感染対策情報レター

Y’s Letter Vol.5 No.1
RSウイルス感染症の近年の動向と対策

はじめに

RSウイルス感染症はRSウイルス(Respiratory syncytial virus)によって引き起こされる呼吸器感染症です。日本ではここ数年は夏季に流行する傾向がみられていましたが、2025年はこれまでとは異なる傾向を示しています。そこで、本稿ではRSウイルス感染症の近年の動向とその感染対策などについて概説します。

RSウイルスとは

RSウイルスはパラミクソウイルス科ニューモウイルス属のエンベロープをもつ一本鎖マイナス鎖のRNAウイルスです1)
RSウイルスはもともと細気管支炎を呈したチンパンジーの呼吸分泌物から初めて同定され、チンパンジー鼻感冒病原体(chimpanzee coryza agent)と呼ばれていましたが、その後、このウイルスが乳幼児の気道に感染し、組織培養で巨大な合胞体(syncytial cells)を形成する特徴を持つことから、RSウイルス(呼吸器合胞体ウイルス)と改称されました。なお、この合胞体の形成はRSウイルスによる細胞傷害作用の特徴と考えられてきましたが、実際にはヘルペスウイルス1型、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)など、他のウイルスに感染した宿主細胞でも生じることが明らかになっており、RSウイルス特有ではないこともわかっています2)

RSウイルス感染症

RSウイルスは2歳までにほぼすべての小児に感染することで知られ、乳児期における下気道感染症の約80%はRSウイルスによるものとされます3)。これは、1歳未満の乳児では母体由来の免疫グロブリンがRSウイルスに対して十分な防御ができないことが原因の一つと考えられています。
RSウイルスは5歳未満の小児において全世界で毎年3,300万件以上の下気道感染症を引き起こし、10万1,000人以上が死亡していますが、そのうち約半数は生後6か月未満の乳児で発生しています4)。このような背景からRSウイルス感染症は「乳幼児でのみ重症化する感染症」と認識されてきました。しかし、近年、臨床現場で分子診断法が日常的に使用されるようになったことで、従来インフルエンザ様疾患と考えられていた症例の一部が、RSウイルスによる感染症と診断されるようになっており、高齢者においても重要な病原体として認識されてきています5,6)
高齢者は、加齢に伴う免疫機能の低下や基礎疾患の存在により、RSウイルス関連の重篤な合併症を発症するリスクが高く、これが入院や死亡につながる可能性があります。高所得国においては、60歳以上の成人で2019年にRSウイルス関連急性呼吸器感染症が推定520万例発生し、その結果、47万件の入院と3万3000件の院内死亡が生じているとの報告もあります7)。また、2019年には70歳を超える高齢者のRSウイルス関連での死亡率が5歳未満の小児の死亡率を上回ったとされています6)。なお、高齢者では検査の実施が少ないことから、実際の発生率および影響は過小評価されている可能性が高いとの指摘もあります7)
RSウイルスは再感染しやすいことも特徴の一つです。これは、RSウイルスに対する抗体およびT細胞は数週間から数か月で減少するためで8)、抗原性に変化がなくても再感染が生じ、自然感染後2か月以上経過すれば再感染が起こり得るといわれます5,6)

流行期

RSウイルス感染症の流行期は地域によって異なりますが季節性が知られています。温帯地域では晩秋、冬、あるいは春にかけて増加する一方、熱帯および北極圏では一年を通して症例がみられます。気温低下と患者数増加の関連については、室内での密集度が高まり、ウイルスが伝播しやすくなる、低温環境がウイルスの安定性を高める、宿主の感受性が高まることなどが考えられています3)
COVID-19の世界的な流行はRSウイルス感染症の流行に大きな影響を与え、2020年の冬には、世界中の多くの国でRSウイルス感染がほとんど消失しました。しかし、その後、多くの地域で夏季に流行が発生しています。このような季節外の流行は、長期にわたるRSウイルス曝露の減少により集団免疫が低下した「免疫負債」によるものであるとする報告もあります8)
日本においても2020年はほとんど患者の発生がありませんでしたが、2021年以降は流行がみられています。また、流行の時期については、COVID-19流行前では夏季から増加傾向となり秋季にピークとなる傾向がみられていましたが、2021~24年までの4年間の各週の定点報告数を平均すると夏季の報告数が多い状態であったのに対し、冬季は低い状態が続いていました。しかし、2025年は夏季の報告数が少なかった一方で、夏季以降に報告数が増加し、秋季以降もここ数年に比べると高い状態が続いています(図1)。

図1:国内におけるRSウイルス感染症発生動向
(2025年12月14日までの定点当たり報告件数)
出典:IDWR速報データ(2020~2025年(第50週))(国立健康危機管理研究機構)
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/rapid/sokuhou.html)のデータを基に作成。

症状

無症候性感染から重症の下気道感染症に至るまで、幅広い臨床像を示します。潜伏期間は通常4~7日で、その後に初発症状が現れます。
小児では鼻閉、咳嗽、鼻汁などの初期症状に続いて、発熱、喘鳴、頻呼吸、無呼吸がみられることがあり、細気管支炎、中耳炎、肺炎、敗血症、髄膜炎を合併することもあります6)。また、乳児期早期に重症化した場合、免疫系が影響を受けること等により、その後の小児期における喘鳴や喘息の発症との関連も指摘されています9)
成人における臨床像は小児とは異なり、通常、上気道感染として軽度から中等度の症状を示し、咳嗽は90%超、喘鳴は約40%にみられますが、発熱が38℃を超えることは稀とされます。しかし、呼吸器疾患や心疾患などの併存症を有する成人、高齢者では、より重症化する可能性があります。また、他の呼吸器ウイルスまたは細菌との同時感染を起こす場合もあり、高齢者では重篤化、死亡率上昇の原因となります6)

