感染対策情報レター

周産期におけるB群レンサ球菌感染症について

はじめに

B群レンサ球菌(group B Streptococcus;GBS)感染症は主に新生児に対し死亡あるいは後遺症を残す頻度の高い感染症として知られています。周産期における感染対策の指針としてはCDCから1996年にGBS感染症予防のためガイドラインが公開され、2002年には改訂版が公開され情報が更新されました。さらに2010年11月には再改訂版として「周産期におけるB群レンサ球菌感染症予防のためのガイドライン」が公開され注目されています1)
一方、日本国内における感染対策指針としては日本産婦人科学会より2008年に産婦人科診療ガイドラインが公開され2)、GBS保菌診断と取り扱いに関する事項が示されており、近年国内外を問わずGBS感染症予防に関する情報が報告されております。
今回は新生児に対するGBS感染症予防対策について、2010年11月にCDCより公開されたGBS感染症予防のためのガイドライン2010で示された内容を中心に述べます。

GBS感染症

GBS感染症はグラム陽性菌であるB群レンサ球菌に起因する感染症であり、主に新生児に死亡あるいは後遺症を残す頻度の高い、予後の悪い感染症として知られています。本菌は妊婦の腟または直腸に保菌されている場合があり、その保菌割合は10~30%とされ1)2)、新生児GBS感染症の主要な要因となります。新生児GBS感染症は発症の時期により早発型(生後7日以内)と遅発型(生後7日以降)に分けられます。発症症例の割合は日本国内における1998年から2003年の6年間のアンケート調査によると、GBS感染症458例中、早発型は84%、遅発型は13%と早発型が多く、63%の287例が日齢0に発症したと報告されています3)。また早発型の症状としては肺炎、敗血症、髄膜炎が挙げられ、急速に重篤化し、予後が悪いことが挙げられます1)3)4)。一方、米国においても以前は早発型が圧倒的に多かったものの、近年は早発型と遅発型がほぼ同等の割合で発症しています。この要因として感染予防の介入効果を挙げており、効果としてGBS感染症が出生1000人あたり1.7人から0.34~0.37人に減少しています1)。このように、新生児における早発型GBS感染症は適切な感染対策を実施することにより発生率を減少させることが可能な感染症と考えられます。

感染リスク

早発型GBS感染症の主要な要因としては妊婦の分娩時における腟・直腸のGBS保菌であり、保菌妊婦は非保菌妊婦の25倍以上のリスクがあるとされます1)2)。さらに、妊娠37週未満であることや長時間にわたる破水後経過時間、発熱などを感染リスク上昇の要因として挙げており、妊娠37週未満、破水後12時間以上の経過、37.5℃以上の発熱があった妊婦はリスク要因のなかった妊婦の6.5倍早発型GBS感染症リスクが上昇するとされます1)5)。さらに妊娠期間中に尿からGBSが検出された場合や前回妊娠の出生児がGBSを発症している妊婦では現妊娠期間の培養検査が陰性であっても分娩時に対策を講じることが勧告されています1)2)。その他の要因として白人・黒人など人種による要因もあり、従来から黒人での早産児において早発型GBS感染症の発症率が高いことが知られていますが1)、その理由は明らかになっておりません。

