消毒薬テキスト第5版

V 各種消毒薬の特性

1 低水準消毒薬

1)第四級アンモニウム塩

(1)ベンザルコニウム塩化物1~8)

①特徴
陽イオン界面活性剤(逆性石けん)であり、石けんとは逆の荷電を有している。基本的には非生体向けの消毒薬であり、主に家具、床などノンクリティカルな環境の消毒に用いる。食品分野においても長年繁用されている。金属製品、繊維製品に対する腐食性は少ないが、患者間で再利用するセミクリティカル、クリティカル器具の消毒には十分な殺菌力を期待できない。

日本においてはクロルヘキシジングルコン酸塩の粘膜適用が禁忌となっているため、皮膚粘膜に対する刺激性や臭気の少ない実用濃度の逆性石けん液は粘膜に適用する場合がある。微生物汚染された逆性石けん液を膀胱鏡あるいは心臓カテーテルに使用したために感染症を引き起こしたという報告や静脈カテーテル挿入部の皮膚消毒に汚染された綿球を使用したために敗血症を引き起こしたという報告がある9)。また微生物汚染を減少させることを目的として8~12vol%のエタノールを添加した0.1%ベンザルコニウム塩化物液や、さらに防錆剤を加えた製剤が市販されている10、11)

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌の一部、エンベロープを有するウイルスの一部に有効であるが、結核菌、多くのウイルス、芽胞に無効である。グラム陰性桿菌である緑膿菌、Burkholderia cepacia、セラチア、Achromobacter xylosoxidansなどが抵抗性を示す場合がある。

③作用機序
第四級アンモニウム塩の作用機序としてHugoは以下の5つをあげた2)
・蛋白変性および酵素の切断
・糖の分解と乳酸の酸化など代謝への作用
・膜透過性障害による溶菌、リンおよびカリウムの漏出
・解糖の促進
・原形質膜の活動を支える酵素に対する作用の可能性

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)

0.05~0.2%ベンザルコニウム塩化物液 手術室、病室、家具、器具、物品
0.1%ベンザルコニウム塩化物液 医療機器、手術部位の皮膚
0.05~0.1%ベンザルコニウム塩化物液 手指・皮膚、感染皮膚面は0.01%ベンザルコニウム塩化物液
0.01~0.025%ベンザルコニウム塩化物液 手術部位の粘膜、粘膜の創傷部位、皮膚の創傷部位
0.02~0.05%ベンザルコニウム塩化物液 腟洗浄
0.01~0.05%ベンザルコニウム塩化物液 結膜嚢
0.2%ベンザルコニウム塩化物エタノール擦式製剤 手指
⑤主な副作用
発疹、瘙痒などの過敏症状があらわれることがあるのでこのような場合は使用を中止する。毒性は低く成人が少量を誤飲しても特に害はない。しかし、眼に入った場合、0.1%では刺激性を示したとの報告がある。

⑥その他の注意
・陰イオン界面活性剤(石けんや一部の合成洗剤など)により沈殿物を生じて殺菌力が低下するので両者を混合しない。
・金属器具を長時間浸漬する必要がある場合は腐食を防止するために亜硝酸ナトリウムを添加する。
・皮革製品の消毒に使用すると変質させることがあるので使用しない。
・繊維、布(綿ガーゼ、ウール、レーヨンなど)に吸着し、濃度が低下する。
・血液、体液などの有機物により殺菌力が低下する。
・粘膜、創傷部位に使用する場合は、滅菌済みのものを用いる。
・皮膚消毒に使用する綿球、ガーゼなどは滅菌して保存し、使用時に溶液に浸す。
・開封後は、微生物汚染に注意する。

(2)ベンゼトニウム塩化物1~8)

陽イオン界面活性剤(逆性石けん)であり、石けんとは逆の荷電を有している。特徴、抗微生物スペクトル、作用機序、主な副作用、その他の注意などはすべてベンザルコニウム塩化物と同様である。適用範囲は以下のとおりであり、ベンザルコニウム塩化物と同様であるが、腟洗浄、結膜嚢への適用濃度が特定されている。

①適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)

0.05~0.2%ベンゼトニウム塩化物液 手術室、病室、家具、器具、物品
0.1%ベンゼトニウム塩化物液 医療機器、手術部位の皮膚
0.05~0.1%ベンゼトニウム塩化物液 手指・皮膚、感染皮膚面は0.01%ベンゼトニウム塩化物水溶液
0.01~0.025%ベンゼトニウム塩化物液 手術部位の粘膜、粘膜の創傷部位、皮膚の創傷部位
0.025%ベンゼトニウム塩化物液 腟洗浄
0.02%ベンゼトニウム塩化物液 結膜嚢

2)クロルヘキシジン

(1)クロルヘキシジングルコン酸塩1、2、7、8、12~15)

①特徴
クロルヘキシジンをグルコン酸塩とすることによって水溶性としたビグアナイド系化合物である。皮膚に対する刺激が少なく、臭気がほとんどない生体消毒薬(antiseptics)であり、適用時に殺菌力を発揮するのみならず、皮膚に残留して持続的な抗菌作用を発揮する。したがって皮膚における持続効果が期待される場合、すなわち、手術時手洗い、手術部位の皮膚、創傷部位(創傷周辺皮膚)、血管内留置カテーテル挿入部位の皮膚などにおいて優れた特性を発揮する。日本では、結膜嚢以外の粘膜への適用は禁忌であり、また結膜嚢の洗浄後も滅菌水での洗浄が必要とされている。

金属製品、繊維製品に対する腐食性も少なく、非生体への適用も認められているが、器具、環境などにはあまり使用されない。

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌の一部、エンベロープを有するウイルスの一部に有効であるが、結核菌、多くのウイルス、芽胞には無効である。グラム陰性桿菌であるBurkholderia cepacia、セラチア、Chryseobacterium meningosepticumAchromobacter xylosoxidansなどが抵抗性を示す場合がある。

ブドウ球菌に対するクロルヘキシジンの抗菌作用に関しては諸説がある。速効的な殺菌力においてはあまり優れていないが、持続効果や静菌力においては優れていると理解することが妥当と思われる。したがって、黄色ブドウ球菌などに対する速効的な殺菌力が必要な場合には、なるべくスクラブ製剤やアルコール製剤など、物理的な除菌作用やアルコールの殺菌作用などを付加した製剤を用いることが望ましいと思われる。(詳細は<参考>ブドウ球菌に対するクロルヘキシジンの抗菌作用を参照)

③作用機序
100mg/L未満(0.01w/v%)で静菌的に、100~500mg/L(0.01~0.05w/v%)で殺菌的に作用する。
・静菌的な濃度(100mg/L未満)では、細菌表面のリン酸基部位に吸着し、細胞壁を透過し、細胞膜透過性を障害する。その後、カリウムイオンのような低分子成分の漏出を引き起こし、また、ATPaseのような膜結合酵素を阻害する。
・殺菌的な濃度(100~500mg/L)では、細胞内に急速に侵入し、ATPや核酸を凝固し沈殿を生成する。

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)

0.1~0.5%クロルヘキシジングルコン酸塩液 手指・皮膚、手術部位の皮膚、医療機器
0.05%クロルヘキシジングルコン酸塩液 皮膚の創傷部位、手術室・家具・器具・物品
0.05%以下のクロルヘキシジングルコン酸塩液 結膜嚢(界面活性剤配合製剤の場合は適用不可)
0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩液 外陰・外性器の皮膚(界面活性剤配合製剤の場合は適用不可)
4%クロルヘキシジングルコン酸塩スクラブ 手指
0.5%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール液 手術部位の皮膚、医療機器(金属、非金属)
1%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール液 手指・皮膚
0.2、0.5%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール擦式製剤 手指
1%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール擦式製剤 手指・皮膚
⑤主な副作用
皮膚に対する毒性、経口毒性は低いが、ショック、発疹・蕁麻疹等過敏症がみられることがあり、このような場合は直ちに使用を中止し適切な処置を行う。膀胱・腟・口腔などの粘膜や創傷部位に使用してショックが発現したとの報告が十数症例報告され、第24次薬効再評価(昭和60年7月30日公示:薬発第755号)において、結膜嚢以外の粘膜(膀胱・腟・口腔など)への適用や創傷、熱傷への適用の一部(広範囲、高濃度)が禁忌となった。これらのショックの例のほとんどは適正濃度を超えた0.2~1%での使用によるものであった。

