感染対策情報レター

Y’s Letter Vol.5 No.2
消化器外科手術後の手術部位感染予防に関する欧州ガイドライン:消化器外科手術のためのUEG/ESCP/EAES/SIS-EによるWHO SSIガイドラインの共同アップデート

はじめに

2025年10月、欧州消化器病学会(UEG)、欧州大腸肛門病学会(ESCP)、欧州内視鏡手術学会(EAES)、欧州外科感染症学会(SIS-E)の4学会共同により「消化器外科手術後の手術部位感染(SSI)予防に関する欧州ガイドライン」1)が公開されました。本ガイドラインは消化器手術に特化したガイドラインではありますが、一方で特筆すべき点として、欧州4学会における「WHOのSSIガイドラインの共同アップデート」として公開されていることがあげられます。ここで言うWHOのSSIガイドラインとはすべての手術を対象とした「手術部位感染予防のためのグローバルガイドライン」2)(2016年公開、2018年アップデート)を指しており、当該ガイドラインをベースとしながら、肝胆道、膵臓を含む消化器の手術に関連する領域に焦点を当てた新たな情報と最新のエビデンスの評価に基づいた推奨事項を提供しています。なおアップデートの背景として、消化器手術においては消化管内容物に暴露することでSSIのリスクが高まる可能性があり、すべての手術を対象としたガイドラインではカバーしきれない特異性があることをあげています。
本稿においては、ガイドライン中で提供されている推奨事項のうち、消毒薬に関連する内容にフォーカスし、推奨の根拠などを含めて概説します。

消毒薬に関連する推奨事項

本ガイドラインにおける推奨事項は条件付き推奨3項目のみとなっており(表1)、非常にコンパクトな印象ですが、これはWHOのSSIガイドライン発表以降に新たなエビデンスを得られたトピックスのみで構成されていることによります。その中で消毒薬に関連するところでは、外性器や肛門、人工肛門などの粘膜を除き、皮膚消毒について「アルコールベースのクロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)の使用を提案する(非常に低い確実性のエビデンス)」が該当し、根拠として12件のRCT研究3~14)を用いた、以下の5つの問いに対するメタアナリシスが行われています。
Q1.アルコールベースのCHGとポビドンヨード(PVI)水溶液との比較
Q2. CHG水溶液とPVI水溶液との比較
Q3. アルコールベースの4%~5%CHGとPVI水溶液との比較
Q4. アルコールベースの2%~3%CHGとPVI水溶液との比較
Q5. アルコールベースの2%~3%CHGとアルコールベースのPVIとの比較
次のセクションではこれらの検討の結果を含めた根拠の概要を紹介します。  

表1. ガイドラインにおける推奨事項
すべての推奨事項は条件付きである。
肝胆道、膵臓を含む消化器の手術を受ける患者に対して
・アルコールベースのCHGの使用を提案する(非常に低い確実性のエビデンス)
・術前にコルチコステロイド製剤を中止することを提案する(非常に低い確実性のエビデンス)
・術前に抗TNF製剤を中止することを提案する(非常に低い確実性のエビデンス)
以下の比較については推奨事項は明示しない
・CHG水溶液とPVI水溶液
・アルコールベースの4%~5%CHGとPVI水溶液
・アルコールベースの2%~3%CHGとPVI水溶液
・アルコールベースの2%~3%CHGとアルコールベースのPVI
・術前のデキサメタゾン単回投与と非投与
・ベドリズマブ中止と継続
・ウステキヌマブ中止と継続
・ESBL産生腸内細菌科細菌の有病率が高い(>10%)地域における予防抗菌薬の変更の有無
・ESBL産生腸内細菌科細菌の保菌者における予防抗菌薬の変更の有無

