感染対策情報レター

消化器内視鏡の洗浄・消毒における実務ガイドライン

はじめに

2005年12月にWGO-OMGE/OMED(世界消化器病学会/世界消化器内視鏡学会)から消化器内視鏡の洗浄・消毒における実務ガイドラインが公表されました1)。本ガイドラインでは内視鏡の洗浄・消毒方法について、「最良の水準、標準的な水準、最低限の水準」と3段階のヒエラルキー(階層)制を導入しています。これは資源(人的、金銭的など)の影響を受けやすい項目に代替方法を示すことで、特に外部要因により選択肢が制限されている国や地域における遵守性の向上を目的としています。本ガイドラインは日本においても洗浄・消毒の標準になると考えられており、日本消化器内視鏡技師会では「標準的な水準」である「Normal Standard」が推奨される方法としています2)。以下、本ガイドラインの概要について述べます。

洗浄の重要性

内視鏡に限らず器具を再使用処理する上でまず重要なことはよく洗浄し、血液などの有機物や付着した汚れを落とすことであり、本ガイドラインにおいても内視鏡の再使用処理の重要な項目として洗浄が挙げられています。洗浄のみによる減菌効果については、器具表面の付着細菌数を平均4log(99.99%)減少させたと報告されており3)、適切な洗浄を行うことによって消毒効果の確実性が期待できます。ガイドラインでは内視鏡使用後すぐに行う予備洗浄と、消毒する前に内視鏡を洗浄液に浸漬する洗浄を分けて記載しており、浸漬する洗浄を行う前には高額な修理が発生することを防ぐため漏水検査および詰まり検査の実施を勧告しています。

内視鏡洗浄に使用される洗剤は、泡立ちが被消毒物と洗剤の接触を妨げるため低発泡性の洗剤、中でも酵素系洗剤が推奨されています。酵素系洗浄剤の使用については酵素の効力を十分発揮させるため、適切な温度および規定された適切な希釈濃度で使用する必要があります4)。その他、洗浄の勧告として適切なディスポブラシを用いてすべての洗浄可能なチャネルをブラッシングすること、すべての表面に洗剤を接触させるため洗浄中は繰り返し吸水ボタンを動かすこと、洗浄困難な内視鏡の付属品・構成物は超音波洗浄することなどが挙げられています。超音波洗浄に使用する洗剤も用手洗浄と同様の低発泡性の洗剤が推奨されます。

消毒

現在、内視鏡消毒においては自動洗浄消毒機がかなり普及しており、本ガイドラインにおいても推奨されています。設置場所として換気設備のある専用の場所にすべきと示されています。

使用する消毒薬は高水準消毒薬または化学的滅菌剤を選択し、適切な時間および温度で作用させます。日本において選択できる消毒薬には、グルタラール、フタラールおよび過酢酸がありますが、各々の消毒薬によって内視鏡消毒に必要とされる浸漬時間が異なることに注意が必要です。また消毒薬の簡易試験紙を用いて最低1日1回、消毒薬の有効性を確認すべきとされています。(日本消化器内視鏡技師会が公表している「内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン(第2版)」は、内視鏡消毒の一例として2%グルタラールで10分間浸漬後、アルコールフラッシュする方法を示しています。また、消毒操作を行う職員は微生物が混入した洗浄液または消毒薬から自身を保護するため、長袖の防水ガウン、前腕を覆うのに十分なグローブ、飛沫から保護するためのゴーグル、消毒薬蒸気の吸入を抑制するディスポの活性炭入りマスクを着用することが勧告されています。