なお、中枢神経、聴覚神経への適用は障害を引き起こすので禁忌である。高濃度(0.1%以上)のクロルヘキシジングルコン酸塩が眼に混入すると角膜障害を起こす。

⑥その他の注意
・天然繊維や有機物に吸着されやすく、殺菌力が低下する。
・水道水(特に硫酸イオンを含むもの)や生理食塩水で希釈すると沈殿を起こし、殺菌力が低下する。
・陰イオン界面活性剤(石けん)や次亜塩素酸ナトリウムと反応して着色沈殿し、また、塩素イオンと沈殿物を生じることがある。
・クロルヘキシジンによる着色の漂白には過炭酸ナトリウム等の酸素系漂白剤が適当である。 日光により着色するので遮光容器にて保存する。
・創傷部位、結膜嚢に使用する場合は、滅菌済みのものを使用する。
・微生物汚染を受けやすいので、開封後は汚染に注意して使用する。

<参考> ブドウ球菌に対するクロルヘキシジンの抗菌作用
◆殺菌作用
クロルヘキシジンは比較的長時間接触しなければ試験管内で黄色ブドウ球菌に対して有効性を示さない、または、黄色ブドウ球菌を死滅させないと解釈されるデータが存在する15、16)。クロルヘキシジンが黄色ブドウ球菌を試験管内で短時間に殺菌するとした報告の中には、不十分な中和操作などによる過大評価と思われるものもある17)。本テキストは、クロルヘキシジン水溶液が黄色ブドウ球菌を殺菌するためには比較的長い接触時間が必要な場合が多いと解釈する。

また、クロルヘキシジンの殺菌作用に対して、MRSAの感受性がMSSAの感受性よりも低かったとする報告もあるが18)、多くの報告では両者の間に感受性の差を認めていない19~21)。クロルヘキシジンの殺菌作用に対するMRSAの低感受性を報告する研究の多くは、抗菌薬耐性と消毒薬低感受性の関連を示すものではなく、上述のような黄色ブドウ球菌全般への速効性に関する過大評価を修正するものとして理解することが妥当と思われる。

◆静菌作用
クロルヘキシジンはMRSAを含む黄色ブドウ球菌、CNSなどのグラム陽性菌に対しごく低濃度で優れた静菌作用を発揮する13)。逆性石けんやクロルヘキシジンなど消毒薬のMIC(最小発育阻止濃度)を上昇させる遺伝子がプラスミドを介して黄色ブドウ球菌に散在するという報告もあるが22)、消毒薬の実用濃度よりも非常に低い濃度における感受性の変化であるため、これらの遺伝子が重要な臨床的意義を持つとは認められていない5)

IV-2-1)-(1) ブドウ球菌を参照】

3)両性界面活性剤

(1)アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩1、2、7、8、23)

①特徴
1分子中に陰イオンと陽イオンを含むため、陰イオンの洗浄作用と陽イオンの殺菌作用を備えている。逆性石けんと比較すると、殺菌作用の速効性は劣るが、幅広いpH領域で殺菌効果がある。低水準消毒薬に分類されるが、グラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌の一部に有効であるのみならず、高濃度(0.2~0.5%)で結核菌などの抗酸菌にも殺菌効果を示す。0.2~0.5%では結核菌に対し作用時間15分で発育阻止が認められたとの報告もある24)。このように比較的広い抗菌スペクトルを持ち、また臭いもほとんどないため、環境消毒などにおいて繁用されている。生体に対して低毒性であるが、脱脂作用があるのでもっぱら環境、物品、器具の消毒に用いられる。有機物の存在による効力低下の影響について、血清蛋白存在下ではベンザルコニウム塩化物やクロルヘキシジングルコン酸塩に比べて影響を受けにくいが、酵母存在下では比較的大きな影響を受けることが報告されている16、21)

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、真菌の一部、エンベロープを有するウイルスの一部に有効であるが、多くのウイルス、芽胞には無効である。グラム陰性桿菌であるセラチア、Achromobacter xylosoxidansなどが抵抗性を示す場合がある。

③作用機序
両性界面活性剤中の陽イオンが殺菌作用を示し、その作用は逆性石けんと同様と思われる。

V-1-1) 第四級アンモニウム塩を参照】

④適応範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)

0.2~0.5%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液 手術室、病室、家具、器具、物品、医療機器について結核領域における使用
0.05~0.2%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液 手術室・病室・家具・器具・物品(0.2%)、医療機器(0.1%30分間浸漬)、手指、皮膚
0.1%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液 手術部位(手術野)の皮膚(0.1%溶液で約5分洗浄後0.2%溶液を塗布)
0.01~0.05%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液 手術部位(手術野)の粘膜、皮膚・粘膜の創傷部位
⑤主な副作用
発疹、そう痒などの過敏症状があらわれることがあるのでこのような場合には使用を中止する。

⑥その他の注意
・石けん類は本剤の殺菌作用を弱めるので、石けん分を洗い落としてから使用する。
・次の医薬品等が混入すると沈殿を生じるので注意する。 ヨードチンキ、マーキュロクロム、硝酸銀、プロテイン銀、フェノール、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、タンニン酸、スルホサリチル酸、スルホサリチル酸ナトリウム、重クロム酸カリウム。
・金属器具を長時間浸漬する必要がある場合は、腐食を防止するため0.1~0.5%の割合で亜硝酸ナトリウムを溶解する。
 

2 中水準消毒薬

1)アルコール系

(1)エタノール1~5、7、8、12~14、25)

①特徴
生体および非生体のいずれにも繁用される中水準消毒薬である。抗微生物スペクトルが広く、芽胞を除くほとんどすべての微生物に有効で、作用はおおむね速効的である。

生体消毒薬としては、ガーゼや脱脂綿に含ませ、注射部位の皮膚、手指などに塗布して適用する。非生体消毒薬としては、注射剤のアンプル、バイアルや輸液ルートの接合部など、また、聴診器、X線装置、外部モニター、床頭台、オーバーテーブルなど滑らかで固い表面のノンクリティカル器具や環境に清拭法で使用する。

使用濃度としては60~90w/w%が適当であるが、70w/w%(消毒用エタノールの濃度である76.9~81.4vol%にほぼ等しい)において一般細菌に対して最も効果が高い。ただし結核菌を含む細菌とエンベロープを有するウイルスに対して50vol%程度でも効果がある25~27)。揮発性が高いため、乾きが早く使用しやすい。
また、他のアルコール系消毒薬に比べて毒性が低い。ただし、価格に酒税相当の原価が上乗せされており、あまり経済的でない。酒税相当額が課されないよう消毒用エタノールに医薬品用香料を微量加え、経済性を改善した製品も市販されており、その効力と用法は消毒用エタノールと同様である28)
古くから用いられている消毒薬であるが、総合的にみて最も有用性の高い消毒薬のひとつである。消毒用エタノールにベンザルコニウム塩化物、クロルヘキシジンなどを添加した速乾性手指消毒薬も繁用されている。

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、真菌、ウイルスに有効であるが、芽胞には無効である。一部の糸状菌を殺滅するには長時間の接触が必要である。エンベロープを有するウイルスを比較的短時間で不活性化するが、イソプロパノールよりも長い接触時間が必要な場合がある。HBVについては、80vol%エタノールが、11℃、2分間の接触でチンパンジーへの感染性を不活性化したという報告がある29)。HIVに対する有効性も確認されている。エンベロープのないウイルスを不活性化するには長時間の接触が必要である。

