感染対策情報レター

尿路留置カテーテル管理における消毒について

はじめに

尿路留置カテーテルは、尿路閉塞、術直後の排尿困難時、重症患者の全身管理などを目的に日常的に行われる医療処置のひとつです。しかし一方で、カテーテル留置による尿路感染症は、病院感染において頻度の高い感染症であることが指摘されており、病院感染対策上で重要な項目のひとつとなっています。以下、尿路カテーテル挿入時と留置中の管理について述べます。

尿路カテーテルの挿入時の消毒について

尿路カテーテル挿入時は、カテーテルにより尿道口周囲の菌を押し込む可能性があるため、尿路カテーテル感染の予防にはまず挿入時の無菌的操作が重要となります。日本においては、無菌的操作におけるカテーテル挿入前の消毒において、外陰・外性器の皮膚消毒の適用のある0.02%グルコン酸クロルヘキシジンや、粘膜への適用がある0.02~0.05%塩化ベンザルコニウム、10%ポビドンヨードなどが使用されています。尿道口周囲の消毒を行う際は、付着している有機物などで消毒効果が低下しないように、消毒前に尿道口周囲を洗浄することが大切です。また、石けんを用いた洗浄を行った場合は、石けん分が残留していると特に塩化ベンザルコニウムは殺菌効果が減弱するため、石けん分を十分洗い流すことが重要です1)
CDCガイドラインにおいては、挿入時には尿道周囲の洗浄のための適当な消毒薬の使用が推奨されています2)。しかし、英国のガイドラインにおいては、清潔でない場合は石けんと流水で洗うことを推奨しており3)、外陰部を清潔に保つことができればカテーテル挿入時の外尿道口の消毒は不要であるとされています4)5)。尿路カテーテル挿入前の清浄において、水を用いた洗浄と消毒薬を用いた洗浄では、感染率に差は無かったとの報告もあります6)

留置中のケアについて

カテーテル留置中の日常的な陰部ケアについては、CDCガイドラインでは石けんと微温湯による洗浄のみを推奨しています2)。また、英国のガイドラインにおいてもシャワーまたは強くないビデの使用を推奨しており3)、消毒薬の使用は勧めていません5)。その根拠としては、尿道口周囲の処置について、ポビドンヨードまたは石けんと水による処置群と非処置群とを比較した調査において、両群間における細菌尿の発生率に有意な差はないとの報告7)などによります。また抗菌薬入り軟膏などの尿道口への塗布も感染防止の効果はないと考えられています4)8)9)10)
しかし、これらの根拠とされている調査の多くは、尿路カテーテル留置期間が比較的短期間(11日間など)の調査結果に基づいており、長期間留置した場合などについての検討はおこなっていません。長期留置における尿路カテーテル挿入中のケアに関する尿道口の洗浄や消毒、その実施頻度などについては、まだ明確な報告があまりないのが現状です。

尿路カテーテル留置中の尿道口ケアへの消毒薬の使用について

ガイドラインなどでは日常的な尿道口ケアにおける消毒薬の使用は推奨されていませんが、尿道口ケアにおける消毒薬使用の有用性についての調査がいくつか報告されています。

ポビドンヨードを使用した検討では、塗布の回数、製剤の種類によって、ポビドンヨードを1日1回塗布、ポビドンヨードを1日2回塗布、ポビドンヨードクリームを1日1回塗布の3グループに分けて調査を行っています11)。その結果、男性においてはカテーテル留置5日後における細菌尿発生率がポビドンヨードクリーム塗布群は100%を示し、ポビドンヨード1回塗布群は36%、ポビドンヨード2回塗布群では0%を示すなど、グループ間で細菌尿発生率が大きく異なることが示されています。
また、ポビドンヨードの使用に関しては、尿道口周囲に対してポビドンヨードを使用した処置を実施したことで、尿路感染率が低下したとの報告があります12)。この報告では、尿道口周囲(カテーテルと尿道粘膜の隙間)に対する処置が特に施されていなかったときの尿路感染率が、石けんと微温湯による洗浄後ポビドンヨード液で尿道口を消毒する処置へ変えた結果、対策前の11%から対策後0%へ低下したと報告されています12)
異なる消毒薬の使用による効果の差を検討した報告もあります。この報告では、微温湯と石けんによる陰部洗浄後、0.05%クロルヘキシジンによる尿道口の消毒を行う群と、5%ポビドンヨード希釈液で洗浄後、ポビドンヨード原液で消毒を行う群に分けて検討し、尿中白血球数の変化を調査しています13)。その結果、ポビドンヨード群はクロルヘキシジン群に比べ、尿中白血球の増加が有意に抑制され、2群間に有意な差が認められたと報告されています。
これらの報告においては、尿道口周囲のケアに消毒薬を使用することは尿路感染対策に有用とされています。