すすぎ・乾燥・保管

最終的なすすぎに使用する水はフィルターろ過した水を使用し、1度使用した水は消毒薬が濃縮して器具に残留することを避けるため使い回しせずに廃棄することが推奨されています。一般的に連続的な検査の合間では内視鏡が乾燥することはなく、保管中に微生物が増殖することを抑制するために乾燥工程が必要です。圧縮空気による強制乾燥またはアルコールフラッシュによる乾燥が勧告されていますが、アルコールフラッシュによる乾燥は引火性や吸入により危険が伴うことに注意が必要です。しかし、アルコールフラッシュは乾燥後の微生物繁殖を抑制する目的の他に水道水中のグルタラール抵抗性抗酸菌への殺菌効果も期待できることから5)、すすぎに水道水を使用する場合にはアルコールフラッシュを実施すべきです。

内視鏡を湿った状態で保管すると微生物が増殖する可能性があるため、適切な乾燥方法によって内視鏡の内部および外部の水分を完全に除去することが必要です。本ガイドラインにおいて保管のために推奨される事項として、保管前に十分な乾燥を行うこと、乾燥を促進するためにできるだけ垂直状態で吊るすことなどを挙げています。また汚染から内視鏡を保護するためにディスポのカバーをかける方法も推奨しています。

変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)患者(疑い含む)対策

クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は異常プリオンと呼ばれるタンパク質により伝達されるヒトのプリオン病で、この異常プリオンは通常の滅菌・消毒方法に対し抵抗性を示します6)。現在確立されているプリオンの完全な不活性化法は消化器内視鏡に適用することができないため、本ガイドラインでは変異型クロイツフェルト・ヤコブ病が疑われるかまたは確定した患者には内視鏡を用いた検査は避けるべきと勧告されています。内視鏡検査が不可欠の場合には専用のものを用意するか、または廃棄時期の近い内視鏡を使用します。ただし、vCJD患者使用後でも細心の注意を払って洗浄すれば伝播のリスクはきわめて低いと考えられています。自動洗浄消毒機を用いる場合でも適切な使い捨てブラシを使用して用手によりすべてのチャネルを厳重に洗浄することが肝要です。

おわりに

消化器内視鏡はチャネルなどの内腔を有するセミクリティカル器具であり、洗浄不良を起こしやすい構造のため洗浄・消毒法が不適切であると微生物を媒介してしまう可能性があります。内視鏡に限らず一般にも、再生使用器具はまず適切な洗浄をすることが肝要であり、洗浄により血液など汚染物を除去し付着微生物数を減少させることがその後の消毒を確実なものとします。ガイドラインの遵守は内視鏡検査の安全性における重要な要素です。国、地域および施設によって洗浄・消毒方法の選択肢は異なると思われますが、常に高い消毒水準を維持することが求められています。

以上の要約が、内視鏡洗浄・消毒におけるkey messagesとして、本ガイドラインの冒頭に示されています。


<参考文献>

1.WGO-OMGE/OMED:
Practice guideline endoscope disinfection.2005.
http://www.omed.org/downloads/pdf/guidelines/
wgo_omed_endoscope_disinfection.pdf#search=’WGO-OMGE%20practice%20guideline’


2.日本消化器内視鏡技師会:
WGO-OMGE/OMED内視鏡洗浄消毒に関する実践ガイドライン訳文.
http://www.ask.ne.jp/~jgets/WGOguideline_japanese.pdf#search=
‘WGO-OMGE%20practice%20guideline’


3.Rutala WA:
APIC guideline for selection and use of disinfectants.
Am J Infect Control.1996;24:313-342.
http://www.yoshida-pharm.com/information/
guideline_kaigai/apic/guideline/disinfectant.html


4.伏見了:
効果的な洗浄を行うためのポイント.
大久保憲編集.洗浄・消毒・滅菌のポイント209.
メディカ出版、東京、2004

5.日本消化器内視鏡技師会安全管理委員会:
内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン第2版.2004.
http://www.ask.ne.jp/~jgets/CD_GL2_main.html

6.遅発性ウイルス感染調査研究班.
クロイツフェルト・ヤコブ病診療マニュアル(改定版).
厚生労働省特定疾患対策研究事業2002.


2006.12.04 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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