③作用機序
蛋白の変性、代謝障害、溶菌作用によるものである。

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)

76.9~81.4vol%エタノール(消毒用エタノール) 手指・皮膚、手術部位(手術野)の皮膚、医療機器(金属、非金属)
香料添加76.9~81.4vol%エタノール(消毒用エタノール、ユーカリ油添加) 同上
⑤主な副作用
・発疹等の過敏症状、皮膚への刺激症状があらわれることがあるので、このような場合は使用を中止する。
・粘膜や創傷部位へ使用すると刺激を生じるので、これらの部位には使用しない。

⑥その他の注意
・引火性があるので注意する。したがって、手術野の消毒後電気メスを用いる場合は、アルコール分が揮発していることを確認後に行う。また、室内、白衣など広範囲に散布しない。
・合成ゴム製品、合成樹脂製品、光学器具、鏡器具、塗装カテーテルなどにはエタノールで変質するものがある。
・血清、膿汁等の蛋白質を凝固させ、内部まで浸透しないことがあるので、これらを十分洗い落としてから使用する。

(2)イソプロパノール1~5、7、8、12~14、25)

①特徴
生体および非生体のいずれにも繁用される中水準消毒薬である。抗微生物スペクトルが広く、芽胞を除くほとんどすべての微生物に有効で、作用はおおむね速効的である。

生体消毒薬としては、ガーゼや脱脂綿に含ませ、注射部位の皮膚、手指などに塗布して適用する。非生体消毒薬としては、注射剤のアンプル、バイアルや輸液ルートの接合部など、また、聴診器、X線装置、外部モニター、床頭台、オーバーテーブルなど滑らかで固い表面のノンクリティカル器具や環境に清拭法で使用する。

50~70vol%が一般的な濃度であるが、50vol%よりも70vol%のほうが効力は強い。低濃度においては同濃度のエタノールよりも効力が強い25~27)。揮発性が高いため、乾きが早く使用しやすい。
なお、手術部位の皮膚は適用範囲に含まれない。エタノールよりも脱脂作用が強く、また特異な臭気があるが、酒税相当額の課された消毒用エタノールより経済的である。

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、真菌、ウイルスに有効であるが、芽胞には無効である。一部の糸状菌を殺滅するには長時間の接触が必要である。エンベロープを有するウイルスを比較的短時間で不活性化し、かつこれらに対しては消毒用エタノールよりも短い接触時間で有効な場合が多い。HBVについ ては、70vol%イソプロパノールが、20℃10分間の接触でチンパンジーへの感染性を不活化したという報告がある30)。HIVに対する有効性も確認されている。エンベロープのないウイルスを不活性化するには長時間の接触が必要であり、消毒用エタノールよりも長時間を要する場合がある。

③作用機序
蛋白の変性、代謝障害、溶菌作用によるものである。

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)

50~70vol%イソプロパノール 手指・皮膚、医療機器(金属、非金属)
⑤主な副作用
発疹等の過敏症状、皮膚への刺激症状があらわれることがあるので、このような場合は使用を中止する。 粘膜や創傷部位へ使用すると刺激を生じるので、これらの部位には使用しない。

⑥その他の注意
引火性があるので注意する。また、室内、白衣など広範囲に散布しない。 合成ゴム製品、合成樹脂製品、光学器具、鏡器具、塗装カテーテルなどにはイソプロパノールで変質するものがある。 血清、膿汁等の蛋白質を凝固させ、内部まで浸透しないことがあるので、これらを十分洗い落としてから使用する。

(3)イソプロパノール添加エタノール液7、8、26、28、31、32)

①特徴
エタノールとイソプロパノールの配合剤であり、生体および非生体のいずれにも繁用される中水準消毒薬である。抗微生物スペクトルが広く、芽胞を除くほとんどすべての微生物に有効で、作用はおおむね速効的である。市販品によりイソプロパノールとエタノールの配合比、メタノール添加の有無、アルコール総濃度が異なるが、本テキストでは20vol%イソプロパノール添加60vol%エタノール液について述べる。

生体消毒薬としては、ガーゼや脱脂綿に含ませ、注射部位の皮膚、手指などに塗布して適用する。非生体消毒薬としては、注射剤のアンプル、バイアルや輸液ルートの接合部など、また、聴診器、X線装置、外部モニター、床頭台、オーバーテーブルなど滑らかで固い表面のノンクリティカル器具や環境に清拭法で使用する。

従来はメタノール変性エタノールを原料としていたが、現在はイソプロパノールを添加することだけで酒税相当額の免除を受けることができるため、メタノールを含まない上記製剤が市販されている。誤飲を防止するための行政通知に基づき、従来より青色色素が添加されている。
なお、手術部位の皮膚は適用範囲に含まれない。エタノールよりも脱脂作用が強く、またイソプロパノールの特異な臭気があるが、酒税相当額の課された消毒用エタノールより経済的である。

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、真菌、ウイルスに有効であるが、芽胞には無効である。一部の糸状菌を殺滅するには長時間の接触が必要である。エンベロープを有するウイルスを比較的短時間で不活性化し、70vol%イソプロパノールとほぼ同等の効力を持つ。HBVについて、チンパンジー感染実験によるデータはないがHIVに対する有効性は確認されている33)。エンベロープのないウイルスを不活性化するには長時間の接触が必要であるが、消毒用エタノールとほぼ同等の効力を持つ。このように、消毒用エタノール、70vol%イソプロパノールの両者と比較して、遜色のない殺菌力を持つ26、28、31、32)

③作用機序
蛋白の変性、代謝障害、溶菌作用によるものである。

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)

原液(局方エタノール60w/w%+局方イソプロパノール18w/w%、
つまり20vol%イソプロパノール添加60vol%エタノール液)
手指・皮膚、医療機器(金属、非金属)

*局方エタノールは約95vol%エタノールである。
⑤主な副作用
・発疹などの過敏症状、皮膚への刺激症状があらわれることがあるので、このような場合は使用を中止する。
・粘膜や創傷部位へ使用すると刺激を生じるので、これらの部位には使用しない。

⑥その他の注意
・引火性があるので注意する。また、室内、白衣など広範囲に散布しない。
・合成ゴム製品、合成樹脂製品、光学器具、鏡器具、塗装カテーテルなどには本剤で変色するものがある。
・血清、膿汁などの蛋白質を凝固させ、内部まで浸透しないことがあるので、これらを十分洗い落としてから使用する。

(4)アルコールを基剤とする消毒薬2、7、8、25)

消毒薬を水溶液ではなくエタノール液とすることで、消毒薬に速乾性を持たせた製剤が市販されている。このようなアルコールを基剤とする消毒薬としては以下のようなものがある。

0.5%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール液(手術部位の皮膚、医療器具)
1%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール液(手指・皮膚)
0.2%、0.5%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール擦式製剤(手指)
1%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール擦式製剤(手指・皮膚)
0.2%ベンザルコニウム塩化物エタノール擦式製剤(手指)
10%ポビドンヨードエタノール液(手術部位の皮膚)
0.5%ポビドンヨードエタノール擦式製剤(手指)

これらの消毒薬には、50~83vol%のエタノールが含まれており、したがって有効成分として配合されている殺菌成分の殺菌作用のみならず、エタノールによる殺菌作用も期待することができる25~27)。エタノールは速効的に作用し抗微生物スペクトルも広いので、その作用だけでも十分な効力が得られる場合が多いと思われ、配合されている殺菌成分は速効的な殺菌力の強化というよりもむしろ持続効果などの効果を目的として配合されていると考えられる。

これらのアルコールを基剤とする消毒薬は、発疹等の過敏症状、皮膚への刺激症状、引火性、消毒対象物の変色などに留意して用いる。また、粘膜や創傷部位へ使用すると刺激を生じるので、これらの部位には使用しない。

2)ヨードホール・ヨード系

(1)ポビドンヨード1、2、7、8、12~14、34)

