感染対策情報レター

特定病原体等の取り扱いについて

*(2011.04.19追記)
2011年1月14日に感染症法の一部改正が公布され、2月1日に施行されました。詳しくはこちらを参照ください。

はじめに

2007年6月1日から施行された改正感染症法(以下、本法)では生物テロや事故による感染症の発生・まん延を防止するため、病原体等の管理体制を確立する目的で、新規に「特定病原体等」に関する項目が制定されました。「特定病原体等」は本法において病原性の程度のほか、国民の生命および健康に与える影響の強さにより一種病原体等から四種病原体等に分類されています。なお、本法における「病原体等」とは感染症の病原体及び毒素と定義されています。
以下、一種から四種病原体等を表に示すとともに、管理、取り扱いなどについてそれぞれ述べます。
 

表 特定病原体等





アレナウイルス属ガナリトウイルス、サビアウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス、ラッサウイルス
エボラウイルス属アイボリーコーストエボラウイルス、ザイールウイルス、スーダンエボラウイルス、レストンエボラウイルス
オルソポックスウイルス属バリオラウイルス(別名痘そうウイルス)
ナイロウイルス属クリミア・コンゴヘモラジックフィーバーウイルス(別名クリミア・コンゴ出血熱ウイルス)
マールブルグウイルス属レイクビクトリアマールブルグウイルス





エルシニア属ペスティス(別名ペスト菌)
クロストリジウム属ボツリヌム(別名ボツリヌス菌)
コロナウイルス属SARSコロナウイルス
バシラス属アントラシス(別名炭疽菌)
フランシセラ属ツラレンシス種(別名野兎病菌)亜種ツラレンシス及びホルアークティカ
ボツリヌス毒素(人工合成毒素であって、その構造式がボツリヌス毒素の構造式と同一であるものを含む)





コクシエラ属バーネッティイ
マイコバクテリウム属ツベルクローシス(別名結核菌)(イソニコチン酸ヒドラジド及びリファンピシンに対し耐性を有するものに限る。)
リッサウイルス属レイビーズウイルス(別名狂犬病ウイルス)





インフルエンザウイルスA属インフルエンザAウイルス(血清亜型がH2N2、H5N1又はH7N7であるものに限る。)
エシェリヒア属コリー(別名大腸菌)(腸管出血性大腸菌に限る。)
エンテロウイルス属ポリオウイルス
クリプトスポリジウム属パルバム(遺伝子型が1型又は2型であるものに限る。)
サルモネラ属エンテリカ(血清亜型がタイフィ又はパラタイフィAであるものに限る。)
志賀毒素(人工合成毒素であって、その構造式が志賀毒素の構造式と同一であるものを含む。)
シゲラ属(別名赤痢菌)ソンネイ、デイゼンテリエ、フレキシネリー及びボイデイ
ビブリオ属コレラ(別名コレラ菌)(血清型がO1又はO139であるものに限る。)
フラビウイルス属イエローフィーバーウイルス(別名黄熱ウイルス)
マイコバクテリウム属ツベルクローシス(多剤耐性結核菌を除く。)

一種病原体等

一種病原体等は表に掲げるものの他、表に掲げるものと同程度の病原性を有し、国民の生命及び健康に極めて重大な影響を与えるおそれがある病原体等として政令で定めるとされています。ただし、現在のところ政令で定められた病原体等はありません。
一種病原体等はその所持、輸入、譲り渡し等が原則的に禁止されていますが例外として、

・所持:試験研究が必要な一種病原体等として政令で定めるもの(以下「特定一種病原体等」という。)を、厚生労働大臣が指定する施設において試験研究するために所持する場合など。
・輸入:特定一種病原体等所持者が、特定一種病原体等であって外国から調達する必要があるものとして厚生労働大臣が指定するものを輸入する場合。
・譲り渡し:特定一種病原体等所持者が、特定一種病原体等を、厚生労働大臣の承認を得て、他の特定一種病原体等所持者に譲り渡し、または他の特定一種病原体等所持者もしくは一種滅菌譲渡義務者から譲り受ける場合など。
が規定されています。

所定の要件を満たし厚生労働大臣が指名した特定一種病原体等所持者は当該病原体等による感染症の予防及びまん延の防止を監督させるため、厚生労働省令で求める要件を備える者のうちから病原体等取扱主任者を選任し、また感染症発生予防規定を作成して厚生労働大臣に届け出る必要があります。

二種病原体等

ニ種病原体等は表に掲げるものの他、表に掲げるものと同程度に病原性を有し、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある病原体等として政令で定めるとされています。ただし一種病原体等と同様、現在までに政令により定められた病原体等はありません。
ニ種病原体等の所持は事業所ごとに厚生労働大臣の許可を受ける必要があり、輸入についてはニ種病原体等の種類ごとに受けなければなりません。また二種病原体等許可所持者は[1]所持の目的を達したとき又はこれを失ったとき[2]許可を取り消されたとき[3]許可証の汚損または失われたことにより再交付を受けた後、失われた許可証を発見したときには直ちに許可証を厚生労働大臣に返納します。
ニ種病原体等許可所持者は特定一種病原体等所持者と同様、病原体等取扱主任者を選任し、また感染症発生予防規定を作成して厚生労働大臣に届け出る必要があります。

三種病原体等

三種病原体等とは表に掲げるものの他、表に掲げたものと同程度の病原性を有し、国民の生命及び健康に影響を与えるおそれがある病原体等として政令で定められています。この三種病原体等を所持する者は原則的に所持の開始の日から7日以内に、その種類及び厚生労働省令で定める事項を厚生労働大臣に届け出る必要があります。また輸入に関してもその輸入の日から7日以内に、氏名または名称および住所や輸入した三種病原体等の種類、輸入の目的など本法に規定された事項を厚生労働大臣に届け出ます。

四種病原体等

四種病原体等とは表に掲げるものの他、表に掲げたものと同程度の病原性を有し、国民の健康に影響を与えるおそれがある病原体等として政令で定められています。
四種病原体等所持者には二種病原体等、三種病原体等のように所持に関して許可や届出の義務はありませんが、特定病原体等として保管、使用または滅菌等をする施設の位置、構造および設備を厚生労働省令で定める技術上の基準に適合するように維持する必要があります。また保管、使用、運搬または滅菌等をする場合においては、厚生労働省令で定める技術上の基準に従って特定病原体等による感染症の発生の予防およびまん延の防止のために必要な措置を講じることは他の特定病原体等と同様です。

終わりに

従来、感染症の病原体等の管理は研究者、施設管理者等の自主性に委ねられてきましたが、感染症の予防に関する施策の国際的な動向に鑑み改正された本法により、生物テロに使用されるおそれのある病原体等であって、国民の生命および健康に影響を与えるおそれのある感染症の病原体等の管理が強化されました。
特に特定一種病原体等所持者、ニ種病原体等許可所持者および三種病原体等所持者には当該病原体等の管理に関する項目が厳しく規定されており、当該病原体等の保管、使用および滅菌等に関する事項その他当該病原体等による感染症の発生の予防およびまん延の防止に関し必要な事項を記載する帳簿を備え、保存する義務などもあります。

これらの病原体等の取り扱い・管理について詳細は厚生労働省Webページ「感染症法に基づく特定病原体等の管理規制について」を参照ください。


<参考文献>

厚生労働省Webページ
感染症法に基づく特定病原体等の管理規制について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/03.html


2007.08.01 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

感染対策情報レター

Y's Letter