推奨事項の根拠の概要

Q1.アルコールベースのCHGとPVI水溶液との比較

全SSI発生率についての9件のRCT研究3~11)によるメタアナリシスが行われており、結果はオッズ比(OR) [95%CI]:0.67 [0.51-0.88]と、アルコールベースのCHG使用群で有意に低値となっています。先に紹介した推奨文「アルコールベースのCHGの使用を提案する」はこの結果を根拠としていますが、メタアナリシスには様々な濃度のCHG製剤が含まれ、濃度が指定されていない研究も含まれています。また含まれている研究のいずれも、CDCのSSI分類(表在性SSI、深部SSI、臓器体腔SSI:以下CDC分類)に従ってSSIを報告していませんでした。エビデンスの質は非常に低かったものの、全体的なSSI発生率の低下に中等度の望ましい効果が認められ、評価者の最小重要差を満たしたことで推奨文が作成されたことが背景として記載されています。

Q2. CHG水溶液とPVI水溶液との比較

根拠となるデータは、単一のRCT研究12)から得られたものでしたが、本研究では各術野消毒群で術野消毒前に異なる抗菌石ケンを使用しており、群間で有意な異質性がありました。そのような背景から、データの質が推奨の根拠とするには低すぎると判断されています。CDC分類ごとのSSI発生率にも有意差は認められず(表在性SSI OR [95%CI]:0.49 [0.12-2.00]、深部SSI OR [95%CI]:1.00 [0.32-3.14]、臓器体腔SSI OR [95%CI]:1.00 [0.32-3.14])、「推奨なし」と結論付けられています。

Q3. アルコールベースの4%~5%CHGとPVI水溶液との比較

2件の小規模なRCT研究7,9)による解析が行われた結果、全SSI発生率についてのメタアナリシスではOR [95%CI]:0.64 [0.30-1.38]と有意な差を認めませんでした。なお両RCT研究は手術の種類ごとのサブ解析は実施しておらず、またPaocharoenらの研究9)については、前述の研究と同様に各術野消毒群で術野消毒前に異なる抗菌石ケンを使用していたこともあり、データの質が非常に悪く、推奨の根拠になりえないことが、推奨を提示できない理由としてあげられています。

Q4. アルコールベースの2%~3%CHGとPVI水溶液との比較

5件のRCT研究3,5,6,8,10)によるメタアナリシスでは、全SSI発生率はOR [95%CI]:0.67 [0.44-1.02]と有意差は認めないもののアルコールベースの2%~3%CHG使用群で低い傾向となっており、この結果自体は評価者の最小重要差を満たしていました。しかし、メタアナリシスに含まれる研究のうち2件3,10)については、不適切なランダム化またはアウトカムデータの欠落によりバイアスのリスクが高いと判断されたほか、これらの研究では、清潔手術、準清潔手術、汚染手術が混在しており、サブグループ解析も実施されていなかったことからエビデンスの質が推奨の根拠として使用するには低すぎると判断され、推奨の提示に至っていません。

Q5. アルコールベースの2%~3%CHGとアルコールベースのPVIとの比較

2件の中規模RCT研究13,14)を用いたメタアナリシスの結果、全SSI発生率はOR [95%CI]:1.10 [0.84-1.43]と有意差を認めず、またCDC分類ごとのSSI発生率についても有意な差がつかない結果となっています(表在性SSI OR [95%CI]:0.88 [0.60-1.28]、深部SSI OR [95%CI]:0.99 [0.58-1.67]、臓器体腔SSI OR [95%CI]:1.51 [0.98-2.32])。さらに各RCT研究については、消化器手術以外のデータが含まれていることやSSI分類方法が不明確であったこと、プロトコルからの逸脱例などがあったことから、データの質が推奨の根拠として低すぎると判断され、本検討においても推奨事項は提示されておりません。

有害事象発生率

ここまでに紹介した5つの比較検討においてはSSI発生率だけではなく有害事象の発生率についても解析が行われていますが、どの群間比較においても有意差が認められないか、あるいは有害事象の発生自体が無い結果となっています。

医療従事者へのインプリケーション

アルコールベースのCHGは全SSI発生率を低下させることが示されている一方で、消化器外科手術を行う際に遭遇するすべての状況で使用できるわけではないことに注意が必要です。具体的にはアルコールベースの消毒薬は腸瘻、会陰部などの粘膜部位や開放創には使用できません。このような箇所については水溶液製剤を使用する必要がありますが、適用上の問題がなければ、着色することで塗布箇所が識別できるPVI水溶液を使用し、その境界までをアルコールベースのCHGで消毒する方法がガイドライン中で提案されています。ただし、PVI水溶液、CHG水溶液についてどちらが優れているかを示すデータは存在せず、最終的には術者の嗜好に委ねられるとしています。