①特徴
広い抗微生物スペクトルを持ち、生体への刺激性が低く、比較的副作用も少ない優れた生体消毒薬である。手術部位の皮膚や皮膚の創傷部位をはじめ、口腔、腟などの粘膜にも適用が可能で、HIVやHBVにも有効である。皮膚に適用し被膜を形成させた場合、持続的な殺菌効果を発揮するが、比較的短時間のうちに揮発し失活するため、持続効果においてはクロルヘキシジンよりも劣る。この被膜は褐色であり、さまざまな理由によりハイポアルコールを用いて脱色する場合があるが、脱色は化学的な不活性化であるので、この場合には持続効果を期待できない。

試験管内においてはむしろ低濃度(0.1%付近)において速効的な殺菌力を発揮するが、有機物によって大きく不活性化されるため、臨床においては7.5~10%の製剤が繁用されている。繁用されている10%水溶液製剤はあまり速効的ではなく、黄色ブドウ球菌や腸球菌を殺滅するには数分を要するため35)、塗布後乾燥まで十分に時間を取る必要がある。ポビドンヨードの速効性を示した報告の多くは低濃度における実験であるため、その解釈は慎重に行う必要がある。米国においては低濃度のポビドンヨードを非生体に用いることが認可されているが、高濃度のポビドンヨードを非生体に用いることは適切でないとされている5、36)

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、真菌、ウイルス、クロストリジウム属など一部の芽胞に有効であるが、バチルス属などの芽胞には無効である。HBVについては低濃度における10分間20℃の接触でチンパンジーへの感染性を不活性化したという報告がある30)。市販ポビドンヨード液中で、製造設備から混入したBurkholderia cepaciaの菌塊が生存し続けたという報告もある37)

③作用機序
ポビドンヨードはヨウ素をキャリアであるポリビニルピロリドン(PVP)に結合させた水溶性の複合体である。ポビドンヨード1g中に含まれる有効ヨウ素は100mgであるので、例えば10%ポビドンヨード液は有効ヨウ素1%(10,000ppm:チオ硫酸ナトリウム定量)の液である。ポビドンヨードは水溶液中で平衡状態を保ち、水中の遊離ヨウ素濃度が減少するにつれて、徐々に遊離ヨウ素を放出する。この遊離ヨウ素が殺菌作用を発揮するため、殺菌力は遊離ヨウ素濃度が高いほど強くなる。10%ポビドンヨード液中での遊離ヨウ素濃度は約1ppmであるが、0.1%付近の液では、キャリアの保持力が最も弱くなり、遊離ヨウ素濃度が最大(約25ppm)となる。さらに希釈すると、遊離ヨウ素濃度は低下し、0.001%の水溶液では約1ppmとなる(表Ⅴ-1、図Ⅴ-1)。

表V-1 有効ヨウ素1%のポビドンヨード2)(10%ポビドンヨード液)
希釈 有効ヨウ素
(チオ硫酸ナトリウムで定量)
遊離ヨウ素
原液 10,000ppm 1ppm
1/10 1,000ppm 10ppm
1/100 100ppm 25ppm
1/1,000 10ppm 8~9ppm
1/10,000 1ppm 1ppm

図Ⅴ-1 ヨードホールの遊離ヨウ素濃度(文献2より改変)
図Ⅴ-1 ヨードホールの遊離ヨウ素濃度(文献2より改変)

ヨウ素の作用機序に関する仮説は以下のとおりである2)

1. アミノ酸、ヌクレオチドのN-H結合に作用してN-I誘導体を作り、重要な水素結合を阻害することにより蛋白構造を障害する。
2. アミノ酸のS-H群を酸化して、蛋白合成の重要な要素である2硫化(S-S)結合による架橋を阻害する。
3. アミノ酸のフェノール群に対し、1または2個のヨウ素誘導体を作り、そのオルト位置に結合したヨウ素により、フェノールの-OH基による結合を阻害する。
4. 不飽和脂肪酸のC=C結合に作用して、脂質を変成させる。

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)

10%ポビドンヨード液 手術部位の皮膚、手術部位の粘膜、皮膚・粘膜の創傷部位、熱傷皮膚面、感染皮膚面
7.5%ポビドンヨードスクラブ 手指・皮膚、手術部位の皮膚
10%ポビドンヨードエタノール液 手術部位の皮膚
0.5%ポビドンヨードエタノール擦式製剤 手指
10%ポビドンヨードゲル 皮膚・粘膜の創傷部位、熱傷皮膚面
5%ポビドンヨードクリーム 外陰、外陰周辺、腟
7%ポビドンヨードガーグル 口腔創傷、口腔内
⑤主な副作用
熱傷部位、腟、口腔粘膜などでは吸収されやすいために、長期間または広範囲に使用すると、血中ヨウ素濃度が上昇し、甲状腺代謝異常などの副作用が現れることがある。したがって、重症の熱傷患者、甲状腺機能に異常のある患者などには慎重に使用する。胎児や乳汁への移行も報告されているため、妊婦や授乳中の婦人に長期にわたり広範囲に使用することは避ける。また、新生児では皮膚からもよく吸収されるので、長期間または広範囲に使用することは望ましくない。腹腔、胸腔など体腔には使用しない。

大量かつ長時間の接触で皮膚変色、接触皮膚炎があらわれることがある。また、過敏症(発疹)があらわれた場合には使用を中止する。

ショック、アナフィラキシー様症状(呼吸困難、潮紅、蕁麻しん等)があらわれることがあるので、観察を十分に行い異常が認められた場合には直ちに使用を中止し、適切な処置を行う。

⑥その他の注意
・石けん類によって殺菌作用が弱まる。
・電気的な絶縁性を持っているので、電気メスを使用する場合には、本剤が対極板と皮膚の間に入らないように注意する。
・眼に入らないようにする。

(2)ヨードチンキ2、7、8、12~14、34)

①特徴
ヨードチンキはヨウ素(I)にヨウ化カリウム(KI)を加えて可溶化しエタノール液とした製剤で、5~10倍希釈して使用する(希ヨードチンキは原液または2~5倍希釈で使用する)。ヨードチンキは速効的な殺菌力と広い抗微生物スペクトルを持ち、さらに適用後皮膚にヨウ素の被膜を形成して持続効果をもたらす。採血時の皮膚消毒において2%ヨードチンキ使用群は10%ポビドンヨード液使用群よりも菌偽陽性率が低い(2.4% vs 3.8%、p=0.01)、つまり皮膚表面細菌による血液検体のコンタミネーションが少ないとの報告があり38)、また、経静脈栄養カテーテルの挿入部位やルート接合部の消毒においても0.5~2%ヨードチンキ使用時は10%ポビドンヨード液使用時と比較して敗血症発生率が低かった(0.25~0.28 vs 0.58/catheter year)と報告されている39)。ヨードチンキは健常皮膚のほか創傷、潰瘍、口腔粘膜などにも使用されるが、刺激性があり皮膚炎の原因ともなる。口腔内専用のヨウ素製剤として複方ヨード・グリセリン(ルゴール液)がある。

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、真菌、一部の芽胞に有効であるが、一部の芽胞には無効である。HBVについてチンパンジー感染実験によるデータはない。

③作用機序
ヨードチンキ(および希ヨードチンキ)においては、もっぱらポビドンヨードと同様に遊離ヨウ素が殺菌作用を発揮し、また希釈濃度によりエタノール成分も多少の殺菌作用を追加していると思われる。

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)

⑤主な副作用
ヨード過敏症の患者には使用しない。過敏症(ヨード疹)、皮膚に刺激症状を起こすことがある。このような症状があらわれた場合には使用を中止する。また、同一部位に反復使用した場合には、表皮の剥離を伴う急性の皮膚炎を起こすことがある。

