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Y’s Letter Vol.2 No.7 Published online 2005.12.05
はじめに
医療においては、広く日常的に、消毒薬を脱脂綿やガーゼなどの医療材料に含浸させて使用しています。このような使用法においてはアルコール、ポビドンヨード、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジンなどが繁用されていますが、これらのうち塩化ベンザルコニウムやグルコン酸クロルヘキシジンなどは脱脂綿などの医療材料へ吸着することが知られています。以下、消毒薬の脱脂綿などへの吸着の問題について述べます。
消毒薬の脱脂綿などへの吸着
塩化ベンザルコニウムやグルコン酸クロルヘキシジンを含浸させた消毒綿はもっぱら患者に繁用されますが、これらの陽イオン系の消毒薬は、有効成分が脱脂綿などの医療材料に吸着し、濃度が低下することが報告されています1)2)3)4)5)6)7)8)9)。含浸後の濃度低下が著しい場合には、使用した消毒薬のラベル表示濃度において期待される消毒効果が、実際には発揮されないため注意が必要です。
1.消毒薬の種類による吸着
1)塩化ベンザルコニウム
塩化ベンザルコニウム水溶液の脱脂綿などへの吸着に関しては、0.1%塩化ベンザルコニウム水溶液の綿球、カット綿、ガーゼへの吸着の試験において、消毒薬200mLに対して綿製品10gを浸すと(つまり5w/v%)、速やかに吸着が起こり、10分程度でほぼ吸着が平衡に達したとの報告があります1)。その際の塩化ベンザルコニウムの吸着量は、24時間後において、綿球4.1mg/g、カット綿5.6 mg/g、ガーゼ2.3 mg/gであったと報告されています。また、さらに低濃度の0.01%、0.025%において消毒薬100mLに対して綿製品5gを浸した場合(つまり5w/v%)、濃度低下が著しい場合のあることが確認されています(表1)。
綿製品 | 初濃度 | |
---|---|---|
0.01% | 0.025% | |
綿球 | 0.0042% [42%] |
0.0133% [53%] |
カット綿 | 0.0020% [20%] |
0.0073% [29%] |
ガーゼ | 0.0069% [69%] |
0.0188% [75%] |
(綿製品5g+100mL消毒薬の場合、5w/v%)
[ ]内は筆者が計算した残存率
グルコン酸クロルヘキシジン水溶液の綿球への吸着については、0.02%、0.05%、0.2%、0.5%の4濃度で試験を行ったところ、0.02%、0.05%といった低濃度において著しい濃度低下が認められたとの報告があります2)。消毒薬に対する脱脂綿の量を3w/v%とした場合(例えば100mLに対して3g)、消毒薬含浸綿球作成1日後の残存率が、0.02%水溶液で23%、0.05%水溶液で56%であったと報告されています(表2)。
期間 | 初濃度 | |||
---|---|---|---|---|
0.02% | 0.05% | 0.2% | 0.5% | |
1日後 | 23.4% | 56.1% | 84.8% | 96.3% |
(消毒薬に対する脱脂綿の量3w/v%)
2. 材質の違いによる吸着率の相違
消毒薬の吸着量は、消毒薬を含浸させる綿球やガーゼなどの材質によって異なります1)2)3)4)。0.02%グルコン酸クロルヘキシジン水溶液20mLに対して綿球、ガーゼなどの医療材料1gを浸した場合(つまり5w/v%)、24時間後の吸着率(つまり100%マイナス残存率)を調査したところ、もっとも吸着率が高かったものはレーヨン不織布の92.1%であり、脱脂綿では87.6%、ガーゼでは67.5%であったと報告されています(表3)。3)
医療材料 | 吸着率 |
---|---|
ガーゼ | 67.5% |
脱脂綿 | 87.6% |
レーヨン不織布 | 92.1% |
レーヨン・ポリエチレンテレフタレート(PET) 50:50混合不織布 |
86.5% |
ポリエチレンテレフタレート(PET)不織布 | 8.9% |
ウレタン製スポンジ | 55.1% |
(医療材料1g+消毒薬20mL、5w/v%)
おわりに
以上の報告から、脱脂綿などの医療材料に陽イオン系の消毒薬を浸して使用する場合には、十分な量の消毒薬に適量の脱脂綿などを投入する必要のあることがわかります。特に使用する消毒薬が低濃度である場合には、脱脂綿などの量をかなり制限する必要があります。実務的に考えて、ある程度の濃度低下はやむをえないことであり、それによってただちに臨床上の問題が発生するとは思われませんが、低濃度の陽イオン系の消毒薬において万能壷にぎっしりと綿球が詰め込まれているような場合には、有効成分の大半が吸着してしまっている可能性が高く、適切な使用法であるとは言えません。吸着の大部分は調製時に瞬間的に発生すると思われるため、用時調製をしても問題解決にはならないと思われます。脱脂綿など医療材料に含浸させた消毒薬の取り扱いについては、病院感染対策上、微生物汚染、アルコール系消毒薬の揮発による濃度低下、調製後の使用期限に注意が必要であることは広く認識されていますが、消毒薬の効果を十分に得るためには、これらに加えて、使用する消毒薬の種類・濃度とその医療材料への吸着率を考慮し、脱脂綿など医療材料の量に対する消毒薬の量を適切に設定し調製することが重要です。
<参考>
1.影向範昭:
塩化ベンザルコニウムの綿製品への吸着.
歯薬療法.1986;5(2):105-108.
2.鈴木一市、森田久代、山添喜久雄 他:
クロルヘキシジングルコネートの医療用綿製品への吸着.
病院薬学.1983;9(4):339-342.
3.中田精三、伏見 了、梅下浩司 他:
消毒薬の医療材料への吸着について.
日本手術医学会誌.2004;25(2):147-149.
4.花村 亮:
医療材料に対する消毒薬使用の注意点.
INFECTION CONTROL.2005;14(4):52-53.
5.細渕和成、佐藤健二:
セルロース製品に対する殺菌剤の吸着.
防菌防黴.1977;5(4):163-165.
6.中東正晴、野田明宏、菊本桂子 他:
塩化ベンザルコニウム製剤中の炭素鎖による
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Jpn.J.Hosp.Pharm.1990;16(2);81-85.
7.梶本晴彦、梅田恵津子:
セルロース系繊維のゼータ電位と薬物吸着.
薬剤学.
1994;54(3);129-134.
8.冨岡峯子、瀬尾 量、前田共秀 他:
グルコン酸クロルヘキシジンの綿球への吸着について.
九州薬学会会報.1987;41:99-103.
9.一井幹男:
オスバンの特性とその活し方.
医材と滅菌.1986;26:33-40.
2005.12.05 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.