おわりに

今回紹介した消化器手術後のSSI予防に関する欧州ガイドラインでは、肝胆道、膵臓を含む消化器の手術時の術野皮膚消毒には、粘膜を除き、アルコールベースのCHGを用いることが非常に低い確実性のエビデンスによる条件付き推奨として提示された一方で、その際のCHG濃度については指定する根拠はないとまとめることができます。なお国内においては「消化器外科SSI予防のための周術期ガイドライン 2025」15)が同時期に更新されており、”どの消毒薬がSSI予防に推奨されるか?”という臨床疑問に対し「消化器外科での術野消毒はアルコール含有CHGあるいはオラネキシジンを使用することを提案する(エビデンスの確実性:中)」としています。この比較的新しい両ガイドラインを勘案すると、消化器外科領域における術野消毒にアルコールベースのCHGを用いるという推奨内容は一貫していることが分かります。
一方、多領域にわたってのよりグローバルなガイドラインに該当するWHOのSSIガイドラインは直近(2018年以降)での更新はされていません。また同年代に公表された2017年最終更新のCDCによる「手術部位感染予防のためのガイドライン」16)においては、手術部位の皮膚消毒にアルコールベースの消毒薬を用いることが推奨されていますが、CHG含有の有無については記載がありません。このようにガイドラインによっては推奨内容が異なっており、解析に含む研究の差や術式の違いなどに影響を受けることが想定されます。
本稿冒頭で紹介したガイドラインのアップデートの背景にもありますが、診療科や術式によっては特異性がある場合があります。また医療現場の環境も刻一刻と変化しています。このようなことからも、今後はグローバルなガイドラインの更新を待たず、各国、各学会ごとにアップデートが行われ、それを根拠とすることで最新の情報に基づく医療行為が行われる可能性もあります。幅広く多面的な情報収集を行い、自施設に最適なSSI対策を構築することが重要になると考えられます。


<参考文献>

1.UEG/ESCP/EAES/SSI-E SSI Prevention Working Group:European Guideline on Pre-Operative Prevention of Surgical Site Infections Following Digestive Surgery: A Joint Update of the WHO SSI Guideline for Gastrointestinal Surgery by UEG, ESCP, EAES, and SIS-E. United European Gastroenterology Journal 2025;13:1887-1904. [Full Text]
2.WHO:Global Guidelines Prevention Surgical Site Infection:World Health Organization 2016.(updated 2018)[Link]
3.Bibi S, Shah SA, Qureshi S, et al.:Is Chlorhexidine-Gluconate Superior Than Povidone-Iodine in Preventing Surgical Site Infections? A Multicenter Study. Journal of Pakistan Medical Association 2015;65:1197-1201. [PubMed]
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5.Danasekaran G, Rasu S, Palani M.:Study Comparative Evaluation Preoperative Skin Preparation Chlorhexidine Alcohol Versus Povidone Iodine Prevention Surgical Site Infections. Journal of Evidence-Based Medicine and Healthcare 2017;4:2453-2460.
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9.Paocharoen V, Mingmalairak C, Apisarnthanarak A.:Comparison of Surgical Wound Infection After Preoperative Skin Preparation With 4% chlorhexidine [Correction of Chlohexidine] and PovidoneIodine: A Prospective Randomized Trial. Journal of the Medical Association of Thailand 2009;92:898–902.[Full Text]
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12.Park HM, Han SS, Lee EC, et al.:Randomized Clinical Trial of Preoperative Skin Antisepsis With Chlorhexidine Gluconate or Povidone-Iodine. British Journal of Surgery 2017;104:e145-e150. [Full Text]
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15.日本外科感染症学会:消化器外科SSI予防のための周術期ガイドライン 2025. 診断と治療社,東京,2025.
16.CDC:Guideline for the Prevention of Surgical Site Infection 2017. [Full Text]

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