⑥その他の注意
・眼に入らないように注意する。入った場合には水でよく洗い流すこと。
・刺激性があるので粘膜、創傷面または炎症部位に長期または広範囲に使用しない。
・深い創傷に使用する場合の希釈液としては注射用水か滅菌精製水を用いる。
・口腔内に使用するときには患部を乾燥させて塗布する。
・エタノールを含有するので火気に注意する。

3)次亜塩素酸系

(1)次亜塩素酸ナトリウム1~5、7、8、40〜42)

①特徴
ごく低濃度においても細菌に対して速効的な殺菌力を発揮し、またHIV、HBVなどウイルスに対する効力の面でも最も信頼のおける消毒薬である。1,000 ppm(0.1%)以上の高濃度であれば結核菌を殺菌することもできる。ただし有機物による不活性化がきわめて大きいため、血液などを消毒する場合には5,000~10,000ppm(0.5~1%)の濃度で使用することが必要である。

比較的短時間で成分が揮発し残留性がほとんどないという点で安全であるので、食品衛生や哺乳びんの消毒などに低濃度で繁用されているが、金属に対する腐食性が高いため医療器具への適用はプラスチック製品などに限られる。漂白作用があるためタオルなどリネンの消毒にも適しているが、色物のリネンを脱色する。物品、環境への使用も可能で、非生体消毒薬として最も有用な消毒薬のひとつであるが、腐食性や塩素ガス発生の危険性などを考慮すると高濃度溶液を広範囲に使用することは避けるべきである。手指、皮膚などへの適用も認められているが、手荒れを招く場合が多く、持続効果も期待できないので生体適用が適切な場合はほとんどない。酸との混合により多量の塩素ガスが発生するため、この点で取り扱い上の安全性に留意が必要である。また原液の濃度において安定性が悪く、冷所保存をしなければ比較的短期間に表示量以下の濃度に低下してしまう。

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌、ウイルス、芽胞に有効であるが、大量の芽胞を殺滅することはできない。結核菌には1,000ppm(0.1%)以上の濃度で有効である。HBV、HIVに対する有効性も確認されている。有機物が存在しない条件下では、マイコプラズマに25ppm(0.0025%)で、栄養型細菌には1ppm(0.0001%)以下で殺菌効果があることが報告されている5)

③作用機序
次亜塩素酸(HClO)が主な有効成分である。水溶液中の次亜塩素酸はpH5~6付近で濃度が最も高く、これよりpHが高くなると次亜塩素酸イオン(OCl)が増加し、またこれよりpHが低くなると塩素(Cl2)が増加する。したがって殺菌効果はpH依存性があり、あまりpHが高ければ殺菌効果が減弱するが、酸性側では塩素ガスが発生しやすいため、アルカリ側に調製された次亜塩素酸製剤が市販されている。

遊離塩素類の細胞質の破壊のメカニズムは明確にはわからないが、細胞内の酵素反応の阻害、細胞内蛋白質の変性、核酸の不活性化が作用機序として考えられている。

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)

有効塩素濃度100~500ppm(0.01~0.05%)次亜塩素酸ナトリウム液 手指、皮膚(ごく限られた場合のみ使用)
有効塩素濃度50~100ppm(0.005~0.01%)次亜塩素酸ナトリウム液 手術部位(手術野)の皮膚、手術部位(手術野)の粘膜(ごく限られた場合のみ使用)
有効塩素濃度200~500ppm(0.02~0.05%)次亜塩素酸ナトリウム液 医療機器(非金属)〔金属についてはごく限られた場合のみ使用〕、手術室、病室、家具、器具、物品
有効塩素濃度1,000~10,000ppm(0.1~1%)次亜塩素酸ナトリウム液 排泄物
有効塩素濃度10,000ppm(1%)次亜塩素酸ナトリウム液 B型肝炎ウイルスの消毒〔血液その他の検体物質に汚染された器具(B型肝炎ウイルス対象)〕
有効塩素濃度1,000~5,000ppm(0.1~0.5%)次亜塩素酸ナトリウム液 B型肝炎ウイルスの消毒〔汚染がはっきりしないものの場合(B型肝炎ウイルス対象)〕
有効塩素濃度500~1,000pm(0.05~0.1%)次亜塩素酸ナトリウム液30分間浸漬 B型肝炎ウイルス、エイズウイルスに汚染されたリネン(承認されていないが推奨)
残留塩素量が1ppmになるように用いる 患者用プール水の消毒


・有効塩素とは残留塩素のこと。残留塩素には遊離有効塩素と結合有効塩素がある。
⑤主な副作用
10,000ppm(1%)以上の高濃度液付着で化学損傷が生じる。

⑥その他の注意
・血清、膿汁等の有機物は殺菌作用を減弱させるので、これらが付着している医療器具等に用いる場合は、十分に洗い落としてから使用する。
・金属器具、繊維製品、革製品、光学機器、鏡器具、塗装カテーテル等は、変質するものがあるので長時間浸漬しない。
・木製の被消毒物、パルプを含むワイプ類では、不活性化が起こる。
・患者用プール水の消毒に使用する場合には残留塩素が1ppm以上にならないように注意する。
・原液または濃厚液が眼に入った場合は水でよく洗い流す。
・原液または濃厚液が皮膚に付着した場合は刺激症状を起こすことがあるので、直ちに拭き取り石けん水と水でよく洗い流す。
・酸性物質が混入すると塩素ガスが発生するので混入させない。
・冷所保存する(原液濃度の場合)。

(2)その他の次亜塩素酸系消毒薬

①ジクロルイソシアヌール酸ナトリウム40、43)
ジクロルイソシアヌール酸ナトリウムは次亜塩素酸ナトリウムとほぼ同等の殺菌作用、抗微生物スペクトルを持つ次亜塩素酸系消毒薬である。固形の製剤(粉、顆粒、または錠剤)であり、通常の室内で保存できる。有機物により容易に不活性化されるが、次亜塩素酸ナトリウムと比較すると有機物の存在下においても不活性化されにくいことが報告されている44~46)。これはジクロルイソシアヌール酸ナトリウムが水溶液中で全有効塩素量の50%しか遊離せず、遊離有効塩素を消費すると結合有効塩素を放出し平衡を保つためといわれている47)。欧米では医療機関においても食器、リネン、環境などの消毒に使用されているが、日本では一般用医薬品としてのみ承認されており、プール水の消毒、プールの足腰洗水槽用水の消毒に承認されているものと、哺乳びん・乳首の消毒に承認されているものがある。顆粒製剤を血液や体液で汚染された床に直接散布する場合があるが、これはもっぱら血液や体液を包み込んで凝固し汚染の拡散を防ぐという効果を期待するものであり、このような使用法においては殺菌力が失活しやすいことに留意が必要である48)

②強酸性電解水49~52)
薄い食塩水、あるいは水道水を電気分解して得られる水を電解水といい、電解水のうち陽極側から得られる水を電解酸性水という。電解酸性水のうちpH2.3~2.7のものを強酸性電解水、pH5~6のものを弱酸性電解水というが、ここでは主に強酸性電解水について述べる。0.1%以下のNaCl水溶液を、隔膜を介して電気分解し生成する強酸性電解水(pH2.3~2.7)は、酸化還元電位が1.1~1.15V、有効塩素濃度が7~50ppmであるが、これらの値は製造機器、生成条件によって変動する。生成の原理は(1)~(4)の式のとおりであり、陽極では塩素ガス、次亜塩素酸、水素イオンが生じる。またヒドロキシラジカル、過酸化水素もわずかに生じるといわれている。

電解酸性水の作用機序についてさまざまな検討がなされたが、もっぱら次亜塩素酸が有効成分であることが判明している。強酸性電解水の有効塩素濃度は7~50ppmと低く、0.1%の有機物の存在で不活化され、経時的に濃度が低下するなど安定性に乏しい。したがって洗浄を主な目的として生成直後のものを流しながら使用することが望ましい。また、電解水生成時に発生する塩素ガスの毒性や金属腐食性にも留意が必要である。厚生労働省により医療機器として認可された電解酸性水製造機器の適用は、流水式による2分間の手指の洗浄消毒と内視鏡洗浄消毒のみである。

