感染対策情報レター

安全な注射・点滴手技および医薬品バイアルの取り扱いについて

はじめに

アメリカ合衆国の様々な医療施設において、医療従事者による危険で、不適切な注射・点滴手技および医薬品バイアルの取り扱いにより、血液由来ウイルスなどの微生物病原体の伝播が起き続けています。最近の例では、2008年ネバダ州の内視鏡検査施設において、患者間のシリンジの再利用、単回使用医薬品バイアルの共有などの危険な注射手技により、HCVのアウトブレイクが報告されています。このアウトブレイクは63,000人に感染の潜在的リスクがあるとして注目されました。このように安全な注射・点滴手技および医薬品バイアルの取り扱いが実施されないために、医療施設おいてアウトブレイクが発生することは許容されません。そこで、APIC(Association for Professionals in Infection Control and Epidemiology : 米国感染管理・疫学専門家協会)は医療施設で常に実践されるべき、安全な注射・点滴手技および医薬品バイアルの取り扱いに関してガイダンス1)を発表しました。以下、そのガイダンスの内容を紹介します。

無菌操作について
(ISOクラス5*に満たない環境下)

非経口医薬品の投与、医薬品バイアルの使用、注射、血糖測定法のすべての場面で無菌操作が推奨されます。医薬品やサプライは清潔なエリアの清潔な表面で保管・調製します。包装されていない針やシリンジ、緊急時に開封したバイアル、静脈用注射溶液等は使用しないようにします。
感染対策の基本として、サプライにアクセスする前、バイアルや静脈用注射溶液を扱う前、医薬品の調製・投与前などには、必ず手指衛生をおこないます。手指衛生には石けんと流水あるいは60%以上のアルコールベースの速乾性手指消毒剤を使用します。

*ISO(International Organization for Standardization : 国際標準化機構)による清浄度クラス分類であり、ISOクラス5とは0.5μm以上の微粒子の空中浮遊微粒子数(個/m3)が3520を超えない環境を示します。

静脈用注射溶液

静脈用注射溶液や医薬品は可能な限り投与直前に調製します。一方、静脈用注射溶液が即座に使用されない場合、例えばD-グルコースや塩化ナトリウムのような薬剤をアンプル、バイアルから静脈内輸液バッグ、ボトルへ注入する際には、USP<797>*に従って調製することが推奨されます。
調製の際には、IVポートやバイアル栓は無菌の70%イソプロパノール、エタノール、ヨードフォアあるいはその他承認された消毒薬含浸綿で清拭して消毒し、アクセス前には乾燥させておきます。また、針、シリンジ、フラッシュ溶液、投与セット、静脈用輸液のような点滴サプライは1患者以外には使用してはなりません。

*USP<797>は、USP(The United States Pharmacopeia : 米国薬局方)において無菌製剤の調製について記載されている項目です。

シリンジ

滅菌の針、カニューレおよびシリンジは使用直前にパッケージから取り出します。バイアルや静脈用注射バッグへ挿入する際は、常に新しい針、シリンジを使用しなければなりません。針、シリンジは患者に直接使用した後、あるいは静脈内投与に使用した後すぐに承認された耐貫通性容器に破棄します。また、可能であれば、針刺し防止装置を利用します。

バイアル

可能であれば単回使用あるいは単回量バイアルを使用することが推奨されています。単回量バイアルは使用後、破棄し、他の患者に使用してはなりません。また、複数回量バイアルは、可能な限り単一患者に使用し、すべてのバイアルに対し、新しい滅菌シリンジ、針、カニューレを使用し、無菌操作を遵守しなければなりません。
注射、静脈内投与のために開封した複数回量バイアルの使用期限や破棄については、異なる意見があり、未解決問題とされています。例えば、USP<797>では製造業者の有効期限が28日未満あるいは製品ラベルに特に指定がある場合を除き、使用期限ははじめに栓を貫通させてから28日間としています。一方、CDC(Centers for Disease Control and Prevention : 米国疾病管理予防センター)では使用期限は製造業者の有効期限に基づくとしています。しかし、もし製品の無菌性に疑問がある場合には、使用期限あるいは製造業者の有効期限に関わらず、破棄しなければなりません。

血糖測定機器

可能であれば、血糖測定器は各患者専用とします。もし、血糖測定器を多くの患者で共有しなければならない場合は、洗浄・消毒をおこないます。消毒前には、血糖測定器から目に見える汚れや有機物(例えば血液など)は完全に取り除きます。血糖測定器の消毒には、EPA(Environmental Protection Agency : 米国環境保護局)承認のHBV, HCV, HIVに対し有効な消毒薬あるいは10倍希釈漂白液を使用します。
毛細血管採血のための穿刺器具は各患者専用として用います。穿刺針は単回使用であり、穿刺後には収納されるものを使用します。穿刺針は決して再使用せず、使用後すぐに承認された耐貫通性容器に破棄します。また可能であれば、穿刺器具や血糖測定器などは各入院患者の部屋の中で管理します。

医療従事者

過去にHBVワクチンを接種しておらず、血液や体液に接触する機会のある医療従事者にはワクチンを接種し、接種終了後1~2ヶ月間で抗体価を調査し記録します。また、医療従事者が体液への暴露、針刺し、鋭利物による傷を負った場合は即座に記録します。
医療施設において安全な注射手技を実践できるように、注射、他の非経口医薬品の調製・投与する医療従事者が無菌的にこれらの業務を遂行できるか観察・評価し、定期的に安全な注射手技のコンプライアンスを評価します。

まとめ

安全な注射・点滴手技および医薬品バイアルの取り扱いが実施されないために、医療施設おいてアウトブレイクが発生することは許容されません。このようなアウトブレイクは基本的な感染制御とともに適切な無菌操作が実践されれば、防止可能です。したがって、医療従事者は、これらの安全な手順を十分理解し、実行しなければなりません。また、医療施設においては、医療従事者が安全な手技を実施できるよう教育、訓練などをおこなうことが求められます。


<参考文献>

1.Dolan SA, Felizardo G, Barnes S, et al:
APIC position paper: safe injection, infusion, and medication vial practices in health care.
Am J Infect Control. 2010 ; 38 : 167-72
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20347635


2010.08.02 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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