感染制御策

GBS感染症は経腟的に出産する妊婦から新生児への垂直感染が主な原因となることから、全妊婦に対して妊娠35~37週(国内のガイドラインでは33~37週)に腟および直腸の培養検査をします1)2)。保菌状態を確認し、羊膜が正常で陣痛が始まる前の帝王切開による出産の場合を除き、GBS保菌が認められた場合には分娩時の予防的抗菌薬投与が推奨されます1)2)。しかし、陣痛や出産の時までに培養検査の結果が得られない場合で、妊娠37週未満または破水後18時間以上経過あるいは38℃以上の発熱のある妊婦に対しては分娩時に予防的抗菌薬投与の実施が推奨されます。さらに妊娠中の全期間を通して尿からGBSが一度でも検出された場合や前回妊娠の出生児がGBS感染症を発症した妊婦では分娩時の抗菌薬投与の対象となります。この分娩時における抗菌薬投与のGBS感染予防効果は、予防投与を受けた妊婦から出生した新生児の86~89%に効果があったと報告されています1)。使用する抗菌薬としてアレルギーがない場合はペニシリン、代替としてアンピシリンが推奨されておりますが、ペニシリンに対しアナフィラキシー様症状等の既往歴がある患者では、保菌しているレンサ球菌のクリンダマイシンまたはエリスロマイシンの感受性を確認し、感受性があればクリンダマイシンを適用し、感受性が低い場合にはバンコマイシンを適用する方法が挙げられています1)
日本においては腟などの粘膜に対する適用は禁忌であるものの、クロルヘキシジンを用いた腟清拭や産道洗浄と新生児の全身清拭によるGBS感染予防効果についても検討されています。クロルヘキシジンの使用については耐性菌の問題もなく、コストが低く、使用できる資源の限られた施設においても適用可能な対策として注目されます。症例を無作為に割付けしていない報告においてはクロルヘキシジン清拭による感染予防効果があったとされますが、無作為に割付けした報告においては感染予防効果がなかったと報告されています1)。これまでの報告を総合的に検討した文献によると、陣痛時のクロルヘキシジン清拭は、新生児のGBS保菌を減少させる効果が見られたが、死亡率をはじめ敗血症や肺炎、髄膜炎等の感染率を減少させる効果は期待できないと結論付けられています6)
ワクチンは現在までのところ発売されておりませんが、感染予防効果について検討されており1)、今後の開発が期待されています。

まとめ

GBS保菌妊婦から出生する新生児では、その感染率は2%前後と推定され、決して頻度の低い感染症ではありません2)。新生児におけるGBS感染症は死亡の原因あるいは後遺症を残すなど予後が悪く、出来る限りの感染対策が強く望まれます。
またクロルヘキシジン清拭による感染予防効果は、現在までの報告において感染率の減少効果は見られないとされておりますが、使用できる資源の制約を受ける施設等においては議論の余地もあり7)、今後の報告が注目されます。

米国における周産期B群レンサ球菌感染症の傾向については、Y’s Letter vol.3 No.3「米国における周産期B群レンサ球菌疾患の傾向(2000年~2006年)について」をご参照ください。
B群レンサ球菌の感染対策や消毒方法については、Y’s Letter No.33「レンサ球菌・髄膜炎菌・百日咳菌」をご参照ください。


<参考文献>

1.CDC:
Prevention of perinatal group B streptococcal disease.
Revised guidelines from CDC, 2010.
http://www.cdc.gov/mmwr/pdf/rr/rr5910.pdf

2.日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会.
産婦人科診療ガイドライン-産科編2008.
http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/FUJ-FULL.pdf

3.保科清、鈴木葉子、仁志田博司、他:
最近6年間のB群レンサ球菌(GBS)感染症についてのアンケート調査結果.
日本周産期・新生児医学会雑誌 2006;42:7-11.

4.Hoshina K, Suzuki Y, Nishida H, et al:
Trend of neonatal group B streptococcal infection during the last 15 year.
Pediatr Int 2002;44:641-646.

5.Boyer KM, Gotoff SP:
Strategies for chemoprophylaxis of GBS early-onset infections.
Antibiot Chemother 1985;35:267-280.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=Strategies%20for%20chemoprophylaxis%20of%20GBS%20early-onset%20infections%201985

6.Stade BC, Shah VS, Ohlsson A:
Vaginal chlorhexidine during labour to prevent early-onset neonatal group B streptococcal infection(Review).
The Cochrane Collaboration 2008;2:1-23.

7.Mullany LC, Biggar RJ:
Vaginal and neonatal skin cleansing with chlorhexidine. Lancet 2009;374:1873-1875.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19846213


2011.3.23 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.

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