感染対策情報レター

血管カテーテル関連感染予防のためのCDCガイドライン, 2011

はじめに

CDCは2011年4月1日、「血管カテーテル関連感染予防のためのガイドライン, 2011」を公表しました。このガイドラインは2002年に公表された「血管カテーテル関連感染予防のためのガイドライン」に代わるものです。
今回は本ガイドラインの概要と皮膚消毒について述べます。

ガイドラインの概要

本ガイドラインの注目する主なポイントとしては以下のものが挙げられています。

1.カテーテルの挿入や管理を行う医療従事者の教育や訓練について。
2.中心静脈カテーテル挿入中に実施するマキシマルバリアプリコーションについて。
3.クロルヘキシジン濃度が0.5%を超えるアルコール製剤の使用について。
4.感染予防の手法として中心静脈カテーテルの定期的な交換を避けることについて。
5.他の手法(例えば教育や訓練、マキシマルバリアプリコーションや皮膚消毒のための0.5%を超えるクロルヘキシジンアルコール製剤の適用)が遵守されているにもかかわらず感染率が低下しないようであれば、消毒薬や抗菌薬含浸の短期間中心静脈カテーテルやクロルヘキシジン含浸のスポンジドレッシングを使用することについて。

また包括的(バンドル)手法の実施による効果改善や、品質保証および効果改善の指標としてその手法にて実施されているすべての項目の遵守率を記録・報告することについても強調しています。ガイドラインの内容は次に示す22項目について、勧告の概要とその勧告の背景などが記載されています。

1.教育・訓練・スタッフの配置
2.カテーテルおよび挿入部位の選択
3.末梢カテーテルおよびミッドラインカテーテル
4.中心静脈カテーテル
5.手指衛生および無菌テクニック
6.マキシマルバリアプリコーション
7.皮膚消毒
8.カテーテル挿入部位のドレッシングレジメン
9.患者の清浄
10.カテーテル固定器具
11.抗菌薬/消毒薬含浸カテーテルおよびカフ
12.予防的抗菌薬投与
13.抗菌薬/消毒薬軟膏
14.抗菌薬ロック予防、抗菌薬カテーテルフラッシュおよびカテーテルロック予防
15.抗凝固薬
16.末梢およびミッドラインカテーテルの交換
17.PICCおよび透析カテーテルを含む中心静脈カテーテルの交換
18.臍帯カテーテル
19.成人と小児患者のための末梢動脈カテーテルおよび血圧モニタリング器具
20.輸液セットの交換
21.ニードルレス血管内カテーテルシステム
22.パフォーマンスの向上

皮膚消毒について

皮膚消毒については表のような勧告になっています。

表. 皮膚消毒についての勧告

  1. 末梢静脈カテーテル挿入前に70%アルコール注)、ヨードチンキ、ヨードホール(ポビドンヨード)、クロルヘキシジンで皮膚消毒する。(カテゴリーIB)
  2. 中心静脈カテーテルや末梢動脈カテーテル挿入前およびドレッシング交換時の皮膚消毒にクロルヘキシジン濃度が0.5%を超える(>0.5%)アルコール製剤で皮膚消毒する。クロルヘキシジンが禁忌の場合にはヨードチンキまたはヨードホール(ポビドンヨード)、70%アルコールに変更することができる。(カテゴリーIA)
  3. 皮膚消毒においてクロルヘキシジンアルコールとポビドンヨードアルコールで比較はされていない。(未解決問題)
  4. 2ヶ月未満の幼児においてクロルヘキシジンの安全性または有効性に対する推奨はない。(未解決問題)
  5. 皮膚消毒薬はカテーテルを留置する前に製造元の推奨に従って乾燥しておくべきである。(カテゴリーIB)


カテゴリーIA:実施することが強く推奨され、良くデザインされた実験的、臨床的、疫学的研究によって強く支持されている。
カテゴリーIB:実施することが強く推奨され、いくつかの実験的、臨床的、疫学的研究や強い理論的根拠によって支持されている。また慣例で実施されているものは限られた根拠によって支持されている。

注)アメリカ合衆国ではイソプロパノールが一般的ですので、70%アルコールは、70v/v%イソプロパノールを意味すると考えます。

カテーテル挿入前およびドレッシング交換時の皮膚消毒にはクロルヘキシジン濃度が0.5%を超える(>0.5%)アルコール製剤で皮膚消毒することがもっとも推奨度の高いカテゴリーIAで推奨されています。このような勧告となった背景として、以下のことが挙げられています。

