感染対策情報レター

米国における周産期B群レンサ球菌疾患の傾向(2000年~2006年)について

はじめに

B群レンサ球菌(Group B Streptococcus:GBS)による疾患は、米国において新生児の罹患率および死亡率の主要な原因となっています1)。GBSが母親の腟等に保菌されている場合、出産時に腟を通過する際などに胎児が感染すると、髄膜炎、肺炎、敗血症などを起こすことが知られています。2002年、CDCおよび米国産科婦人科学会、米国小児科学会は、早発性GBS疾患(出生7日未満の新生児におけるGBS疾患)の予防ガイドラインを改訂し、妊娠35~37週の全妊婦に対して、直腸および腟内のGBS培養のスクリーニングを実施し、保菌者に対しては分娩時の抗生物質の予防的投与を行うことを推奨しています2)。今回、米国のActive Bacterial Core surveillance (ABCs) systemにおける2000年から2006年のデータによるGBS疾患に関する分析結果が報告されました1)。以下、報告内容について示します。

GBS疾患発生率の分析結果

2000年から2006年において、GBSの早発性疾患(early-onset disease:EOD)は1,199例、遅発性疾患(late-onset disease:LOD、出生後7日~89日)は1,005例が報告されており、2006年においてはEOD 179例、LOD 137例の計316例が報告されました。
2006年におけるこれら症例の人種の割合は、白人178例(56%)、黒人118例(37%)、その他14例(4%)、不明6例(3%)であり、民族別では、ヒスパニック系52例(16%)、非ヒスパニック系246例(78%)、不明18例(6%)でした。(表1)

表1.2006年の EOD・LOD症例の内訳(316例中)
人種 白人 178例 56%
黒人 118例 37%
その他 14例 4%
不明 6例 3%
民族別 ヒスパニック系 52例 16%
非ヒスパニック系 246例 78%
不明 18例 6%


転帰の明らかな313例において、死亡率はEOD 7%(177例中13例)、LOD 5%(136例中7例)でした。また、妊娠期間の明らかな312例において、妊娠期間37週未満の早産率は、EOD症例の28%(178例中49例)、LOD症例の42%(134例中56例)と報告されました。(表2、表3)

表2.2006年のGBS疾患死亡率(313例中)(316例中)
  死亡率 症例数
EOD 7% 13例/177例
LOD 5% 7例/136例
表3.2006年のEOD・LOD症例における妊娠37週未満の早産率(312例中)
  早産率 症例数
EOD 28% 49例/178例
LOD 42% 56例/134例

全体的なEOD発生率は2000年から2003年には減少傾向(生存出生児1,000人あたり0.52から0.31)を示しましたが、2003年から2006年には増加(生存出生児1,000人あたり0.31から0.40)しました。
人種別に見ると、黒人において2003年から2006年における発生率が有意に増加しましたが(生存出生児1,000人あたり0.53から0.86;p=0.005)、白人では有意な変化はみられませんでした(生存出生児1,000人あたり0.26から0.29;p=0.64)。(図1)

図1.早発型†侵襲性GBSの割合※
† 出生7日未満の新生児
※生存出生児1,000人あたり

図1
青破線:黒人新生児(n=428)
黒線:全体(N=1199)
青点線:白人新生児(n=656)

妊娠期間によるEOD発生率の傾向として、2003年から2006年の早産児における発生率は、黒人(生存出生児1,000人当たり1.79)が、白人(生存出生児1,000人当たり0.67)にくらべ2.8倍高かったと報告されています。(図2)

図2.早発型†侵襲性GBSの割合※
†出生7日未満の新生児
※生存出生児1,000人あたり

図2
青破線:黒人新生児(n=149)
黒線:白人新生児(n=122)
青点線:黒人満期出生児(n=279)
黒破線:白人満期出生児(n=534)

