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Y’s Letter Vol.5.No.4 Published online:2026.10.7
Index
はじめに
2026年5月、世界保健機関(World Health Organization:WHO)は「血管内カテーテル使用による血流感染症およびその他の感染症の予防に関するガイドライン」のパート2を公開しました1)。本ガイドラインは、2024年5月に公開されたパート1「末梢カテーテル」2)に続くもので、中心静脈カテーテル(central venous catheter:CVC)に関連する血流感染症(bloodstream infection:BSI)およびその他の感染症の予防のためのガイダンスを提供しています。
本稿では、ガイドラインの概要と消毒薬に関連した内容について紹介します。
ガイドラインの概要1)
医療関連感染(health care-associated infection:HAI)や抗菌薬耐性菌による感染症は世界的な問題となっていることが報告されています。特にICUではHAIの発生頻度が高く、その中でも血管内カテーテルに関連するBSIは重要な感染症の一つです。血管内カテーテル関連のBSIやその他の感染症の多くは、カテーテルの適切な挿入、維持管理、アクセス、交換・抜去などの感染予防策を実施することにより予防可能とされています。
本ガイドラインでは、急性期・長期療養型医療施設やプライマリケアを含むあらゆる医療提供の場において、4つの患者集団(成人、青年、小児、新生児)を対象とした中心ライン関連血流感染(central line-associated bloodstream infection:CLABSI)の予防に焦点を当てています。今回のパート2で対象とするカテーテルは以下の種類です。
・非トンネル型中心静脈カテーテル:中心静脈に直接挿入されるもの。通常、救急や重症例の管理で短期的に使用される。
・トンネル型中心静脈カテーテル:皮下にカテーテルを通してから静脈内に挿入するもの。
・完全埋め込み型血管アクセスデバイス(ポート):皮下に小型のリザーバーを埋め込むもの。化学療法などの長期的な薬剤投与に使用される。
なお、PICC(末梢挿入型中心静脈カテーテル)はすでにパート1のガイドラインに含まれており、血液透析用カテーテルについては、別途(パート3)具体的な指針が策定される可能性があるため、本ガイドラインの適用範囲には含まれていません。
WHOは本ガイドラインを策定することで、様々な医療・ケア提供の場や国に適用可能なCLABSIおよびその他のCVC関連感染症の予防に関する一貫した推奨事項を提供することを目指しています。ガイドラインは、公表された科学的エビデンスのシステマティックレビューに基づいて作成されており、また、GRADE(推奨の評価・策定・開発・評価)手法における「エビデンスから意思決定へ」の枠組みを用い、世界的な視点から作成されています。パート2では、CVCの安全な使用のための実践的な指針を提供し、それによってCLABSIやその他の感染症のリスクを最小限に抑えることを目的として、CVCの挿入、維持、アクセス、抜去の各段階で採用すべき予防策を示しています。
今回のパート2は、短期および長期CVCを対象として、CVCの挿入および管理に関連する以下の8つの主要なセクションで構成されています。
| 1. 教育および手指衛生に関する一般的事項 2. 挿入前 3. 挿入時 4. 維持 5. アクセス 6. 交換および抜去 7. 挿入部位およびカテーテルの選択 8. その他の予防策(ライン・バンドルおよびサーベイランスを含む) |
上記のセクションについて、合計25の推奨事項と16のグッドプラクティス(ベストプラクティスと同義)の声明が示されています。推奨事項およびグッドプラクティスの声明のうち、消毒薬に関連する内容を表1に示します。
| 表1.中心静脈カテーテル使用に関連したBSIおよびその他の感染症の予防に関するグッドプラクティスの声明および推奨事項より消毒薬に関連する箇所の抜粋 | |||||
| 推奨事項とグッドプラクティスの声明 | カテーテルの種類 | 対象となる母集団 | 声明の種類 | エビデンスの確実性 | |
| 挿入前 | |||||
| クロルヘキシジン含有製剤による身体洗浄 | |||||
| 重症の成人、青年、小児では、クロルヘキシジン含有身体洗浄用製剤(液体または含浸布)を毎日使用することを提案する。 | 短期、長期 | 成人、青年、小児 | 条件付き推奨 | 低い確実性 | |
| 挿入時 | |||||
| 皮膚消毒 | |||||
