは適応外の濃度になります。

おわりに

本勧告ではカテーテル挿入前、挿入時、挿入後におけるCLABSI対策で実施すべき事項について述べられています。これらの勧告は1つのみを実施するのではなく、バンドルにて実施することでより効果的な対策になります。どの勧告を採用するかについては感染状況や選択できる製品の状況等によって異なりますので、施設の状況に応じて検討が必要になります。またこれらの対策が実施されているかチェックリスト等を用いて遵守率を評価することも大切です。
本勧告は米国の状況に準じて作成されていますので、日本では選択できない製品もありますが、CLABSI対策において参考となる勧告であると思われます。


<参考文献>

1) Buetti N, Marschall J, Drees M, et al.:Strategies to prevent central line-associated bloodstream infections in acute-care hospitals: 2022 Update. Infect Control Hosp Epidemiol 2022;43:1-17. [Full Text]

2) Bleasdale SC, Trick WE, Gonzalez IM, et al.: Effectiveness of chlorhexidine bathing to reduce catheter-associated bloodstream infections in medical intensive care unit patients. Arch Intern Med 2007;167:2073-2079. [Full Text] 

3) Milstone AM, Elward A, Song X, et al.:Daily chlorhexidine bathing to reduce bacteraemia in critically ill children: a multicentre, cluster-randomised, crossover trial. Lancet 2013;381:1099-1106. [Full Text]

4) Climo MW, Yokoe DS, Warren DK, et al.:Effect of daily chlorhexidine bathing on hospital-acquired infection. N Engl J Med 2013;368:533-542. [Full Text]

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7) Munoz-Price LS, Hota B, Stemer A, et al.: Prevention of bloodstream infections by use of daily chlorhexidine baths for patients at a long-term acute care hospital. Infect Control Hosp Epidemiol 2009;30:1031-1035. [PubMed]

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9) Tien KL, Sheng WH, Shieh SC, et al.:Chlorhexidine Bathing to Prevent Central Line-Associated Bloodstream Infections in Hematology Units: A Prospective, Controlled Cohort Study. Clin Infect Dis 2020;71:556-563. [Full Text]

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14) Chandonnet CJ, Toole C, Young V, et al.:Safety of Biweekly Chlorhexidine Gluconate Bathing in Infants 36 To 48 Weeks' Postmenstrual Age. Am J Crit Care 2019;28:451-459. [PubMed]

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