③ぺルオキソ一硫酸水素カリウム配合剤
ペルオキソ一硫酸水素カリウム配合剤は近年国内に導入された改良型塩素系の環境除菌・洗浄剤であり、塩素臭や金属腐食性が少ないのが特徴である。本剤は水に溶解後、主成分のペルオキソ一硫酸水素カリウムによって、配合成分の一つである塩化ナトリウムが酸化され、次亜塩素酸が生成される53)。米国の環境保護庁(Environmental Protection Agency;EPA)では消毒薬に抵抗性の強いノロウイルスをはじめ、MRSAやVRE、HBV・HCVなどにも適用可能な製剤として複数のリストに登録されている54)。一方国内においては、薬事上の承認を受けていない雑品として市販されている。

4)フェノール系

(1)クレゾール1~5、7、8、55)

①特徴
クレゾールはタールから得られるo、m、p-クレゾールの混合物からなるフェノール系の消毒薬である。水に溶けにくいため石けん液に可溶化し、クレゾール石ケン液として用いる。結核菌に有効であるため中水準消毒薬に分類されるが、同じ中水準消毒薬であるフェノールより低毒性でかつ低濃度で微生物を殺 滅することができるため広く公衆衛生において使用されてきた。一般細菌を対象とする病院環境消毒薬として逆性石けんなどと比較した場合、有機物による不活性化が少ないという長所があるが、特異な臭気があること、高濃度液の付着により化学熱傷を生じることなどの短所があるため、近年、病院環境消毒にはクレゾール石ケン液よりも逆性石けんや両性界面活性剤などの消毒薬が選択されるようになった。人体適用も認められているが、生体消毒薬としてクレゾールを選択することが適切な場合はほとんどない。水質汚濁防止法、下水道法によりフェノール類として5ppmの排水規制が定められている。以上のことから病院では、もっぱら排泄物の消毒や特に結核菌の消毒が必要な場合の環境消毒などに限定して用いるのが適切である。

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、真菌、一部のウイルスに有効であるが、一部のウイルスと芽胞には無効である。糸状菌に対しては長時間の接触が必要な場合がある。エンベロープのないウイルスであるコクサッキーB4型、エコーウイルス11型、ポリオウイルス1型などには無効である56)

③作用機序
フェノール類は、高濃度において細胞の原形質に毒性を示す。つまり、浸透して細胞壁を破壊し、細胞質内の蛋白を沈殿させる。また、低濃度において酵素活性の不活性化、酵素の漏出を起こし作用する。

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)
クレゾール石ケン液(クレゾールを50vol%含有)を、クレゾールとして下記の濃度に希釈して使用。

1.5%クレゾール石ケン液(約30倍希釈) 排泄物
0.5~1%クレゾール石ケン液(50~100倍希釈) 手指・皮膚、手術部位の皮膚、医療機器、手術室・病室・家具・器具・物品
0.1%クレゾール石ケン液(500倍希釈) 腟洗浄
⑤副作用
紅斑などの過敏症状があらわれることがあるので、このような場合には使用を中止する。新生児室の消毒にクレゾール類似化合物であるフェノールを使用したところ、新生児に高ビリルビン血症が生じたという報告があるため、新生児室への使用は避ける。また、損傷皮膚などから吸収されやすいため、損傷皮膚に使用してはならない。なお、高濃度のクレゾールが付着すると化学熱傷を 生じるので取り扱い時には手袋、保護メガネを着用することが望ましい。

⑥その他の注意
・眼に入らないように注意する。入った場合には水でよく洗い流す。
・原液が付着した場合は直ちに拭き取り石けん水と水でよく洗い流す。
・希釈する水にアルカリ土類金属塩、重金属塩、第二鉄塩、酸類が存在する場合変化することがある。
・クレゾール石ケン液を常水で希釈すると次第に混濁して沈殿することがあるが、このような場合には上澄み液を使用する。

(2)フェノール1~5、7、8、55)

①特徴
1865年Listerが初めて無菌的手術を成功させたときに使用した消毒薬であり、石炭酸ともいう。欧米では数多くのフェノール誘導体が病院で消毒薬として使用されているが、日本ではフェノールそのものとクレゾールのみが使用されて いる。フェノールは結核菌に有効であるため中水準消毒薬に分類されるが、同じ中水準消毒薬であるクレゾールのほうが低毒性でかつ低濃度で微生物を殺滅することができるため、あまり繁用されていない。一般細菌を対象とする病院環境消毒薬として逆性石けんなどと比較した場合、有機物による不活性化が少ないという長所があるが、特異な臭気があること、高濃度液の付着により化学熱傷を生じることなどの短所がある。人体適用も認められているが、麻しんの鎮痒など皮膚科的な適用以外には、生体消毒薬としてフェノールを選択することが適切な場合はほとんどない。水質汚濁防止法、下水道法によりフェノール類として5ppmの排水規制が定められている。以上のことから病院での使用が適切なのは排泄物の消毒などの場合に限定されるが、古くから効力の確認されている消毒薬であるため消毒薬評価上の指標として重要な意味を持つ。

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、真菌、一部のウイルスに有効であるが、一部のウイルスと芽胞には無効である。糸状菌に対しては長時間の接触が必要な場合がある。5%フェノール液はエンベロープのないウイルスであるコクサッキーB1型、エコーウイルス6型、ポリオウイルス1型、アデノウイルス2型を、1~2%フェノール液はエンベロープのある単純ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、インフルエンザウイルスを、10分間で殺滅するとの報告がある57)

③作用機序
フェノール類は、高濃度において細胞の原形質に毒性を示す。つまり、浸透して細胞壁を破壊し、細胞質内の蛋白を沈殿させる。また、低濃度において酵素活性の不活性化、酵素の漏出を起こし作用する。

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)
製剤としてフェノール(98%以上)、消毒用フェノール(95%以上)、液状フェノール(88%以上)、フェノール水(1.8~2.3w/v%)、消毒用フェノール水(2.8~3.3w/v%)がある。フェノール、液状フェノールは以下のように希釈して使用。

3~5%フェノール液 排泄物
2~5%フェノール液 手術室・病室・家具・器具・物品
1.5~2%フェノール液 手指・皮膚
消毒用フェノール水(2.8~3.3w/v%) 医療機器、手術室・病室・家具・器具・物品、排泄物
フェノール水(1.8~2.3w/v%) 手指・皮膚、医療機器、手術室・病室・家具・器具・物品
⑤主な副作用
発疹などの過敏症状があらわれることがあるので、このような場合には使用を中止する。新生児室の消毒にフェノールを使用したところ、新生児に高ビリルビン血症が生じたという報告があるため、新生児室への使用は避ける。また、損傷皮膚から吸収されやすいため、損傷皮膚に使用してはならない。なお、高濃度のフェノールが付着すると化学熱傷を生じるので取り扱い時には手袋、保護メガネを着用することが望ましい。

⑥その他の注意
・眼に入らないように注意する。入った場合には水でよく洗い流す。
・高濃度のフェノールが付着した場合は直ちに拭き取りエタノールまたは多量の水でよく洗い流す。
・刺激が強いので、粘膜には使用しない。
・金属器具を長時間浸漬する必要がある場合には、腐食を防止するために0.5~1.0%の亜硝酸ナトリウムを添加する。
・合成ゴム製品、合成樹脂製品、光学器具、鏡器具、塗装カテーテルなどは変質するものがあるので、このような器具は長時間浸漬しない。

 

3 高水準消毒薬

1)アルデヒド系

(1)グルタラール1~5、7、8、58)