おわりに

尿路感染防止対策においては、尿路感染防止を目的とした必要以上の消毒はせず、日常的な処置としては、清潔保持のために尿道口周囲の洗浄などをすることが重要と考えられます。また、尿道口周辺の洗浄は患者の爽快感を得られたとの報告14)もあり、尿路感染対策以外にも尿道口ケアとしての利点もあると思われます。
尿路感染の発生要因はさまざまであり15)、それらの要因に対する有効な尿路留置カテーテル管理について、今後さらなる臨床的研究が望まれます。

注] 尿路感染症の診断基準について尿路感染症は、尿中における細菌の有無のみで診断することは適切でなく、症状の有無と尿中細菌の量を加味して診断することが適切と考えられます。CDCの尿路感染診断基準は、有症状と無症状の尿路感染に分け、かつ尿培養において菌陽性であることだけで尿路感染と診断するのではなく、菌の検出量が一定レベル以上であることなどをもって診断する方式となっています4)16)

表.CDCの主なurinary tract infection(UTI)診断基準(抜粋)4)16)
Symptomatic UTI(症候性尿路感染)
1. 発熱(>38℃)、尿意逼迫、頻尿、排尿障害、恥骨上圧痛などの症状が少なくとも1つがあり、尿培養で2種類以下の細菌が105cfu/mL以上認められる
2. 熱(>38℃)、尿意逼迫、頻尿、排尿障害、恥骨上圧痛などの症状が少なくとも2つがあり、また少なくとも以下の1つが認められる
a. 尿中白血球エステラーゼもしくは/および亜硝酸塩の検出
b. 膿尿(尿検体における白血球10個/mm3以上など)
c. 原尿のグラム染色における微生物の確認
d. 適切に採取された検体において、少なくとも2回の培養で同一菌を102cfu/mL以上検出
e. 尿路感染に対して適切な抗菌薬を投与後の患者から単一の尿病原菌を105cfu/mL以下検出
など
Asymptomatic bacteriuria(無症候性細菌尿)
1. 尿採取前に7日間以上尿路カテーテルが留置されていて、尿培養で2種類以下の細菌を105cfu/mL以上認める。発熱(>38℃)、尿意逼迫、頻尿、排尿障害、恥骨上圧痛などの症状はない。
2. 最初に尿培養陽性となった日の7日間に尿路カテーテルは留置されておらず、少なくとも2回尿培養で105cfu/mL以上の同一菌を2種類以下認める。発熱(>38℃)、尿意逼迫、頻尿、排尿障害、恥骨上圧痛などの症状はない。
など

<参考文献>

1.小林寬伊 編集:改訂 消毒と滅菌のガイドライン.へるす出版.2004
http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_japan/guideline/syoguide.html

2.CDC:Guideline for Prevention of Catheter-associated
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3.吉田俊介訳、小林寬伊監訳:PHLSの”病院感染防止:臨床ガイドライン”の紹介②.感染症.1999;29(5):
195‐200.

4.小林寬伊、吉倉 廣、荒川宜親ほか編集:エビデンスに基づいた感染制御 第2集-実践編.東京.メヂカルフレンド社.
2003.

5.Pratt RJ, Pellowe C, Loveday HP, et al.:Guideline for
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2001;47(Suppl):S39-S46.
http://www.mamut.com/homepages/Norway/3/7/hygiene/guidelines_for_preventing_uvi.pdf

6.Webster J, Hood RH, Burridge CA, et al.:Water or
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14.保積真樹子、増田由美子、門田ひろ子 他:尿路感染を防ぐための尿道留置カテーテル挿入部のイソジン消毒と石鹸洗浄の比較.日本看護学会集録 成人看護Ⅱ.2004;A-28:123‐125.

15.井上都之、田村正枝、宮沢広恵 他:膀胱留置カテーテル装着患者の尿路感染成立と影響する因子についての検討.看護研究.1999;32(4):45‐53.

16.Garner JS, Jarvis WR, Emori TG, et al.:CDC Definitions of Nosocomial Ifnfections.In Olmsted RN, ed.:APIC Infection Control and Applied Epidemiology:Principles and Practice.St. Louis:Mosby;1996:pp.A-1-A-20.
http://health2k.state.nv.us/sentinel/Forms/UpdatedForms105/CDC definitions for nosocomial infections APIC infection control 1996′


2006.09.15 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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