・血管カテーテル挿入部位のケアにクロルヘキシジン含有製剤を用いた皮膚消毒法とポビドンヨードまたはアルコールとを比較した2つのよくデザインされた研究において、クロルヘキシジン製剤の使用でカテーテルへの菌定着またはカテーテル関連血流感染(CRBSI)の割合が低かったこと2)3)
・0.5%クロルヘキシジンアルコールが10%ポビドンヨードと比較して中心静脈カテーテルへの菌定着またはCRBSIに差が見られなかったこと4)
・2%クロルヘキシジン水溶液が10%ポビドンヨードまたは70%アルコールよりもCRBSIが減少する傾向にあること2)
・4,143例のメタアナリシスにおいて、クロルヘキシジン製剤はポビドンヨードに対して49%までカテーテル関連感染のリスクを減少すること5)

2002年のガイドラインではカテーテル挿入前およびドレッシングの交換時の皮膚消毒に2%クロルヘキシジン製剤の使用を推奨した上でヨードチンキ、ポビドンヨード、70%アルコールを用いることができると勧告されていましたが、前述のように2011年のガイドラインでは中心静脈カテーテルおよび末梢動脈カテーテルについては0.5%を超える濃度のクロルヘキシジンアルコールのみを推奨しています。ただしクロルヘキシジンが禁忌の場合にはヨードチンキまたはポビドンヨード、70%アルコールに変更することができると述べられています。なお、末梢静脈カテーテル挿入前の皮膚消毒については70%アルコールまたはヨードチンキ、ポビドンヨード、クロルヘキシジンによる皮膚消毒が推奨されています。
また、本ガイドラインではクロルヘキシジンの経済的効果について述べられています。クロルヘキシジンはポビドンヨードに比べてCRBSIの発生率を1.6%減少させ、死亡率も0.23%減少させ、その結果1カテーテル使用あたり113ドル抑制することができると述べられています6)
クロルヘキシジンが中心および末梢静脈カテーテル挿入部位の皮膚消毒に標準的な消毒薬となった一方で、5%ポビドンヨード70%エタノールは10%ポビドンヨード水溶液に比べて中心静脈カテーテル関連の定着および感染を実質的に減少する7)ことについての記載もあります。

おわりに

2002年のガイドライン公表以降も新しい感染対策の有用性が報告されており、2011年のガイドラインではいくつかの新しい感染対策が推奨されています。本ガイドラインは米国のガイドラインであり、日本国内では市販されていない製品もありますが、国内においても血管カテーテル関連血流感染対策の参考となるガイドラインであると思われます。


<参考文献>

1.CDC:
Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2011
http://www.cdc.gov/hicpac/pdf/guidelines/bsi-guidelines-2011.pdf

2.Maki DG, Ringer M, Alvarado CJ.:
Prospective randomised trial of povidone-iodine, alcohol, and chlorhexidine for prevention of infection associated with central venous and arterial catheters.
Lancet 1991;338:339-343
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1677698itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=4

3.Mimoz O, Pieroni L, Lawrence C, et al:
Prospective, randomized trial of two antiseptic solutions for prevention of central venous or arterial catheter colonization and infection in intensive care unit patients.
Crit Care Med 1996;24:1818-1823.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8917031

4.Humar A, Ostromecki A, Direnfeld J, et al:
Prospective randomized trial of 10% povidone-iodine versus 0.5% tincture of chlorhexidine as cutaneous antisepsis for prevention of central venous catheter infection.
Clin Infect Dis 2000;31:1001-1007.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11049783

5.Chaiyakunapruk N, Veenstra DL, Lipsky BA, et al:
Chlorhexidine compared with povidone-iodine solution for vascular catheter-site care: a meta-analysis.
Ann Intern Med. 2002;136:792-801.
http://www.annals.org/content/136/11/792.full.pdf

6.Chaiyakunapruk N, Veenstra DL, Lipsky BA, et al:
Vascular catheter site care: the clinical and economic benefits of chlorhexidine gluconate compared with povidone iodine.
Clin Infect Dis 2003;37:764-771.
http://cid.oxfordjournals.org/content/37/6/764.full.pdf

7.Parienti JJ, du Cheyron D, Ramakers M, et al:
Alcoholic povidone-iodine to prevent central venous catheter colonization: A randomized unit-crossover study.
Crit Care Med 2004;32:708-713.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15090951


2011.6.3 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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