①特徴
医療器具専用の高水準消毒薬であり、セミクリティカル器具、特に軟性内視鏡の消毒に使用される。また、歯科領域では、印象材の消毒に使用されている。グルタラールは、そのままでは酸性であり、芽胞に対する殺滅力が劣るため、通常緩衝化剤を入れてアルカリ性にし活性化してから使用する。アルカリ性グルタラールは芽胞を含むすべての微生物に有効で化学的滅菌剤と呼ばれることもあるが、大量の芽胞を殺滅するには10時間の接触が必要なため59)、滅菌に用いることは実際的でない。金属、ゴム、プラスチックに対して腐食性がなく有機物による効力低下が小さいため、さまざまな用途において有用と思われるが、取り扱い者の薬液接触あるいは蒸気吸入による毒性の問題があり、使用時には注意が必要である。手術室など環境への適用については、毒性の問題があることから2003年7月に適用が削除された。

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌、結核菌、芽胞、ウイルスに有効である。HBV、HIVに対する有効性も確認されている。非定型抗酸菌の一部(Mycobacterium aviumMycobacterium intracellulareMycobacterium gordonaeMycobacterium chelonaeなど)には抵抗性を示す株があり60、61)、長い接触時間が必要である。

③作用機序
微生物中のSH基、OH基、COOH基、NH基をアルキル化し、DNA、RNA、蛋白質合成に影響を与える。

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)
 
0.5w/v%グルタラール 麻酔装置類、人工透析装置類
2w/v%、3.5%グルタラール 医療器具
3w/v%グルタラール 内視鏡
⑤主な副作用
グルタラール蒸気は眼、咽頭、鼻を刺激する。また、グルタラールの付着は皮膚炎を起こす。グルタラール取り扱い者では、蒸気吸入による結膜炎、鼻炎、喘息、付着による皮膚炎の副作用が報告されている。したがって、使用時は、蒸気がなるべく拡散しないような容器を用い、換気を十分に行い、ゴム手袋、マスク、ゴーグル、防水エプロンを着用する。厚生労働省は2005年、医療機関における消毒現場の空気中グルタラール濃度を0.05ppm以下とするよう努力規定を設けた62)

医療器具をグルタラールに浸漬後、十分に洗い流さなかったため患者に被害をもたらしたケースも報告されている。気管内挿管チューブのグルタラール残留により偽膜性咽頭気管炎が、結腸ファイバースコープのグルタラール残留により血便や腹痛が生じたケースがある。したがって、浸漬後は十分にすすぐことが重要である。

⑥その他の注意
・人体に使用しないこと。
・誤飲を避ける。
・誤って接触した場合には直ちに水で洗い流す。
・グルタラール実用液は、使用しているうちに濃度低下が起きるので気をつけて使用すること。(通常、1%が高水準消毒をするための最小有効濃度の目安とされているが、非定型抗酸菌には1.5%が必要とする報告もある。)
・蛋白質を凝固するので、バイオフィルムや血液、体液などが付着していると薬液がその中に浸透せず、十分な殺菌効果を発揮しない場合がある。したがって十分な予備洗浄を行ってから、グルタラールに浸漬することが必要である。
・炭素鋼製器具は24時間以上浸漬しない。

(2)フタラール63、64)

①特徴
医療器具専用の高水準消毒薬であり、セミクリティカル器具、特に軟性内視鏡の消毒に使用される。金属、プラスチック、ゴムに対する影響は少なく、グルタラールと異なり緩衝化剤の添加の必要はない。医療器具の消毒薬として 0.55%製剤が市販されている。

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌、結核菌、芽胞、ウイルスに有効である。抗酸菌、ウイルスに対してグルタラールよりも短時間で有効であるが、芽胞数を減少させるにはグルタラールよりも長時間が必要であり60)、殺滅には32時間の接触が必要である59)。また、グルタラールに抵抗性を示すMycobacterium chelonaeに対しても有効であった(≧5 log、10分間以内)とする報告がある60)

③作用機序
アルデヒド基が菌体の細胞外膜や細胞外壁の一級アミン、―SH基並びに蛋白 と結合し、殺菌効果を示すと考えられている。

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)
 
0.55w/v%フタラール 医療器具
⑤主な副作用
粘膜刺激性はグルタラールより少ないといわれているが、取り扱い時にはマスク、ゴーグル、手袋、ガウン等をする必要がある。蛋白など有機物を灰色に染色するため、誤って皮膚、粘膜が接触すると接触した部分は変色する。フタラールで消毒した医療器具を使用した際に、ショック・アナフィラキシー様症状、水疱性角膜症、口唇・口腔・食道・胃等の着色、粘膜損傷、化学熱傷等が生じたケースがある65、66)。したがって、浸漬後は十分にすすぐことが重要である。 なお経尿道的検査または処置のために使用する医療器具類および超音波白内障手術器具類には使用不可である。

⑥その他の注意
・人体に使用しないこと。
・誤飲を避ける。
・誤って接触した場合には直ちに水で洗い流す。
・換気の良い場所で取り扱うこと。
・5分間浸漬では十分な殺芽胞効果は期待できないので注意すること。
・洗浄水混入による濃度低下に注意すること(濃度が0.3%以上であることを確認し、使用すること。また14日間を超えて使用しないこと)。
・医療器具等は使用後、速やかに十分洗浄し水切りをしたのち、本剤で消毒すること(洗浄せずに直接本剤に医療器具等を浸漬すると、生体組織や分泌物の付着が取れにくくなることがある)。

2)その他の高水準消毒薬

(1)過酢酸3~5、67、68)

芽胞を含むすべての微生物に有効な消毒薬である。0.2%液はグルタラールより短時間で芽胞を減少させ、50~56℃であれば12分で殺滅する59)。過酢酸は酢酸、過酸化水素との平衡混合物であり、酢酸、過酸化水素、水、酸素に分解するため環境に対して害が少ない。過酢酸の作用機序はほとんど知られていないが、他の酸化剤とほぼ同じであると考えられている。国内では6%過酢酸が市販されており、0.3%にまで希釈して使用する。主に専用の自動洗浄器を利用して内視鏡の消毒に使用されている。また、透析機器の消毒などにも使用されている。有機物の存在下においても不活性化が少なく、低温においても芽胞に対して効果がある。殺菌力はpHに依存しpHが低いほうが殺菌力を発揮する。

しかし、銅、真鍮、青銅、純鉄、亜鉛メッキ鉄板などを腐食しやすい。希釈した液は加水分解しやすく、1%溶液は6日間で濃度が半分に低下する。

短所として刺激臭があり、蒸気は眼・呼吸器等の粘膜を、原液は皮膚を刺激する。したがって、取り扱い時には換気をしてマスク、ゴーグル、手袋、ガウン等を着用する必要がある。

(2)過酸化水素1、3~5、67)

高濃度の過酸化水素はグルタラールにほぼ匹敵する殺菌効果と抗微生物スペクトルを持ち、欧米においては、6%以上の安定化過酸化水素が眼圧計、ベンチレーター、軟性内視鏡など医療機器の高水準消毒に利用されている。7.5%製剤は20℃30分で高水準消毒を達成し、20℃6時間で芽胞を殺滅する59)(オキシドールは過酸化水素を含むが2.5~3.5w/v%であり、詳細は、4 その他の消毒薬 2)オキシドール参照)。なお、過酸化水素ガスをプラズマ化して低温滅菌を行う装置が国内でも市販されており、過酸化水素の蒸気を利用した高温滅菌装置も2009年10月に製造販売承認された。

(3)二酸化塩素5、40、69、70)

二酸化塩素は芽胞を含むすべての微生物に有効な塩素系化合物である。微生 物に対する作用機序は明確でないが、蛋白変性などが考えられている。英国では経鼻内視鏡や軟性膀胱鏡などに高水準消毒薬として使用されているが71、72)、米国FDAは高水準消毒薬として認可していない。また日本においても医薬品としては承認されておらず、主にパルプの漂白や除菌用品などとして使用されている73)

 

4 その他の消毒薬

1)アクリノール水和物7、8)