治療

RSウイルスに感染した場合、鼻汁や咳などの気道症状が起こることがありますが、健常成人では自然軽快します10)。また、RSウイルス感染症に対しては特異的な治療法がないため、安静、保温と水分補給といった支持療法が基本になります。なお、細気管支炎を中心とする重症下気道炎時には入院加療が必要になります。

予防・感染対策

RSウイルスの感染経路としては、飛沫感染、汚染された手指、物品を介しての感染、鼻粘膜・眼球粘膜からの感染が多いとされています。そのため、感染対策としては、標準予防策に加え、接触と飛沫感染予防策が必要となります。ケア時の装備としては、ガウン、手袋、マスクが必要で、特に吸痰時には汚染に留意し、手指衛生も重要となります12)。RSウイルスは主に呼吸器からの飛沫によって伝播しますが、含嗽剤は口腔内のウイルス量を一時的に低下させるため、伝播リスクを低減し得ることも示唆されています13)
RSウイルス感染症は症状が出現する1~2日前から他者へ感染させる可能性があり、通常3~8日間感染性を有するとされます。なお、一部の乳児や免疫機能が低下した患者では、症状が消失した後も最大4週間にわたりウイルスを排出し続ける場合があります3)
感染者の咳やくしゃみから生じた飛沫が物品等の表面に付着した場合、表面の種類によって、ウイルスが感染性を有する時間は異なっており、非多孔性表面上(カウンタートップ、ガラス、プラスチック、金属等の硬い表面)では最も長く、最大6時間に及びます。一方、紙、段ボール、布類といった多孔性表面上では、RSウイルスの生存時間は最大2時間とされています。なお、皮膚上では、RSウイルスの生存時間は最も短く、約30分程度ですが、手袋上では最大5時間感染性を維持するとの報告もあります3)。そのため、医療施設内では感染者と接触した職員に感染しやすく、職員は無症状でも他の患者に感染させる可能性があるため注意が必要です。

消毒薬感受性

RSウイルスはエンベロープを有するウイルスのため消毒薬に対する抵抗性はさほど高くありません。そのため、次亜塩素酸ナトリウム、エタノール、イソプロパノール、クロルヘキシジンなどであれば効率的に不活化することができると報告されています13)

おわりに

RSウイルス感染症は、COVID-19の世界的な流行により流行時期や規模が大きく変動し、近年は従来とは異なる動向を示していました。一方、本年はCOVID-19流行前のような季節性がみられています。今後の流行動向については依然として不確実性が高いため、本感染症の疫学動向は継続して注視する必要があります。
RSウイルス感染症は小児だけでなく、高齢者や基礎疾患を有する患者において重症化リスクが高いことが明らかになっており、小児と成人双方の重症化予防の観点からも医療施設内での二次感染防止には、適切な感染対策の実施が求められます。


<参考文献>

1.橋本浩一:RSウイルス感染症 月刊地域医学 2023;37:22-27. [Full Text]
2.Mammas IN, Drysdale SB, Theodoridou M, et al.:Viruses, vaccinations and RSV: Exploring terminology in paediatric virology. Exp Ther Med 2020;20:300. [Full Text]
3.Kaler J, Hussain A, Patel K, et al.:Respiratory Syncytial Virus: A Comprehensive Review of Transmission, Pathophysiology, and Manifestation. Cureus 2023;15:e36342. [Full Text]
4.Shaaban FL, Groenendijk RW, Baral R, et al.:The path to equitable respiratory syncytial virus prevention for infants: challenges and opportunities for global implementation. Lancet Glob Health 2025;13:e2165-e2174. [Full Text]
5.Alfaro T, Froes F, Vicente C, et al.:Respiratory syncytial virus vaccination in older adults and patients with chronic disorders: A position paper from the Portuguese Society of Pulmonology, the Portuguese Association of General and Family Medicine, the Portuguese Society of Cardiology, the Portuguese Society of Infectious Diseases and Clinical Microbiology, the Portuguese Society of Endocrinology, Diabetes and Metabolism, and the Portuguese Society of Internal Medicine. Pulmonology 2025;31:2451456. [Full Text]
6.Tanriover MD, Azap A, Cakir Edis E, et al.:Respiratory syncytial virus (RSV) infections in adults: Current trends and recommendations for prevention - a global challenge from a local perspective. Hum Vaccin Immunother 2025;21:2514357. [Full Text]
7.Shaw CA, Essink B, Harper C, et al.:Safety and Immunogenicity of an mRNA-Based RSV Vaccine Including a 12-Month Booster in a Phase 1 Clinical Trial in Healthy Older Adults. J Infect Dis 2024;230:e647-e656. [Full Text]
8.Langedijk AC, Bont LJ.:Respiratory syncytial virus infection and novel interventions. Nat Rev Microbiol 2023;21:734-749. [LINK]
9.Malinczak CA, Fonseca W, Hrycaj SM, et al.:Early-life pulmonary viral infection leads to long-term functional and lower airway structural changes in the lungs. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2024;326:L280-L291. [Full Text]
10.倉井大輔:成人のRSウイルスワクチン 日内会誌 2024;113:2077-2083. [Full Text]
11.三鴨廣繁、多屋馨子、浅井信博ほか:RSV感染症診療の手引き 感染症学雑誌 2024;98:s1-s43. [Full Text]
12.石和田稔彦:近年流行したウイルス感染症の診断と感染対策 環境感染誌 2024;39:191-195. [Full Text]
13.Meister TL, Friesland M, Frericks N, et al.:
Virucidal activity of oral, hand, and surface disinfectants against respiratory syncytial virus. J Hosp Infect 2023;141:25-32. [Full Text]

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