| 成人、青年、小児、新生児におけるすべてのCVC挿入前には、常に皮膚消毒を行うことを推奨する。 | 短期、長期 | 全ての患者 | グッドプラクティスの声明 | 該当しない | |
| 成人、青年、小児、新生児におけるCVC挿入前の皮膚消毒には、水溶液製剤よりもアルコール製剤の使用を提案する。 | 短期、長期 | 全ての患者 | 条件付き推奨 | 低い確実性 | |
| 成人、青年、小児、新生児におけるCVC挿入前の皮膚消毒には、他の消毒薬(ヨード含有アルコール、アルコール単独、または水溶液製剤)よりもクロルヘキシジンアルコール(1%または2%)の使用を提案する。 | 短期、長期 | 成人、青年、小児 | 条件付き推奨 | 低い確実性 | |
消毒薬に関する推奨について
消毒薬に関連する内容として、「挿入前」においてクロルヘキシジン(CHG)による身体洗浄に関する推奨事項が1つ、および「挿入時」において皮膚消毒に関するグッドプラクティスの声明が1つ、推奨事項が2つ示されています。
(1)挿入前におけるCHG含有製剤による身体洗浄に関する推奨事項
| 重症の成人、青年、小児では、クロルヘキシジン含有身体洗浄用製剤(液体または含浸布)を毎日使用することを提案する。(条件付き推奨、低い確実性のエビデンス) |
この推奨事項は成人、青年、および小児を対象に、CHGを用いた毎日の身体洗浄と石けんと水による入浴を比較した31件の研究(無作為化比較試験(RCT)10件および非RCT 21件)を引用し決定されました。これらの研究の概要を以下に示します。
・毎日の消毒薬による身体洗浄は消毒薬を用いない身体洗浄と比較して、CLABSI発生率を減少させる可能性が認められたがエビデンスの確実性は低かった(リスク比(RR):0.67、95%信頼区間(CI):0.45-0.99、RCT 10件)3-12)。
・日常的な消毒薬による身体洗浄は消毒薬を用いない身体洗浄と比較して、カテーテル関連死亡率を減少させる可能性が認められたがエビデンスの確実性は低かった(RR:0.20、95%CI:0.01-4.13、RCT 1件)11)。
日常的な消毒薬による身体洗浄は消毒薬を用いない身体洗浄と比較して、全死因死亡率にほとんど、あるいは全く差をもたらさない可能性が認められたがエビデンスの確実性は低かった(オッズ比(OR):0.90、95%CI:0.76-1.07、RCT 5件)3, 7-10)。
・日常的な消毒薬による身体洗浄は、消毒薬を用いない身体洗浄と比較して、敗血症の発生にほとんど、あるいは全く差をもたらさない可能性が認められたがエビデンスの確実性は非常に低かった(RR:1.92、95%CI:0.66-5.60、RCT 1件)3)。
・サブグループ解析の結果、CLABSIに対する効果において、年齢(成人vs小児)や病棟(ICU vs 一般病棟)による差は認められなかった。
(2)挿入時における皮膚消毒に関するグッドプラクティスの声明および推奨事項
| 成人、青年、小児、新生児におけるすべてのCVC挿入前には、常に皮膚消毒を行うことを推奨する。 (グッドプラクティスの声明) |
| 成人、青年、小児、新生児におけるCVC挿入前の皮膚消毒には、水溶液製剤よりもアルコール製剤の使用を提案する。 (条件付き推奨、低い確実性のエビデンス) |
これらの声明や推奨事項は5件のRCTを引用し決定されました。これらの研究の概要を以下に示します。
・皮膚消毒において、アルコール製剤は水溶液製剤と比較して、CLABSI発生率が減少する可能性が認められたが、エビデンスの確実性は低かった(RR:0.59、95%CI:0.36-0.98、RCT 5件)13-17)。
・皮膚消毒において、アルコール製剤は水溶液製剤と比較して、全死因死亡率が減少する可能性が認められたが、エビデンスの確実性は非常に低かった(RR:0.79、95%CI:0.48-1.30、RCT 2件)13,14)。
・皮膚消毒において、アルコール製剤は水溶液製剤と比較して、敗血症発生率が減少する可能性が認められたが、エビデンスの確実性は非常に低かった(RR:0.68、95%CI:0.35-1.30、RCT 1件)13)。
・カテーテル関連死亡率、気胸、挿入部位の局所感染、およびその他の合併症について報告した研究は特定されなかった。
| 成人、青年、小児におけるCVC挿入前の皮膚消毒には、他の消毒薬(ヨード含有アルコール、アルコール単独、または水溶液製剤)よりもクロルヘキシジンアルコール(1%または2%)の使用を提案する。 (条件付き推奨、低い確実性のエビデンス) |