①特徴
色素系の生体消毒薬として古くから用いられている。生体組織に刺激を与えず深達性で血清蛋白の存在によって作用が減弱されないため皮膚・粘膜の化膿局所に使用される。作用は殺菌的というよりも静菌的であり、特にグラム陽性菌に対して有効である。

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌に有効であるが、長時間の接触が必要である。 Candida alblicansに有効であるとの報告74)はあるが、抗酸菌とウイルスに関するデータはない。芽胞には無効である。

③作用機序
作用機序は明確ではないがアクリニジウムイオンとなって細菌の呼吸酵素を阻害するためといわれている。また、アクリジン色素は核酸に影響を与えるともいわれている75)

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果)

0.05~0.2%アクリノール水和物液 化膿局所(泌尿器・産婦人科術中術後)、化膿性疾患(せつ、よう、扁桃炎、副鼻腔炎、中耳炎)、口腔領域
0.05~0.1%アクリノール水和物液 含嗽
⑤主な副作用
塗布部の疼痛、発赤、腫脹などがあらわれることがある。さらに潰瘍、壊死を生じることがある。過敏症状があらわれることがある。

⑥その他の注意
・アクリノールガーゼによる微生物汚染が報告されているので、アクリノールガーゼを調製・使用する際には汚染に注意する。
・アクリノールで着色すると脱色しにくいので必要以外のものに付着しないように注意する。

2)オキシドール1、3~5、7、8、67)

①特徴
日本において2.5~3.5w/v%過酸化水素水はオキシドールと呼ばれ、創傷・潰瘍部位などの消毒に使用されている。過酸化水素は粘膜や血液に存在するカタラーゼにより分解されるため、創傷・潰瘍部位において殺菌作用を発揮するのは瞬間的であると思われるが、毒性が低く、また分解時に酸素の泡を放出して洗浄作用を発揮する。また過酸化水素はコンタクトレンズの消毒薬(一般用医薬品)としても国内で利用されている。この利用法の場合、過酸化水素が残留すると眼を刺激するので、中和を完全に行いよくすすいで使うことが必要である。

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、酵母、ウイルスに有効である。グラム陽性菌に対するよりもグラム陰性菌に対する効力のほうが強い。(その他の高水準消毒薬を参照)

③作用機序
ヒドロキシルラジカルを発生することにより、脂質膜、DNA、細胞内容物を攻撃すると思われる。

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)

オキシドールまたは2~3倍希釈 創傷・潰瘍
オキシドールまたは2~10倍希釈(耳科の場合、グリセリン、アルコールで希釈) 耳鼻咽喉
オキシドールまたは2倍希釈 口腔粘膜、齲窩、根管、歯
10倍希釈 口内炎
⑤主な副作用
・連用により口腔粘膜が刺激される場合がある。
・眼に刺激性をもたらすので、眼科用器具に使用した場合はよく水洗いする。

⑥その他の注意
・長期間または広範囲に使用しない。
・眼に入らないよう注意すること。入った場合には水でよく洗い流すこと。
・易刺激性の部位に使用する場合には、正常の部位に使用する場合よりも低濃度にすることが望ましい。
・深い創傷に使用する場合の希釈液としては、注射用蒸留水か滅菌精製水を用い、水道水や精製水を用いない。

3)トリクロサン12~14)

①特徴
トリクロサンは一般細菌に対する殺菌力に加えて、ブドウ球菌などグラム陽性菌に対する静菌力において優れた効力を持つ抗菌成分である。手指などの皮膚に適用した場合、良好な持続効果や累積効果を発揮する。日本においては0.3%含有製剤が薬用石けん(医薬部外品)として手指・皮膚の消毒に使用されているが、欧米においては0.3ないし2%含有洗浄剤が医療機関における衛生的手洗いや手術時手洗いなどに繁用されている。0.3%トリクロサン製剤の皮膚細菌叢に対する減菌効果は2%クロルヘキシジングルコン酸塩製剤よりも弱いと報告されているが、一方1%トリクロサン製剤のMRSAに対する効果は4%クロルヘキシジングルコン酸塩製剤よりも優れているとする報告もある12)

②抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌に有効である。グラム陰性菌に対するよりもグラム陽性菌に対する効力のほうが強い。真菌に対する効果は弱いと考えられ、ウイルスに関するデータは少ない。

③作用機序
細胞壁を破壊することにより殺菌作用を示すと思われる。

④適用範囲

0.3%トリクロサン液(界面活性剤を基剤に、医薬部外品の薬用石けんとして) 手指
0.5%トリクロサン液(エタノールを基剤に、院内製剤例) 手指
0.5%トリクロサン液(1/40mol/L NaOH液を溶剤に、院内製剤例) 器具、物品
⑤主な副作用
過敏症があらわれることがある。

⑥その他の注意
・トリクロサンを廃棄処分する際の燃焼処理温度が低いとダイオキシンを生成する可能性があると懸念されている。
・次亜塩素酸やジクロルイソシアヌール酸などに対しては不安定である。
・紫外線や高温下に長く放置するとトリクロサンは変色するが分解はほとんどない。

4)ホルマリン2、3~5、7、8)

①特徴
一部の芽胞を除くすべての微生物に有効であるが、毒性が強く繁用に適さないので本テキストではその他の消毒薬に分類する。日本薬局方ホルマリンはホルムアルデヒドを35.0~38.0%含有する水溶液であり、重合によるパラホルムアルデヒドの生成を防止するためメタノールが5~13%添加されている。ホルマリンは室温において眼・呼吸器系粘膜に対する強い刺激のある蒸気を発生し、 皮膚炎、喘息、肺炎などを誘発する。また動物実験においては発癌性と催奇形 性が報告されている。このような取り扱い者に対する毒性を考慮すると、ホルマリンによる環境消毒やホルマリンボックスによる器具消毒を行うことは避けるべきである。

②抗微生物スペクトル
一部の芽胞を除くすべての微生物に有効である。Clostridium sporogenesに対して無効の報告がある。

③作用機序
ホルムアルデヒドは蛋白質のアミノ基やメルカプト基、プリン塩基の環状窒素原子のアルキル化により微生物を不活性化する5)

④適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)

1~5%ホルムアルデヒド液 医療機器、手術室・家具・器具・物品(ごく限られた場合のみ使用)
ガス消毒法 医療機器、手術室・家具・器具・物品(ごく限られた場合のみ使用)
原液+クレゾール等を添加 歯科領域における感染根管の消毒
⑤主な副作用
ホルマリンガスは低濃度(0.05ppm)で眼・呼吸器系粘膜を刺激し皮膚炎、喘息を引き起こすことがある。高濃度(20ppm)では短時間の接触においても、肺炎を引き起こすことがある。また、動物実験で発癌性、催奇形性が報告されている。

2007年12月に特定化学物質障害予防規則(特化則)が改正され、ホルムアルデヒドが第2類物質とされることに伴い、これを製造し、または取り扱う屋内作業場については、作業環境の濃度測定が必要となった(管理濃度:0.1ppm)76)

歯科領域における感染根管の消毒において根尖孔外に溢出した場合に歯根膜に過刺激が加わり歯根膜炎を起こすことがある。

⑥その他の注意
・皮膚、粘膜(目、鼻、咽頭など)に刺激作用があるので、皮膚、粘膜に付着しないようにする。
・付着した場合には多量の水で洗い流すこと。
・蒸気は呼吸器等の粘膜に刺激作用があるので吸入を避ける。
・消毒後、残留するホルムアルデヒドは適切な方法で除去すること(例えば、水洗い、アンモニア水の散布、蒸発など)。
・高温であるほど消毒効果が高まるので18℃以上に保つようにすること(ガス消毒の場合は、同時に湿度も75%以上に保つこと)。
・ホルマリンにより変質を来たすもの(ある種の染色製品、革製品など)がある。
・アンモニア、水酸化アルカリ、蛋白質および重金属、ヨウ素などの易還元性物質が共存すると本剤の作用が減弱される。
・寒冷時に混濁することがある。

消毒薬テキスト

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