満期出産児においては、2003年から2006年のEOD発生率は白人では安定していたが、黒人では有意な増加(生存出生児1,000人あたり0.33から0.70;p=0.002)が見られました。 2003年から2006年におけるEOD症例の93%(549例/592例)において、出産前のGBSスクリーニングが明らかとなりました。それらのうち 387例(70%)の母親は少なくとも出産前の2日以内に検査が行われ、80例(20%)に抗生物質予防投与が実施されました。 LOD発生率は、2000年から2006年において安定した状態で推移していました(生存出生児1,000人あたり、2000年:0.36、2006 年:0.30)。人種別では、黒人において2005年から2006年にかけて有意に減少しましたが(生存出生児1,000人あたり、2005 年:0.95、2006年:0.55)、黒人および白人での有意な傾向はみられませんでした。(図3)

図3.遅発型†侵襲性GBSの割合※
†出生後7日~89日の新生児に発生
※生存出生児1,000人あたり

図3
青破線:黒人新生児(n=411)
黒線:全体(N=1005)
青点線:白人新生児(n=514)

報告への評価

GBSは1970年代に新生児の細菌性敗血症の主な原因として明らかとなりました。 2002年改訂のガイドライン以前は、抗生物質予防的投与の対象を決定するため、リスクに基づくスクリーニングと出産前のGBS培養に基づくスクリーニングの2つの対策を考慮していました。2002年の人口に基づく研究では、培養に基づくスクリーニングは、リスクに基づくスクリーニングよりも50%以上有効とされたことから、2002年の普遍的培養スクリーニングの勧告となりました。普遍的スクリーニングの実施により、30%以上のEOD発生率の低下が期待され、さらに予防戦略を1つとすることによりEOD発生率の人種間による相違も減少することが期待されました。
しかし今回の報告結果では、2003年から2006年においてEOD発生率の増加が示されており、この増加は黒人での発生率が増加したことによります。この増加は予想されておらず、まだ十分に説明できない状況です。2003年からのEOD発生率は増加していますが、LOD発生率には有意な変化は認められず、EOD発生率の傾向はLOD発生率の傾向とは一致していません。また、満期出産された症例児の母親においては、黒人および白人ともに類似した高い割合で試験が行われていたことから、スクリーニングにおける人種間の相違が、黒人での発生率増加の原因であるようにはみえないとされています。これと一致して、ABCs管轄人口における2003年から2004年の生存出生数の最近の評価では、黒人人種はスクリーニングの欠如と関連がないことがわかりました。また、抗生物質予防的投与は、黒人および白人の母親に同じ割合で行われていたと示されています。しかし、スクリーニング結果は不完全な場合もあり、結果による判断には限界があります。
予防の有効性等に影響を与えるその他の要因についても、評価していくことが重要と考えられています。

終わりに

B群レンサ球菌の米国における2000年から2006年における感染傾向の報告内容を示しました。
今回の報告結果は、少なくとも3つの制限を受けていたとされています。1つは、サーベイランスデータは疾病症例における人種間の相違を調査するための役には立ち得るが、これらの相違がなぜ存在するかを説明できないことがよくあること。2つ目は、選ばれた10州の地域がABCsの対象とされていますが、米国における人種を反映していないかもしれないこと。3つ目に、これらの結果は2002年からたった4年のデータであり、追加のサーベイランスによって増加傾向が続くかどうかを確かめる必要があると述べられています。 1990年代からGBS疾患の予防を始めて以来、米国ではEOD発生率を80%減少させています。2003年以降EOD発生率は増加していますが、出産前スクリーニングは最も有効な戦略と考えられています。

B群レンサ球菌の感染対策や消毒方法については、Y’s Letter No.33「レンサ球菌・髄膜炎菌・百日咳菌」をご参照下さい。


<参考文献>

1.CDC:
Trend in Perinatal Group B Streptococcal Disease—United States,2000–2006.
MMWR 2009;58(05)109-112.
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5805a2.htm?s_cid=mm5805a2_e

2.CDC:
Prevention of Perinatal Group B Streptococcal Disease:revised guidelines from CDC.
MMWR 2002;51(No.RR-11)1-22.
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5111a1.htm


2009.06.22 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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