この推奨事項は成人、青年、小児および新生児の皮膚消毒において、CHGアルコールとヨード含有アルコール、アルコール単独、または水溶液製剤を比較した13件の研究(RCT 7件、非RCT 6件)を引用し決定されました。これらの研究の概要を以下に示します。
・皮膚消毒において、CHGアルコールは他の消毒薬と比較して、CLABSIの発生にほとんど、あるいは全く差をもたらさない可能性が認められたがエビデンスの確実性は低かった(RR:0.67、95%CI:0.41-1.10、RCT 5件)13, 15-18)。
・皮膚消毒において、CHGアルコールは他の消毒薬と比較して、全死因死亡率を減少させる可能性が認められたがエビデンスの確実性は非常に低かった(RR:0.80、95%CI: 0.48-1.34、RCT 1件)13)。
・皮膚消毒において、CHGアルコールは他の消毒薬と比較して、敗血症の発生にほとんど、あるいは全く差をもたらさない可能性が認められたがエビデンスの確実性は低かった(RR:0.50、95%CI:0.13-1.89、RCT 2件)13,18)。
・カテーテル関連死亡率、挿入部位の局所感染、およびその他の合併症について報告した研究は特定されなかった。
おわりに
本稿ではCVCに関するBSI予防のためのWHOガイドラインより、消毒薬に関する内容に焦点を当てて紹介しました。CVC挿入前の皮膚消毒について、米国CDCなどのガイドラインでは0.5%を超えるCHGアルコールが推奨されていますが、今回のWHOガイドラインでは成人、青年、小児に対して1%または2%CHGアルコール製剤の使用が提案されています。これらの濃度が提案された背景について、ガイドラインには明確に記載されていませんが、エビデンスレビューでは、日本国内で実施された1%CHGアルコールに関する研究も引用されています。Yamamotoらの研究16)では、1%CHGアルコールと10%ポビドンヨードを比較し、1%CHGアルコール群において、カテーテル出口部の菌定着率が有意に低く、また1,000カテーテル使用日数あたりのカテーテル関連血流感染率も有意に低下した結果が示されています。また、Yasudaらの多施設ランダム化比較試験17)では、0.5%および1%CHGアルコールと10%ポビドンヨードの比較において、CRBSI発生率は3群間で有意差がなかったものの、0.5%および1%CHGアルコールは10%ポビドンヨードと比較してカテーテルへの菌定着が有意に少ない結果が示されています。これらのエビデンスも含めて検討した結果、WHOのガイドライン開発グループは、最適なCHG濃度を決定する十分なエビデンスはないものの、少なくとも1%の濃度が望ましいとしています。また、世界的には一般的に使用されるCHGアルコール製剤は2%製剤が多いことも考慮され、1%または2%のCHGアルコール製剤が提案されたものと考えられます。
一方、今回のガイドラインにおける CHG アルコールおよびアルコール製剤の使用に関する推奨は条件付き推奨であり、エビデンスの確実性も低いとされています。また、消毒薬の選択だけでなく、適切な量の消毒薬を使用し、十分に乾燥させてからカテーテルを挿入することも重要であることが述べられており、特に皮膚消毒薬については、効果を最大限に発揮するために少なくとも30秒間乾燥させることが実施上の考慮事項として示されています。さらに、CVCによる感染を防ぐためには、皮膚消毒薬の選択や使用方法だけではなく、手指衛生、無菌操作、適切なカテーテルの維持管理など、複数の対策を組み合わせて実施することが重要です。本ガイドラインの勧告を参考としながら、地域ごと、医療施設ごとに実施可能な範囲で、適切な消毒薬の選択・使用を含む複合的な対策を講じることが肝要であると考えられます。
<参考文献>
1) WHO:Guidelines for the prevention of bloodstream infections and other infections associated with the use of intravascular catheters. Part 2: central venous catheters. Geneva: World Health Organization; 2026. [Link]
2) WHO:Guidelines for the prevention of bloodstream infections and other infections associated with the use of intravascular catheters: part I: peripheral catheters. 2024. [Link]
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